私が将棋を指す理由

私は将棋を指す。

最近はネット将棋ばかりだが。

そして弱い。はっきり言って嫌になるほど弱い。

理由はわかっている。勉強をしていない。

詰将棋も解かないし(7手詰め以上の詰将棋は正直解こうとも試みない)棋書を読み込んで戦法を学習したりもしない。

面倒臭いし。つまらないから。

符号だらけの本見ると具合が悪くなる。

もっぱら実践、しかも平日の昼休みにカップラーメンをすすりながら3〜4局やる程度、それだって上司にランチに呼ばれた日はやらない。

将棋は罪作りなゲームだ。

アラフォーに差し掛かったしがないサラリーマンの日常生活において

これほど本気になって感情が動く時間はない。

それがたまらない。

嫌な負け方をするとハラワタが煮えくり返ってモニターを持って暴れ回りたくなるほど悔しい。

弱いくせに。

自分なりに快心の勝利を収めると将棋プレイヤーとしてはあるまじき、ではあるが正直、モニターのこっち側でガッツポーズをすることもある。

弱いくせに。

何よりカップラーメンの残った汁をすすりながら棋譜を眺める一人感想戦の時間はたまらないものがある。

本気のプレイヤーからすると向上心の無い舐めきった人間に見えるだろうが

自分は満足している。

将棋の門のノックに躊躇している人からすると難しそうとかボコボコにされそうとかとっつきにくい部分があるのはわかる。

が、はっきり言って杞憂だ。やりゃあわかる。

将棋は同レベルの相手とやらないと面白く無い。

弱い相手に勝っても全くの虚無だし明らかに格上に負けても別に悔しくは無い。

そして同レベルの相手はインターネットの向こう側にいくらでもいる。

偉そうに語る高段者だって羽生さんや藤井さん相手ならアイマスクさせようが人質を取ろうが数分後には泣きながら土下座で「負けました」だ。

極端に言うとすこしばかり強くなってくると判断が早くなるので「負けました」の発声タイミングが早くなるくらいなもんだと思っている。

私が真面目に勉強をしようという気が湧かない理由がまさにそこにある。

強くなったところで次の舞台の強敵にまた同じようにボコボコにされるのが目に見えているので終わりが無いのだ。

その終わりの無い戦いに果敢に挑む勇者をバカにする気は全く無い。

というか普通に尊敬する。

単純に趣味の草野球のために早起きしてランニングをしたり会社終わりに筋トレをしたり高タンパク低カロリーな食事を心がけようという気が湧かないだけだ。

これが草野球ならサボるとチームメイトに迷惑がかかる、試合に出して貰えないなどあるだろうが将棋は完全な個人競技だ、

2〜3回クリックすればスタメン確定である。

負けてもただ悔しいだけでチームメイトに白い目で見られることも有り得ない。

日常生活において感情がそこまで動くことが無い、と書いたがそれと似た意味合いで

日常生活において超本気の本気、全力を惜しげも恥ずかしげも無くさらけ出す舞台が

ここにはあるのだ。

棋は対話である。

二つの意味でまさにその通りだと思う。

相手のとの対話。

顔も性別も年齢もなにもわからないインターネットの向こう側の人間とまさに対話をしている気がする。

ほぼ全く使ったことがないがチャット機能でチャットをするよりもお互いの人間性がわかる気さえする。

お前は絶対に性格が悪い。間違いなく嫌なやつだな。

あなたは優しい人間ですが周囲の人に振り回され易い性質です。

もっと自分を信じて踏み込むべき場面があってもいいと思いますよ。

君は辛抱が利かないね。えいやーと突っ込んでの成功体験がそんなにあるのかい?

そんなことを考えながら指している。

もいっこ。

自分との対話。

将棋を指していると驚くほど自分の知らない性格に気がつく。

強い人はきっと正解不正解をもっと先まで読めてそこに感情や人間性の入り込む余地など無いのだろうが、なにせこっちは弱い。

いくら考えたってなにもわからない場面がすぐにやってくる。

そこで自分との対話が始まる。

そうか。気がつけば俺はいつだって負けた時の言い訳を探してる。

こうやって負けたらしょうがない、とそんな手ばっかり選んでる。

そう気づくときもあれば、

普段ヘラヘラしてるけど、俺って本当はこんなに攻撃的で暴力的な性格をしてるんだな。

そう気づく時もある。

イアンソープや北島康介から見れば、私など、足のつく場所でビート板を持ってバチャバチャもがいてるに過ぎないのだが、それだって必死でもがいているのだ。無様に。

それを恥ずかしげもなく、堂々と胸を張ってやっていい場所が将棋盤の上にあるのだ。

人前で本気になるなんて恥ずかしい。かっこ悪い。

本気の人間をバカにする奴こそ恥ずかしい。かっこ悪い。

どうでもいい。

どっちも一理どころか感情面と理屈面から両方正解だとすら思う。

ただ、裸でリングに上げられて、同じような体格の人間と1対1で死ぬまで殴り合え、と言われたら選択肢など無い。

本気で叩き潰しにいかない理由など一つもない。

服を着たまま、お金も掛からず、なんのリスクも背負わずに、モラルとルールに則っとりながら同じような力量の相手と本気で戦い、対話する場所が将棋盤の上にあるのだ。

さて。

仕事をサボり過ぎた。

カップラーメンにお湯を入れるまでの時間

普段のヘラヘラした自分に戻ろう。








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