春がゆく
春がゆく
あの山間の線路の上を
花びらが埋めた石段の下を
芽生えたばかりの青葉の川辺を
いつかの思い出が弾ける胸中を
あなたとわたしのあいだを
春がゆく
荷を抱え小走りの青年の横を
煙管を咥え腰掛ける老人の背を
風にめくられたカレンダーの前を
光の差し込むカーテンの向こうを
人と街のあいだを
春がゆく
いま、ゆく
目を腫らしてゆく
忘れたようにゆく
ふざけながらゆく
戸惑いながらゆく
最後になった葉桜の
土産とばかりに風が吹く
はたと振り向く姿さえ
遠景にして過ぎてゆく
ただ、いまを誇りながら
春がゆく
春がゆく
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