【イベントレポート】気候変動における規制/開示動向や地域の脱炭素化とビジネス化における最新動向(前編)

パーセフォニジャパンは、2023年12月1日にパートナー企業をはじめ、主に地域の金融機関向けにオンサイトイベントを開催しました。

当イベントでは、気候変動への規制についての世界的な流れを解説するとともに、地域金融機関への規制の影響について話がありました。

銀行をはじめとする金融機関では、自社のCO2排出量の約700倍をサプライチェーンが占めることが報告されており、金融機関にとってScope3排出量を把握し、開示していくことが喫緊の課題となっています。

セミナーは、パーセフォニジャパン代表の三浦健人の開催あいさつより幕開けいたしました。本レポートはイベントを前編後編と2本に分ける形でイベントのサマリーをお送りします。今回の記事は前編です。

では、最後までお楽しみください!


イベント概要

日付: 2023 年 12 月 1 日(金)
時間:14:00-17:30
会場:東京都江東区豊洲3-2-20 豊洲フロント
(パートナーのSCSK様のご厚意によりSCSK様の豊洲本社の会場をお借りさせていただきました)
参加者:当社パートナー、経営リーダー、サステナビリティ責任者、サステナビリティ従事者など
イベント概要:気候変動における規制/開示動向や地域の脱炭素化とビジネス化における最新動向の共有、ネットワーキング

<パネリスト&モデレーター(順不同)>
●パーセフォニ・ジャパン 三浦 健人
●パーセフォニ・ジャパン 武藤 伸之
●パーセフォニ・ジャパン 高野 惇
●株式会社みずほフィナンシャルグループ サステナビリティ企画部 参事役 齊藤 尚愛様
●株式会社三井住友フィナンシャルグループ サステナブルソリューション部 上席推進役 合田 宗弘様
●株式会社 ほくほくフィナンシャルグループ SX推進部長 島田 善朗様
●八千代エンジニヤリング株式会社 事業開発本部 サステナビリティサービス部 吉田 広人様



パーセフォニジャパン 高野惇 が語る グローバル規制、開示動向と地域金融機関への影響

まずは、パーセフォニジャパンの高野 惇より、脱炭素化へのグローバル規制と開示の動向が、地域の金融機関へどのように影響するのか説明がありました。

IPCC第6次評価報告書によって示された事実

最新のIPCC報告書によって、以下の事実が示されました。

①地球温暖化が人為的なものによって起きていることが疑いのない事実であること

②2022年の世界平均気温が工業化前の1855年と比較して既に1.15度上昇していること

報告書では、3度以上の地球温暖化が続けば、大雨、洪水、干ばつなどが極端に増えていく未来が示されています。パリ協定で明示された、世界の平均気温の上昇は、産業革命以前に比べて1.5度に抑えるという目標に向けて、もはや待ったなしの状況です。

2023年11月30日から始まったCOP28では、温度上昇を1.5度に抑えるという目標達成に向けて、世界全体の進捗を評価する制度「グローバル・ストックテイク」も実施されるでしょう。

 

これまでの取り組みと問題点

これまでも、CO2を多排出する産業には、エネルギーの直接使用に伴う排出量の開示などが求められていましたが、開示の際に以下のような問題点がありました。

 ・多排出産業以外の産業では、情報開示が任意

・規制や基準に統一がなく、乱立していた

 そこで、上述のような問題を解決するために、国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)が設立されました。ISSBでは企業がESGなどに含む非財務情報開示の国際統一基準が策定され、今後ルールが統一されていく予定です。

 

ISSBの新ルール

2023年6月に開催されたISSBでは、非財務情報開示の新ルールとしてTCFDをベースにしつつ、以下の点を強調する形で、最終決定されました。

① 接続性
 投資家が、気候変動関連情報を財務情報と一緒に確認できる仕組みを導入
② 網羅性
 温室効果ガスが気候変動に対して、短中期的にどう影響するかを解明、企業価値への影響を把握
③ 包括性
 開示、目標設定、戦略などを記載するだけでなく、ガバナンスや移行計画、予想される定量的な財務への影響なども記載

