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鼻水とペース配分とコシアブラ

鼻水が止まらない。この液体はどこからやってくるのだろう。脳みそだったら治る頃には相当に呆けているに違いない。

その予兆なのか呆としている私を置き去りして、夫はまた早朝から釣りに出掛けた。家にいても役に立たないので、もうその方がよいかもしれない。

熱がないと若干元気もある。夕飯のミネストローネを拵えても多少余力があるが、余計なことを考えて消耗するのが嫌なので、アマプラで当たり障りのないドラマを見ている。

どうもこうもない青春恋愛ドラマだが、主人公が好みのタイプの美少女なのでただ見ているだけで眼福。眼といえば美少女の彼氏候補の俳優さんは「海のような」と形容される瞳の持ち主。こんな目で見つめられたら溺れ死んでも致し方ないよなと見入っていたとき

なぜかふと、2日程前から夫の右鼻からこんにちはしている鼻毛のことを思い出した。そして祈った。ああ神さま、お願いです、私の鼻水を止めて下さい。その代わり夫の鼻毛が秒速2mで伸びても構いません。

そしたらなんだかすっきりした。でもそれはほんの一瞬のこと

夕方、夫がイワナ3匹とヤマメ2匹とコシアブラを携えて帰ってきたのだ。身も心も弱った妻に天ぷらを揚げさせようというわけか

そうか、そうなのか。でも私は嫌な顔一つすることなく調理の下準備を始める。

夫が勝手に一人で計画していたGWの旅行はキャンセルしてもらった。「温泉入れば風邪なんてす〜ぐよくなるって〜」と相変わらず人の体調やペースを考えない夫に、Noといえない私が頑張ってNoといった。

でも何度もNoということはできない。それは悪いから。風邪をひいた私が悪いから

自動的にそう思ってしまう。そして私が罪悪感から多少の無理は聞いてくれると夫は確信している。私にはわかる。そうじゃなきゃしないようなことを夫は繰り返し、私は弱っていく。

「俺が体調を崩さないのは、絶対に自分のペースを乱さないから」とドヤる夫

そうよね。人のペースは乱しても自分のペースは乱さないのよね

ムカつくが、ここは批判するより見習うべきところだ。なにせ私は自分の感情すらわかりかけたばかりの人間で、自分のペースを理解したり伝えるところまで未だ全く到達していない。

いつか私にも、自分を掴んで上手にペース配分したり、誰かのペースを程よく撹乱したり、さらには相手に多少無理をさせて得た利益にほくそ笑んだりできる日がやってくるのだろうか。

そんな輩にはなりたくないと思いつつ、そうなれたらどんな気持ちなんだろうと憧れのような夢想から緩やかに目を覚ます、火傷するから

味見したコシアブラは美味しかった。私の鼻でさえ真っ当な春の香りがした。

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