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私の好きなミルクさんの歌 Vol.1

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個人的にいいなあと思ったミルクさんの素敵な歌をまとめておくものです。
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記事一覧

私の好きなミルクさんの歌 010

この歌は「心の景色」シリーズの中の一首で、私は勝手に初恋を詠った傑作だと思っています。 ・美しい紋様だから触れられず君は節度の繭に消えゆく もう恋愛映画のワンシーンのような、なんて素敵な響きでしょう。 初めてこの歌を読んだとき、30分ほどじっと浸って動けませんでした。 幾度も幾度も繰り返し読んで、この美しい調べに込められたミルクさんの狙いを理解できてからは更にこの歌が好きになり、他の歌同様に手放せない一首となりました。 詠っているのは作者側からなのですが、ミルクさんは作

私の好きなミルクさんの歌 009

この歌は「エール」と銘打たれた応援歌の中の一首です。 ・出る杭を弾いて響くオルゴール未来を鳴らせゼンマイを巻け  ぶっきらぼうな命令口調が続く、ミルクさんには珍しい形の歌ですが初っ端から攻める言葉で一気に畳みかけます。 若さや未熟さに尻込みせず、出る杭になれ。そうでなければオルゴールの音も鳴らせないではないか、未来に向かって力強くゼンマイを巻くのだ。という歌意だと想像できますが、 「出る杭」じゃないと「音が鳴らない」なんて、まさにミルクさんならではのご指摘です。 (オルゴ

私の好きなミルクさんの歌 008

今回の歌も夏を意識させるものを選びました。 ・過ぎ去った残り香だから愛おしい上がった後から匂う雨とか ただの出来事描写で終わる短歌はほんとうにたくさんあります。 「奥村晃作」さんの”ただごとうた”などが有名ですが、ミルクさんに言わせれば「短歌ですらない」とのこと。 解釈や心情、心の動きのような繊細な要素まで、まるごと読者に投げすぎているというのです。ただの出来事ならば新聞の記事となんら変わりない、どれだけ31音にのせようともそれ自体がファンタジックになったりノスタルジーを

私の好きなミルクさんの歌 007

前回に引き続き夏を題材にした歌をご紹介したいと思います。 山下達郎さんの「僕の中の少年」に着想を得た歌だとおっしゃっていました。 ・夏休みラジオをばらすときめきに勝てずにいるよ未来の僕は 女性にはなかなか理解し辛い「ラジオをばらすときめき」がキラーフレーズとなっているものですが、多くの少年がくぐってきたであろう成長のトンネルを著す言葉として、音感やリズムも心地よく、流れるように下句へ導かれます。 普段はそこまではやらないけれど、夏休みという特別な期間には普段の尺度を超え

私の好きなミルクさんの歌 006

少し季節はズレてしまいましたが、夏を題材にした歌でも素敵な歌がたくさんあります。 ・君だけの夏舞台だね夕映えに蜜柑花咲く まだ染まらずに うたよみん復帰の最初を飾った爽快な1首です。 夏を取り巻く君と蜜柑畑とそれを見ている私という、ミルクさんお得意の構図からは微かに花の匂いすら感じられそうです。詳しくお伺いすると実は色の対比や存在のスケール感を細かく考えて作られたとのこと、隠されたテーマ探しも楽しくて更に好きになりました。 君だけ ←→ 夏舞台 たった一人の君だけが立

私の好きなミルクさんの歌 005

五首目は静寂が目の前に展開されるような里山の風景を詠われたものです。 ・ 山の抱く学び舎に落つ星ひとつ蛍のように持ち帰りたし 山に囲まれた田舎の学校は私にも見覚えのある風景です。田舎だから星はたくさん見えるのだと思いますが、都会のそれとは異なる一粒が大きな光なのでしょう。まるで蛍のあかりに例えられる瞬きを持って帰りたいと思うのも無理はありません。ミルクさんは昔のものがすべて嫌いな訳ではありません。古の表現も、時には抜き言葉も使われています。 旧仮名のように「見え透いて」使

私の好きなミルクさんの歌 004

四首目は少し季節がズレてしまいましたが、初夏の少しトーンの落ちた色合いを感じる歌です。 ・ 知らず居て張られ朽ちたる蜘蛛の巣が流れるかたち夏へのかたち 気付かないうちに巣が張られ、気付かないうちに住人も住処も朽ちていってしまう、注意して見ていなければ見逃す景色が、風という普段は目に見えないものの形を空間に留めていることの無常感が伺えます。きちんと五つの波を持つ音感も心地よく、少しだけ近い将来(未来)への予感に似た高揚感もあります。確かに蜘蛛の巣はモチーフとしてよく用いられ

私の好きなミルクさんの歌 003

三首目は、「The・悟り」ともいうべき境地を感じられる歌です。 ・ 土草を引くことにのみ費やせば時は雑味をすべて濾したり 誰にでもある「無心」で黙々と作業したり体を動かしている時間の持つ役割や小さな積み重ねの大事さを詠ったもので、”土草を引くことにのみ”という言葉が的確に「無心」の境地に結びつきます。まるで地球の部品の一部のように淡々と耕したり、草抜きをしていることが、地球というサイクルを持続させる原動力でもあるという大きな意味と、そうやって”自分”や”自我”というものを

私の好きなミルクさんの歌 002

二つ目も静かな気付きを含んだ一首です。 ・ 十代の弦は張り詰め細く鳴りモスキート音を今は聞けない これも以前に聞いたことはあったのですが、「モスキート音」、調べました。 17キロヘルツ前後の高周波音のことで20代前半までの若者には良く聞こえるが、それ以降の年代の人には聞こえづらい音のことだそうです。 ミルクさんらしい、短歌を投げ捨てるように読んでいる若者を嘆いた歌だと思いました。同時に今その音が聞けないことへの哀しみも少し感じられます。聞き取ろう、理解しようと思ってはい

私の好きなミルクさんの歌 001

あまりネガティブな文章ばかりが並んでも面白くないので、気軽に自分がいいと思ったミルクさんの短歌を一つずつ紹介していこうと思います。 作られた時期やブログに投稿された時期などがずれていることもあるかもしれませんが、そこは大目に見てやって下さい。 まずは爽やかな比喩も映える季節感たっぷりの一首です。 ・ 風をよみ耳をあてるよ欄干は青い五月のステソスコープ すぐに調べましたよ。ステソスコープ。 「聴診器」のことでした。 欄干が青い五月の聴診器って、なんだか素敵な歌詞のような一