 今後は全産業を対象に、上記の新ルール適用が見込まれます。

また、企業は自社自体のCO2排出量だけではなく、自社をめぐるサプライチェーンのCO2排出量も把握し、開示しなければなりません。

2022年のCDP調査では、サプライチェーンによる排出量が、企業活動での直接排泄量の11.4倍にあたるという事実が報告されています。金融機関においては、自社排出量の約700倍を投融資先が排出しているというデータも。

これらを把握して開示、管理していくことが、地球温暖化対策のためには重要なポイントとなってくるでしょう。

このISSBの新ルールを、証券監督者国際機構が適切であると判断して推奨したことで、今後は世界規模の規制が展開される予定です。

 

各国の気候関連情報開示に関する規制状況 今後の見込み

ISSBをベースとした開示規制の現状は、以下の通りです。

 <各国の現状>
・シンガポール
 ISSBに基づいた開示を2026年を目途に開始。
 
・アメリカ・カリフォルニア州
 SB253という州法が可決。カリフォルニア州で事業を行う売り上げ10億ドル以上の企業にScope1、2、3の開示義務、1、2については合理的保証も取らなければならない。開示情報に虚偽があった場合には罰則規定も設けられている。

 ・EU
 2023年1月に企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が発効される。これによりサステナビリティに関する情報開示が強化され、報告義務対象が拡大する。 特にEU域内の企業は注意が必要です。CSRDでは、企業に対し、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいた報告を要請しています。ESRSでは、気候変動のみならず、汚染水問題や生物多様性などの観点からの報告が要求されるため、今後他のサステナビリティ・ルールについても検討していかなければならないでしょう。
 CSRDの対象となる企業は2024年以降、企業形態によって段階的に実施される予定です。

 SSBJにおける国内ルールの提案状況

ISSBの国内ルール整備のため、国内のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)において、現在算定・開示に係る議論が進んでいるところです。金融機関に関連する論点としては、以下のものがあります。

論点① ファイナンスド・エミッション(投融資先の温室効果ガス排出量)
金融機関は投融資先のGHG排出に寄与したとみなされ、投融資額の割合に応じてその一部を間接的に排出したものとみなされます。問題となるのは、排出量データの入手が難しいということです。取引先での計測が難しい場合、銀行が独自に推測しなければなりませんが、その場合の負担が大きく、データの比較が困難という問題もあります。

論点② Scope3の算定対象カテゴリー
Scope3の絶対排出量の100分の1以下になるカテゴリーがあれば、カットオフの対象とすること。また、初年度は同業他社のインダストリーの平均値を見て、大きいと想定される上位三つのカテゴリーに絞って報告していくことが提案されています。

 これらの論点を取りまとめ、2024年3月末までにはパブリックコメントに向けた草案が出てくることが見込まれています。

 

株式会社みずほフィナンシャルグループ サステナビリティ企画部参事役 齊藤尚愛氏が語る PCAF Japanの概要とみずほのFinanced Emissions計測への取り組み

続いて、PCAFJapanの議長社であるみずほフィナンシャルグループの、齊藤尚愛氏より、その取り組みについての説明がありました。

PCAFとは

金融機関の投融資に関連する排出量の算定開示手法を開発するため、2015年オランダの金融機関によって設立された、グローバルなパートナーシップです。弊社、みずほフィナンシャルグループは、本邦初の金融機関として2021年に加盟しました。現在では、世界で450を超える金融機関が参加しています。

PCAF Japan coalition の概要

PCAF Japan coalition (以下、PCAF Japan)は、PCAFに加盟する本邦金融機関において、排出量の計測に係る参加者同士のコラボレーション、ベストプラクティス、知見の共有を促進するため、2021年11月に発足した団体です。

6社からスタートし、現在では25社の金融機関が参画しています。


<活動内容例>

・年度ごとにワークプランを立て、参画機関の取り組みの高度化に資する活動を推進

・四半期ごとに定例会を開催し、取組事例の発表や、PCAFで発表される文書などに係る議論を実施

・本邦金融機関に共通的な課題を洗い出して外部ステークホルダーとの意見交換を実施

  

ファイナンスド・エミッションの算定

金融機関のビジネスを通じた温室効果ガス排出量の構造において、最も大きな割合を占めるのは、Scope3の下流部分にあたる、ファイナンスド・エミッション(投融資を通じた排出量)です。

