見出し画像

【怖い話】京都のビジネスホテルにて

最初にお断りしておきますが、お化けを見たとか何かが出たとかいう話ではありません。霊感ゼロなので。

何年も前のある夏の事。
その日の早い時間にバスで京都に着いて、そのまま比叡山まで足を伸ばし、清水寺にも寄ってきたので、脚はパンパンになってもう歩きたくないし、身体も芯から疲れていました。バスの中ではあまり寝れなかったし。

というわけで、16時頃に河原町にあるSホテルに着きました。(今は名前が変わっています)
JAF会員の10%割引もあって6,600円とリーズナブルです。
フロントで歯ブラシなどのアメニティを受けとって、部屋に向かいました。
まずはシャワーを浴びてさっぱりしたい。

部屋は5階です。休みはお盆を避けて一週間ずらしたせいか、宿泊客はあまりいないようです。ホテルの中には人気がありません。
ドアの部屋番号を見ながら進むと、ありました角部屋です。

部屋の作りはこんな感じ

中はビジネスホテルのシングルにしては結構広い方で、備え付けのライティングディスクもあってなかなかです。
でもなんか陰気臭い感じです。

部屋が薄暗いからそう感じるのでしょう。ベッドの横のカーテンを開けると厚いすりガラスのために景色こそ見えませんが、強い日差しが入ってきて、たちまち部屋の中は明るくなりました。

窓は確か上が固定されていて、下を向こう側に押す感じで10Cmぐらい開くような作りだったかと思います。
少し開けて外を覗くと、お寺さんの屋根や、お墓が見えました。外は暑いので窓はすぐに閉めました。

ちょっとエアコンの効きが悪いので目一杯強くして、冷えたジュースを飲み、まだ夕方の4時過ぎなのでベッドに転がって本を読むことにしましたが、そのうち寝てしまったようです。起きると6時30分になっていました。

とりあえずシャワーを浴びることにしました。今日はたくさん汗をかいたので念入りに洗います。シャワーを終えて部屋に戻ると、もう外はだいぶ暗くなっていたので、カーテンを閉めました。
たちまち部屋は暗くなります。全ての灯りをつけているのですが、この部屋は照明がほとんどないのです。

ベッドの上に小さな照明が壁から出ていて、あとはライティングデスクにシェードのついた照度の弱いスタンド、入口の天井にほぼ真下を照らすだけの小さなスポットライト。これだけです。
全部点灯していても部屋の隅は暗くて見えない、そんな感じです。

なんとなく恐いので、テレビを点けました。ドライヤーで頭を乾かし、服を着替えて夕食に出かけました。

もう歩く気力もなかったので、近くの蕎麦屋に入ったのですがこれが失敗。天ざるを頼んだのですが、小盛は頼んでませんよ!というぐらい量が少ない。しかも天ぷらもこれだけ?という感じで、秒で食べ終わりました。
これで1,800円って・・・・

今ならネカフェにでも行ってそこで時間をつぶすこともできますが、これ以上時間をつぶせるところも無いし、歩きたくないので部屋に戻る事にしました。
というか、部屋に戻りたくなかったのです、怖くて。
何が怖いというわけではないのですが、とにかく部屋にいると怖いのです。

今までいろんなところに泊まってきました。ホテル、旅館、テント、その中にはボロい何かが出そうな宿もありましたし、一人で季節外れの琵琶湖の湖畔でテント泊した事もあります。
今回のホテルのように、部屋の中で読み書きできないぐらい暗いホテルも泊まった事があります。

元来怖がりなので、いつもお化けが出ないといいなと本気で思ってビクビクしているのですが、当然何かが出るわけでも無く、普通に寝て普通に起きて、翌日出発してきました。

ところがこのホテルだけは、部屋にいるのが怖いのです。
というか、誰かいる、気配がするのです。

やむを得ず部屋に戻り(電気は点けっぱなしで出掛けました)ベッドで横になってテレビを見ることにしました。
やがて探偵ナイトスクープが始まり、無理に声を出して笑いながら見ていました。

