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院内見聞録 プロローグ1

2020年の秋に乳がんの診断が出た。自分ががんであると聞かされたとき、多くの人が「どうして、わたしが?」と思うらしい。しかし、わたしが最初に思ったのは「ああ、またやってしまった!」ということだった。気をつけていたのにまた同じ轍を踏んでしまった…。
一体、どういうことか? 順を追ってお話しさせてください。

実は乳がんの疑いがあると言われたのはこれが初めてではない。2007年に母親が二度目の乳がんになったのをきっかけに、もう一度がんについて調べ直しているときに気になる症状が目についた。乳首からの分泌物の有無である。ときどき黒いブラに塩の結晶のようなものがついていることがあったのだけど、ジムでかいた汗のせいで塩を吹いてるのだと勝手に思い込んでいた。でも、それを読んだときに「あ、あれは分泌物だったのか」と思い当たり、関西の実家近くの母の入院先で診察を受けた。非浸潤がんの可能性が高いという。ただし、わたしは東京に住んでいるので、当時、乳がんの名医がいるといわれていた東京の病院に紹介状を書いてもらった。

わたしはがっくりと落ち込んでいた。というのも時を同じくして、というかその3日ほど前に遠距離恋愛中だった男から「ごめん、今付き合ってる子がスウェーデンから来るから日本には行けなくなった」というメールを受け取ったばかりだったからである。(おい、付き合ってる子ってわたしとちゃうんかい)

泣きっ面に蜂? 弱り目に祟り目っていうの? なんでわたしが? とは思わなかったが、なんでこのタイミングで? とは思った。さすがのわたしもこのときは泣いた。涙の理由は完全に、失恋>がん告知だったけれども。そして同時になぜがんになったのか分かった気がしたのだった。

そのメールを受け取るまでの1年ほど、わたしはずっとモヤモヤしていた。彼のそのあいまいな態度に、何度も同じ問いが去来していた。「一体、わたしのことをどう思っているの?」と。しかし、こういう問いかけをメールでするとこじれそうだから、会ったときに聞こうとずっと胸にしまっていたのだった。しまっていたのに、そっちはたった一通のメールで言うんかい。そう、この言いたいのに言えない胸につかえたモヤモヤが結晶化してがんになったに違いない。

あ、先に言っておきますが、この先、特に医療的なエビデンスのない自説とスピってる話が出てきます。もし、あなたが「エビデンスは?」とか「ソースはどこ?」とか反論したくなったら、書き手の名前を見て。全部寝言だと思ってください。

はい、注意喚起しましたからね。続けます。

このがんがモヤモヤの結晶だとすれば、もとはと言えば自分で作り出したもの。わたしはDIYが趣味だから分かるのだけど、自分で作ったものなら自分で直せるものなのだ。そしてその頃わたしはホドロフスキーの「リアリティのダンス」の原書をチビチビと読んでいた。このホドロフスキーという人は日本では一般的な知名度が低いので補足しておくと、カルト映画の監督であり、サイコマジック(心理魔術)というセラピー術を編み出した人物であり、タロット研究者でもある。彼の著作をいくつか読むうちに、自分の心に魔法をかけることができたなら、ほとんどの病気は治せるという確信を得た。

自分の心に魔法をかけること、つまり自分を信じ込ませることの効果は、いわゆるプラセボ効果でも立証されている。ならやってやろうじゃんか。紹介してもらった病院には東京に戻ってすぐ連絡したが、予約が取れたのが年が明けてからだった。診察を受けるまでの数カ月にこれを試してみよう、自分でどこまで治せるかやってみようと思った。(続く)

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