見出し画像

利便性の影

 職場でカルテが電子化された影響だったのだろうか、それとも世の中の流行に流されたのか、5年程前から我が家にも紙(ペーパー)レス化が浸透し始めた。惰性で契約していた新聞を解約すると廃品回収時に出す紙の量が随分と減った。少し世の中に貢献している気分になる。週刊誌や書籍も買うのをやめたし、我が家の紙媒体はここ2,3年ですべて処分した。手書きの日記も去年辞めてnoteというSNSを利用するようになった。同時にそれまで書き溜めてきた日記たちにも別れを告げた。忘れないようにするためのメモ帳も我が家では完全に絶滅し、スマートフォンとPCの中にメモされている。
職場では昨年の4月から1人1台タブレット端末が支給されカンファレンスの資料や議事録もすべて電子化されポストイットすらも姿を消した。

職場においても我が家においても私の机はここ数年で随分とすっきりした。身辺がスッキリするとなぜだか心もスッキリした気分になる。そんなこともあってか、我が家ではキャッスレス化の波もやってきた。ほぼ毎日のスーパーで買い物やコンビニでの支払いは、すべてスマートホンで済ますようになり、小さなガマ口の財布に小銭を忍ばせているくらいでほぼお札を持ち歩かなくなってしまった。以前持ち歩いていた中身はわずかな大きな財布や日記帳にメモ帳と筆記用具これらすべて私のバック内で完全に絶滅している。持ち物が減るとやっぱり気分もスッキリする。ついでに言うと我が家もついにボットン便所から浄化槽を設置し水洗トイレに改装した。ウォシュレット最高。そしてペーパーレス、キャッシュレス最高。

そう思っていた。一月前までは。

フィリピン沖の海底火山の噴火をきっかけに連鎖的に大地震が起こったのだ。以前からいつ来てもおかしくないと言われていた南海トラフ巨大地震。地震による家屋崩壊や津波により多くの方が亡くなった。断水や停電は続いているものの、幸い我が家は何とか命をつないでいる。我が家族である柴犬の松と保護猫出身のニャー隊長、彼らがいるため自宅で生活している。救援物資で何とか生き延びている。快適と思っていたオール電化にペーパーレスにキャッシュレス。ちょっぴり後悔している。

汚物用の袋をセットした便座に座り、使い切ったトイレットペーパーの芯を見つめながらこうつぶやいた。

「おおかみよ!」ついに私は紙に見放されてしまったのだ。


(982文字)

最後までお読みいただきありがとうございます

はじめての応募になりますが、よろしくお願いいたします。

#秋ピリカ応募

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?