しかしこの頃から、なんとも部屋の中の気配が嫌なものに、しかも時間とともにすごい圧迫感のようなものを感じるようになってきました。

CMの間にトイレ(風呂と洗面所と一緒になったやつです)に行ってもなんとなく気味が悪いのですが、トイレから部屋に出る時の方が嫌な感じです。恐くてトイレのドアを開けるのを躊躇してしまう、そんな感じです。

まるで映画の中で、銃を構えた特殊部隊がドアの前に3人ぐらい張り付いて、合図とともにバン!と開けて銃を構えて部屋になだれ込む、それぐらいの感じで部屋に戻りました。

本気でドアの前に誰か立っているような気がしたからです。

もちろん、ドアを開けても誰も立ってはいませんでしたが。
やがてナイトスクープも終わり、そろそろ1時になろうかという時間になりました。
明日も一日歩き詰めになるから、さすがに寝ないとマズイなと思い、寝る準備を始めました。

実はテレビを見ている時から何となく壁にかけてある絵が気になって仕方ありませんでした。20×30Cmぐらいの小さな絵で、何の変哲も無いわらぶき屋根の農家の絵です。

イメージはこんな感じ はがきより一回り大きいぐらいのサイズ

でも何かこの絵にある、そう思いました。

これが、人物画だったらわかるのです、何となく見られている気がするとか、曰くつきの絵だとか、でもただの小さな農家の絵です。

そこで、きっとその絵の裏には御札が貼ってあるに違いないと思いました。でもそれを見て、本当にお札があったらもう部屋にいることができなくなると思い、絵の裏は見ない事にしました。

恐がりですが、電気が点いていると寝付けないたちなので、電気を消して布団にすっかり入っていました。そのせいか、エアコンが最強になっているのに暑くてたまりません。
僕は横をむいて寝るのですが、横を向くと背中側が恐いので上を向いているしかありません。

それでも疲れのせいか、うとうとしていたようです。
突然の雷鳴で目が覚めました。えー、夜中に雷が鳴るの?びっくりしてドキドキしています。
時折カーテンの隙間から光が漏れて、ゴロゴロと音が聞こえます。

そんなこんなで、改めて寝ようとしたのですが、足元の部屋の右隅に濃厚な人の気配を感じました。なんとなく男の人の気がします。

目を凝らして見ましたが、真っ暗で何も見えません。
でもいる!恐怖が限界に達した時、枕元の灯りを点けました。
ぼんやりと見える部屋の隅には、もちろん誰もいませんでした。
ふぅーふぅー、心臓がバクバク言ってます。

仕方ないので、灯りを全部点けました。それでも暗いけど。
もうこうなりゃ起きていよう、本当に眠くなれば自然に寝るだろうと腹を決め、本を読み始めました。

たぶん3時頃に眠ってしまったようです。

ところが今度は揺れで目が覚めました。なんと地震です。揺れは短く、震度も2とか3ぐらいのものでしたが、神経が過敏になっているので、すっかり目が覚めてしまいました。京都はそんなに地震は無い土地だろうと思いながら、やがて眠ってしまいました。(調べると、この日5時33分に和歌山でM5.4の地震があったらしく、おそらくその時の揺れだと思います)

こうしてアラームの音で目を覚ましました。
外は明るくなっていて、カーテンを開けて部屋を明るくしましたが、外は雨が降っているせいか、やはり陰気臭いし、とにかく絵が怖い。

もう洗顔もそこそこに、部屋を飛び出しました。

最後に絵の裏を見ようかと思ったのですが、怖くてできませんでした。

部屋を出る時も、後ろにずっと人の気配というか視線を感じていて、恐いので後ろを見たまま後ずさりをして、後ろ手にドアを開けて廊下に出ました。

廊下に出ると嫌な感じは無く、寝不足で疲れ切った体を引きずるようにしてホテルを後にしました。

こうしてこのあと奈良まで行って、炎天下を歩いてすっかり参ってしまい、朦朧とした意識の中でしいたけを口にするという失態を犯してしまうのでした。

おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?