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私の好きなミルクさんの歌 011

 まるで幻灯のようにパッと脳内に広がる景色、あまりに簡単な言葉、あまりに単純な景色、落差も驚嘆も裏切りも何もない世界、なのに心に染み渡る。それがミルクさんの歌の真骨頂です。

誰しもの心に同じ景色を描き出すことの難しさを、ミルクさんはいとも簡単にやってのけます。
簡単な言葉で思考の奥深くに潜り込むことを常に追求されているからこそ、すべてのモチーフが意味を持ち、読者に静かに語りかけてくるのです。

たわわに実った柿の木、そして実を落とし冬枯れとなった柿の木、夕暮れによって影絵となった柿の木、影絵の闇を運んで来た烏、烏の持ち去った柿の実の色が反転したかのように影となる柿の木、これらもすべてが緻密に計算されています。

考えて考えて、頭を使って創られているはずなのに、ミルクさんの歌は”○○大学短歌研究会”のような、いかにも頭で作りましたというような感じがしません。
それはほんのわずかに動いた心の軌跡を丁寧に感じて辿っていることの証拠だと思います。やたらと難しい言葉や表現に固執して、さも珍しい切り口といったような見せかけだけのまがい物短歌とは決定的に違うものなのです。

「見えない空気にすら濃淡や強弱があることを常に心に留めておかなければならない」
ミルクさんはこうおっしゃって自らのセンサーの感度や精度を高く保っておられます。

ただの感想や報告か、それとも心の機微をそこに留めたものか、説明は不要でしょう。
晩秋を詠った傑作、
何かの賞をとっていても全然おかしくないすばらしい短歌です。

・柿の木が影絵のように暮れてゆく烏が色を持ち去ってから

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/