金融機関として、排出量をマネジメントし脱炭素化を促進していくためには、まずは排出量を測っていかなければなりません。PCAFでは、金融活動に伴う排出量算定方法のスタンダードとして、以下の三つのパートで構成されるガイダンスを発信しています。

 

【パートA】
投融資を通じた排出量(ファイナンスド・エミッション)の算定方法を定めるガイダンス。7つのアセットクラス別に示されている。

【パートB】
資本市場活動を通じた排出量(ファシリテイティッド・エミッション)の算定方法を定めるガイダンス。証券会社が主に対象であり、事業会社の株式や債券の発行の引受業務を行う場合、その活動に伴う排出量を算定する。

【パートC】
保険関連の排出量(インシュアランス・アソシエイティッド・エミッション)の算定方法を定めるガイダンス。主に損害保険会社のビジネスにおいて、その保険引受を通じてどのくらい排出量に影響しているのかを測る。

排出量の種類・アセットクラスごとに細かな違いはありますが、投融資先の企業価値・GHG排出量に対して、金融機関がどの程度のシェアを占めているかを算出するのが、基本的な考え方です。

【PCAFにおける、ファイナンスド・エミッション算定の基本的な考え方】
投融資先における当該金融機関の投融資割合(帰属係数)× 投融資先のGHG排出量

 みずほフィナンシャルグループのファイナンスド・エミッション算定状況


みずほフィナンシャルグループでは、2020年度からファイナンスド・エミッションの算定に取り組み、年を追うごとに徐々に範囲を拡大してきました。

 <2020年度から2021年度の取り組み>

Scope3計測の第一歩として、発電事業向けプロジェクトファイナンスを対象としてGHG排出原単位を試算。

・対象アセット: プロジェクトファイナンス
・対象セクター: 電力(発電)
・対象社数・プロジェクト数: 国内外 約320
・結果: みずほの試算値は、2019年の世界平均値、アジア太平洋平均値、日本平均値より低水準にあることを確認。

 <2021年度から2023年度の取り組み>

対象アセット・セクターを大きく拡大

・対象アセット: プロジェクトファイナンス、コーポレートファイナンス、自己勘定投資
・対象セクター: TCFD提言における開示推奨項目等に基づいた19セクター、およびその他セクター
・対象社数・プロジェクト数: 国内外 約21,500
・結果: みずほのファイナンスド・エミッションの全体感、セクターごと・排出量種類(Scope1,2およびScope3)ごとの状況を把握。

 <今後の課題>

・計測の目的に応じた優先順位を踏まえながら、対象範囲の拡大、データ品質の向上、効率的な計測プロセス構築を検討

GHG排出削減計画策定に向けたステップ

環境省が開示している、GHG排出削減計画策定ガイドブックには、段階的なステップとしてStep0からStep5までが示されています。

Step0: 経営課題としてのGHG排出削減の重要性を理解する
Step1: 排出削減に向けた将来の事業環境変化を見通す
Step2: 自社のGHG排出の現状と今後の見通しを把握する
Step3: 排出削減のための取り組みを構想する
Step4: 目標達成に向けたロードマップを策定する
Step5: 自社の取り組みを社内外のステークホルダーに伝える

まずはStep0として、経営課題としての重要性、経営陣の理解を得ることが、最初にして最大のハードルかもしれません。気候変動対応などの取り組みが、企業価値に大きく影響を与える要因になるのだと認識共有していくことが重要だと思います。

本日は「足元を知る」という観点で、Step2のところを中心に、PCAFの算定手法を用いて金融機関のGHG排出量の現状を把握することをご説明しました。この後も、Step3、4、5とステップが続いていきます。私たちみずほも日々悩みながらですが、本日ご参加の金融機関のみなさまと同じ方向を向いて、ともに歩みを進めていきたいです。


 

このイベントを通じて、地方金融機関のみなさまにサステナビリティに関する行動変容のヒントがお届けできていたら幸いです。またnoteを読んで頂いた皆さんにも、会場で披露されたお話やノウハウが届きますように。

気になるセミナーの後半レポートは、次回のnoteにてお届けします。

 

それではまた、次回の更新をお楽しみに!


 

ご質問やご意見もお待ちしています。

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