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私の好きなミルクさんの歌 013

 もしも人に何かを教える機会があれば、このような心持ちでなければならないということを心底感じる特別な経験でした。それが私がこの短歌を目にしたときに受けた第一印象です。

 0点の答案用紙に頭を抱える担任教師の姿が想像されます。頭ごなしに叱ることは簡単に出来ても、励ましをもって接したり、言葉を掛けることには多くのためらいや躊躇が頭をよぎり、うまく場をおさめることは容易ではないでしょう。
しかしその教師は数十秒後に真っ青なペンを取り出し、0の横に「等級」と大きく書き足しました。答案がその場で手渡しされたのかどうか定かではありませんが、仮にクラス全員の前で手渡されたとしても、理由を知れば生徒は嘲笑を浴びずに堂々としていられたのではないかと思います。

 出る杭の歌もそうでしたが、いつもは若い歌人の短歌をこてんぱんに評して血も涙もない非情さだけが際立つミルクさんの歌とは思えない、深い思いやりに満ちた歌となっています。同じ時間同じように机に向かったとしても、人にはそれぞれ特性というものがあります。背が高いとか足が速いとか絵が上手とか声が綺麗とか、そんな可能性の蕾を見過ごしたり、踏み荒らすのではなく、よく見て見守るという選択肢の大切さがひしひしと伝わります。

※想像になりますが、先生は
「星の輝きは余程あかるくなければ肉眼で見ることなど叶いません。誰もが明るい星と暗い星を持っていて、それぞれ見えたり見えなかったりするのです。誰が見ても輝いている星を君もかならず持っています。それが何かを見つけるために毎日少しずつ勉強しているのだと思います。」
とおっしゃったかもしれません。

教師の素晴らしい機転は、常日頃の読書や情報収集、コミュニケーションの中で培われたものなのでしょう。生徒やその親御さんにとってはこの0点の答案用紙も大切な宝物になったかもしれません。子供にもそのことが何を指し示すのかが簡単に理解でき、なおかつ背中を押すようなこのすばらしい比喩こそが百点満点なのかもしれません。

人の言葉や行動は、時として大きな人生のレールのポイントを動かす分岐点になることがあります。だからこそ常に研鑽し精進し備えておかなければならないのでしょう。

 まるで創作したような歌ですが、ミルクさんのお話ではこれは実際にあったお話だそうです。
今よりも遙かに生徒数の多かった昭和の時代に、ともすればお役所仕事のように事務的になりがちな教育の現場でも情熱に溢れる先生方が奮闘されていた様子が目に浮かびます。
「丸くなるな、星になれ」テレビからはビールのコマーシャルが流れています。
誰でもが輝く星になるチャンスを持っていることを青いインクが問いかけているのです。

・0点にしばらく黙り書き足した”等級”という光のエール

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/