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私の好きなミルクさんの歌 006

少し季節はズレてしまいましたが、夏を題材にした歌でも素敵な歌がたくさんあります。

・君だけの夏舞台だね夕映えに蜜柑花咲く まだ染まらずに

うたよみん復帰の最初を飾った爽快な1首です。
夏を取り巻く君と蜜柑畑とそれを見ている私という、ミルクさんお得意の構図からは微かに花の匂いすら感じられそうです。詳しくお伺いすると実は色の対比や存在のスケール感を細かく考えて作られたとのこと、隠されたテーマ探しも楽しくて更に好きになりました。

君だけ ←→ 夏舞台

たった一人の君だけが立つ夏という大きな舞台、大空や海原を連想させる「夏舞台」大きさが一人の君とのスケール感を際立たせています。

君 ←→ 花咲く

小さな一輪である白い花は、十代という若さの濁流の中にいる君のことかもしれません。
私だけに見えるその輝きを、同じように見える多くの花の中の一輪に見いだしたかのようです。

君 ←→ まだ染まらずに

ひょっとすると君の制服の白い色と蜜柑の花が掛けられていると想像したのですが、その上に「染まっていない」という青春要素まで追加されていました。ソリッドな白色が堕落した大人のズルさや曖昧さを拒否するように鋭くエッジを立てています。

夕映え ←→ 染まらずに、花咲く ←→  染まらずに

夕映えなのに染まっていないという、十代の葛藤を蜜柑の花になぞらえた様子です。
最初は気付きませんでしたが、夕映えのオレンジ色はまさに実がなった時の蜜柑の色です。
まだ大人(蜜柑)になっていない君(白い花)は染まらずにいるという訳です。

君だけの夏舞台 ←→ 夕映えに蜜柑花咲く

君だけと夏舞台のスケール感の対比が、夕映えと蜜柑の花でも用いられています。
白(君)-青(夏舞台)、橙(夕映え)-緑(蜜柑畑)-白(蜜柑の花)
夕映えがあやふやなオレンジ色ということも、君の未来を象徴しているかのようです。

ミルクさんらしいのは、男女というような性差を少し飛び越えてどちら側からの歌としても成立するような言葉選びで作られていることです。
これはまさに「自己愛信奉」から距離を置かれているからこその技で、普通なら「僕が、僕が」「私が、私が」となるところをうまくコントロールされているのだと思います。
そして何より、「君」がその場(蜜柑畑)に存在していようがいまいが、歌がきちんと成立していることの凄さです。「君への想い」が今この瞬間でなくても、回想でも追想でも、歌は破綻しません。それこそがミルクさんのおっしゃられる「時の濯ぎ」に耐えて残ることができる歌の大切な要素なのだと思います。

もうとにかく爽やか。
誰もが一度は通過してきたであろうその一瞬を忘れないように、ミルクさんが31音に閉じ込めて下さいました。(感謝)

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/