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【じっくり解説】サステナビリティ会計基準委員会(SASB)スタンダードとは?〜国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)基準との関係〜

本日はスタートからじっくり解説していきます。

ISSBとSASB


ISSBがサステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(S1)と気候関連開示(S2)を定めた目的は、開示の一貫性と比較可能性をグローバル規模で高め、サステナビリティ関連の財務情報開示を行う企業を支援することです。

ISSBは、さまざまな企業が採用できる基準を開発し、それを拡張性のある方法で導入することに取り組んでいます。彼らの最近の活動からはその努力が顕著に汲み取れます。2024年1月1日に予定されている基準の発効と同時に、企業は自信を持って開示報告が行えるようになると私は考えています。

一方で、多くの企業は、気候関連データの開示報告に関して、すでにしっかりした基盤を持っています。そういった事実もあり、「気候関連開示(S2)」は、現在世界中で広く採用されている、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨事項とGHGプロトコルに根ざした基準となっています。

ISSBは今後、他のサステナビリティ関連課題に関する基準も徐々に整備していく計画を持っています。より広範なサステナビリティ関連課題の開示を支援するため、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(S1)」では、報告企業に対し、産業固有の指標に対するサステナビリティ会計基準審議会(SASB)スタンダードの導入検討を指示しています。SASBスタンダードは現在、世界中の2,500を超える企業で採用されており、ISSBも、同スタンダードのもとでより一貫した開示報告プロセスが必要であることを認識しています。ISSBは現在、SASBスタンダードが提供する産業ベースのアプローチが、開示報告に関わるすべての組織・機関にとってより使いやすくなるための構造作りを進めています。

柔軟であること:まず気候データから始めよう

SASBスタンダードに馴染みがない企業を支援するため、報告初年度に関しては、「気候関連開示基準(S2)」を用いた気候関連開示を優先することを、ISSBは今年の4月に公表しました。

これにより、サステナビリティ報告の初期段階にある企業は、まず気候関連の情報開示に集中できるようになりました。このように気候分野の開示に最初の焦点を当てることで、企業はサステナビリティ業界における開示報告プロセスに慣れ、実行に必要な体制を確立することができます。

ISSBは以下のことを示唆しています。「投資家の意思決定には、より広範なサステナビリティ関連情報が必要であり、今後ますます不可欠となってくるという事実がある一方で、投資家にとって気候関連の情報取得の緊急度が一番高い」。投資家に一貫性の高い、比較可能な情報を提供するには、企業が柔軟な方法を駆使しながら開示報告能力を培う必要がありますが、まずは気候関連情報の開示のみから始めることで、ある程度の時間的猶予を持って開示業務に取り組むことができるでしょう。このような配慮は、企業の報告能力を高めるためのISSBの他の取り組みを補完するものでもあります。たとえば、1年をかけて段階的にスコープ3開示を実施するといったものです。

まず、気候関連の情報開示から始めようということになりましたが、SASBスタンダードを利用し、より広範なサステナビリティ関連情報の開示を行う準備がすでに整っているという企業は、その限りではありません。最初からできる限り広範囲な開示報告を進めてもらいたいと思います。次のセクションでは、SASBスタンダードと、ISSBが進めているその他の重要な施策に焦点を当てます。

SASBスタンダードの国際化

5月11日、ISSBは、SASBスタンダードの国際的な適用性を高めるために、グローバルなフィードバックを軸に展開するコンサルテーションを開始しました。SASBスタンダードをS1に盛り込むだけでなく、合理化し、改善するのが目的です。

SASBスタンダードは、米国で、米国の市場参加者に焦点を置いて開発されたものなので、グローバル規模では適用できない文言も含まれています。ISSBによると、SASBスタンダードの一部(約20%)は特定の法域の法律や規制に呼応するかたちで構成されています。たとえば、一部、米国の法規制に基づいた指標を用いている箇所があるため、米国以外の企業や組織が包括的にSASBスタンダードを活用することは難しくなります。とはいえ、SASBスタンダードの歴史を振り返ると、その開発がパブリックコンサルテーションの対象となっており、これまで数多くのグローバルな市場参加者が、その価値を認め、長年にわたって使用してきたという事実もあります。一方で、今回ISSBがもたらす多角的で国際的なアドバイスからSASBスタンダードが受ける恩恵は決して小さくありません。

ISSBは、SASBへのコンサルテーションに加えて、特に複数の業界で事業を行う企業に向けて、SASBスタンダードの活用に関するガイダンスを引き続き提供していく予定です。ISSBが最終的に目指しているのは、真にグローバルで、包括的で、意思決定に有用な報告体制の構築です。そういう意味で、SASBスタンダードが提供しているサステナビリティと気候に関する産業別の指標などは、ISSBの目標達成の大切なピースとなるでしょう。

次のセクションでは、より大きな視野から、SASBの概要や、企業や投資家はなぜ、今後サステナビリティ報告基準の中核となるであろうSASBスタンダードに注目する必要があるのかを解説します。

SASBスタンダードとは

SASBスタンダードは、企業と投資家に、サステナビリティの財務的影響に関する共通言語をもたらすため2011年に誕生しました。そして、1. 企業が産業ごとに財務的に重要と考えられる課題に取り組み、2. 投資家にとって比較可能な情報生成を支援する目的で開発されたのがSASBスタンダードです。

