見出し画像

陳浩基『ディオゲネス変奏曲』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)  感想 3/3 怒涛の日本推しに驚愕

昨日に引き続き読んだ本の感想を書いていきます。

『珈琲と煙草』

 数日前からの記憶のない主人公が、未成年含む老若男女が堂々と公に喫煙し、コーヒーの飲酒が法律で厳罰化された世界に翻弄される話です。コンビニの冷蔵コーナーに煙草が配列され、違法薬物としてコーヒーがタブー視される光景は、安部公房の不条理劇を彷彿とさせます。人々の異常さに憤る主人公ですが、周囲の人間から向けられる冷たい眼差しこそが異常者に向けられるソレであることを感じ取り戦慄します。警察に取り調べられ、とうとう錯乱し気を失った主人公が次に目覚めた時、事態の真相を語る人間が現れましたが……。真相を知って、僕は『三体Ⅱ』にでてくるあるテクノロジーを思い出さずにはいられませんでした。フィリップ・K・ディック的とも言う。
 毎日コーヒーをガブガブ飲んでしまう人間としては、とても怖い話でした(笑)

『姉妹』

 後味の悪いサスペンスでした。主人公が付き合っている彼女が姉の血まみれの死体を発見してしまい、第一容疑者として疑われることが間違いない彼女を守るため、主人公が死体処理に奔走します。被害者が同情の余地がないドクズな分、読後のいたたまれなさがキツいです。こういうのもイヤミスと言うのでしょうか?

『悪魔団殺(怪)人事件』

 『秘密結社鷹の爪』や『天体戦士サンレッド』のような特撮ヒーローパロディのバカミステリーです。秘密基地内で発見された幹部怪人の死体をめぐり、あまり頭の良くない怪人たちが大混乱!全体的に悪の組織の貧しい財政事情が悲哀を感じさせたり、事件の真犯人の動機が悪の組織以上に邪悪だったりとコメディよりも風刺的な印象が残りました。

『霊視』

 深夜の公園で主人公が怪しいホームレスから昔語りを聞かされます。霊能力者として警察に協力していた男は、被害者の霊から直接真相を聞くことで難事件を次々に解決していたのですが、ある事件で冤罪を起こしてしまい……。
 言われてみれば、確かにそういうことは起こるだろうなという冤罪事件が発生した真相。人間の持つ感情の厄介さが際立ったオチでした。

『習作 三』

 断片的な情報から結論に飛びつくことは危険だと言う話。最悪。

『見えないX』

 個人的に一番面白かった短編です。人狼やデスゲーム作品が好きな人には特におすすめできると思います。
 学生たちが大学の授業単位をかけて教室内に潜む謎の人物「X」を探るゲーム風ミステリ。登場人物たちは「X」をどうやって特定するか、知恵を絞って次々に推理を繰り出していきます。ひねり出される論理に毎回「なるほど!」とうなり、すぐさま別の人物の発言でその論理がひっくり返されるという驚きの連続!この喧々諤々の議論の面白さもさることながら、「『X』を最初に特定した人物に『のみ』単位が与えられる」というルールにより、他の回答者を妨害するためにわざと怪しい挙動をして「罠」を仕掛けたり、虚偽の申告を会話に混ぜたりと頭脳戦、コンゲームの要素まで盛り込まれています。 
 この「X」の正体自体については、僕は「出題から一番ありえなさそうな人物に逆張りする」ことで序盤からなんとなく見当がついていたのですが、明かされた真相をいざ解説されると文中に散見されていたヒントの半分も見つけられていなかったので、全然自慢になりません(笑)

 作品の完成度の高さと別に驚いたのが作中で言及される日本のエンタメ作品の多さ!『名探偵コナン』、『金田一少年の事件簿』、『ドラえもん』『探偵ガリレオ』、『DEATH NOTE』、『すべてがFになる』、江戸川乱歩、綾辻行一、乙一、福山雅治などなど。特に作者の陳浩基さんが毛利小五郎大好きなんだということは充分伝わってきました(笑)さらに日本のバラエティ「ロンドンハーツ」に倖田來未まで自然に話題に出てくるとは恐れ入りました!
 自分の場合、香港映画や中国の歴史ドラマを日本でも見ることはありますが、ここまで詳細に中国の作品について語り返せないのでなんだか申し訳ない気分に(苦笑)アズールレーンとSF作品なら多少語れるんだけどなあ。


 以上で陳浩基『ディオゲネス変奏曲』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) の感想は終わりです。バラエティ豊かな短編で期待以上に読んでて楽しめました。あとがきの作者による解説も熱量が高く読み応えがありました。今後は傑作といわれる『13・67』も購入してみる予定です(他の積み本を消化した後になりますが。くっ!)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?