現在、SASBスタンダードは77業種の企業に対し、各業界にとって関連性の極めて高いESGのテーマや指標に関するガイダンスを提供しています。SASBスタンダードは世界中で広く使用されており、調査が行われた 2020年時点で2,500社を超える企業で採用されているだけでなく、世界の28市場における300以上の機関投資家(総資産額8200億ドル)にも支持されています。

SASBは設立当初は独立した基準設定機関でしたが、2022年にISSBの一部となっています。SASBは、多様化するサステナビリティ報告枠組みに対応するため、まず国際統合報告評議会と統合し、その後、価値報告財団(VRF)を設立し、昨年8月にVRFとISSBが統合した形となっています。

SASBスタンダードは将来のサステナビリティ報告の中核に

SASBスタンダードのリソースと知見がISSBに加わったことで、一つの疑問が生じました。それはISSB が今後、包括的な開示報告を推進する上で、SASBスタンダードをどのように使用するのが最善であるかということです。この疑問に関してパブリックフィードバックを検討した結果、ISSBは2022年11月の会合で、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(S1)」にSASBスタンダードの内容を盛り込む ことを決定しました。この決定は「報告企業・組織は、サステナビリティに関連するリスクと機会を特定する際に、SASBスタンダードを考慮することが期待され、同時に、重要な情報や産業特有の指標を特定する際に、SASBスタンダードを参照することが期待される」ということを意味しています。一方で、報告企業は、SASBスタンダードだけではなく、気候変動開示基準委員会(CDSB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、欧州サステナビリティ・レポーティング基準(ESRS)など、他の基準を参考にすることも認められる予定です。とはいえ、 SASBスタンダードが一番主要な情報源となることは間違いなく、だからこそ、報告の互換性が担保されるのです。また、「気候関連開示(S2)」では、気候関連の開示項目や産業別の指標について、SASBスタンダードを例示的なガイダンスとして盛り込んでいます。

ISSBは将来、気候以外のサステナビリティ項目に関する詳細な基準設定を検討しています。基準設定においては、アジェンダコンサルテーション、公開草案の作成、パブリックコンサルテーション、そして最終審議、という各プロセスを経る必要があり、その一部はすでに開始されています。

ISSBは、今後2年間の運営計画について意見を求めるため、2回目のコンサルテーションを実施する予定となっています。コンサルテーションの主な内容は、ISSBが投資家のニーズに応えるためにリサーチ対象候補としている4つのプロジェクトに関する戦略・基準・範囲・構成案についての意見交換となります。 4つのプロジェクトは以下の通りです(最初の3つはサステナビリティ関連リサーチプロジェクト):1) 生物多様性、生態系 2)人的資本 3)人権 4) 報告書の統合

SASBスタンダード推進がもたらすもの

SASBスタンダードをよりグローバルに適用できるように強化する取り組みは、今後ますます重要になる企業のサステナビリティ開示報告に役立ちます。ISSB基準の中にSASBスタンダードが組み込まれることは、幅広いサステナビリティ報告における互換性の向上を意味します。つまり、企業は、投資家やその他のステークホルダーに自社のストーリーをグローバル規模で伝えることができるようになるのです。企業のサステナビリティに関連するリスクや機会の情報が、より簡単に理解・分析できるようになるということは、その企業に対してより多くの資本が流れ込む可能性が高まるということになり、そういった利点は、開示報告にかかるコストなどの負担を上回る結果となるでしょう。

世界中の多くの企業はすでにSASBスタンダードを利用しています。そういう意味で、ISSB基準が導入された場合も、企業にとっては、全くゼロからのスタートというわけではありません。すでにSASBスタンダードを利用している企業にとっては、ISSB基準がもたらす機会をいち早く最大限活用できることが予想されます。

一方、SASBスタンダードをこれから新規で導入していく企業は、このスタンダードが、サステナビリティ情報開示の過程を効率化・適正化にしてくれることに気づくはずです。SASBスタンダードは産業別になっているので、企業は、自社と投資家の両方にとって重要性の高い項目に集中的に取り組むことができます。今後、SASBスタンダードの国際的な適用性が高まっていくことで、ISSB基準は、あらゆる規模の企業にとって、互換性が優れ、拡張性のある包括的な基準となっていくでしょう。

投資家にとってのSASBスタンダード

産業別の情報開示がなされることで、投資家は同じ産業に属する企業のリスクや機会について比較しやすくなります。今後、企業や投資家、その他のステークホルダーは、産業別の情報を利用することで、同一産業内における企業間の、財務的に重要なESG関連のリスクや機会をより的確に評価できるようになるでしょう。

あなたの声を届けましょう

SASBスタンダードの国際的な適用性を高める目的でコンサルテーションが現在開催中で、一般の意見を2023年8月9日まで受け付けています。ISSBは集まった意見を受けて「法的に適正な手続き」に則り、SASBスタンダードの国際化に向けた更新案や修正案を検討する予定です。将来的にあらゆる企業が採用し、活用できる基準作りを目指すISSBの取り組みを応援するという意味でも、すべての市場参加者は、コンサルテーションに参加し声を届けることが推奨されています。私たちにとって、開示報告における”新しい言語”となるであろうSASBスタンダードの”辞書”編集に関わることのできるチャンスです。


いかがでしたでしょうか? 国際的なスタンダードが定まっていくというのは、企業のサステナビリティ担当者にとってはプラスかもしれませんね。
新しい言語の辞書を世界中で編集するのは、少しワクワクするお話でしょうか?

それではまた来週。
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