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陳浩基『ディオゲネス変奏曲』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)  感想 2/3 だんだん作風がわかってきたぞ(笑)


  昨日に引き続き読んだ本の感想を書いていきます。

『時は金なり』

  少し寓話的なSF作品です。
  個人の時間感覚に作用する粒子「時間子」が発見された近未来、貧乏な大学生である主人公は、自分の時間を業者に売って大金を稼ぎ、意中のクラスメートに高価なプレゼントをして好感度を上げようとするものの……。
  ドラえもんのひみつ道具にも「嫌な出来事をすっ飛ばして未来に行ける」『タイムリール』という道具があったと記憶していますが、この作品ではすっ飛ばした時間分対価としてお金がもらえます。
  時間の買い手である業者として、ミヒャエル・エンデ『モモ』の「銀行家」を彷彿とさせるトレーダーが出てきます。ただこのトレーダー、どんどんやけっぱちに時間を金に替えていく主人公に対して、毎回のように再考を促すなど、比較的良心はある印象でした。(思い込みの激しい主人公を意固地にさせるための誘導の可能性もあるのが怖いところですが)
  嫌な時間はお金に替えてしまうことを得だと信じて生き続けた(時間を売り続けた)主人公は、その晩年になって自分が売ってきた時間の真の価値について気付かされることになります。

『作家デビュー殺人事件』

  おすすめの作品です!ミステリ作家デビューを夢見る主人公が、自分の作品を読んだ編集者から「君の作品には魂がない!売れたかったら実際に完全犯罪を犯して作品に魂を宿らせてみろ!」と無茶苦茶な要求をされてしまいます。
  実際に殺人事件を起こしても捕まらないためにはどうすればいいのか?途方に暮れていた主人公は、書店で推理小説をバカにする美人大学生の会話を偶然聞いてしまい、突発的に殺意を芽生えさせます。
  数日後、大学構内で女子大生が密室で窒息死しているのが発見されます。完璧な密室殺人事件を達成したと編集者に得意げに語る主人公でしたが……
  トリック自体の奇想もさることながら、事件を推理していく警察の捜査力が物凄いものがあり、完全犯罪の難しさを感じました。そして最後のオチの意地悪さ!もう酷過ぎて最高でした(笑)

……人間はふたつにわけられる……
「他人に利用される人間」と「他人を利用する人間」に。

『沈黙は必要だ』

  福本伸行『カイジ』に出て来る地下強勢労働施設のような作業場で、ジョージ・オーウェルの『1984』ばりに冷酷な看守から虐待を受ける受刑者の話です。過去のトラウマから記憶の混濁した主人公は自分に優しくしてくれた受刑者仲間を助けようとするのですが……。

『今年の大晦日はひたすら寒かった』

  年末にデート中のカップルの男性視点から、シャイな彼女に向かって、ロマンチックに彼女の素敵さを延々語り続ける話です。
 ここまでの作品を読んでいれば、そんなの素直に信じるわけねーだろ!ってわけで案の定ひどい話!

『カーラ星第9号事件』

 移住可能な惑星の探査中に起こった死亡事故に対して、嫌疑のかけられた将校の容疑を明らかにするべく探偵が推理を展開していきます。
 宇宙軍の派閥争いといった政治的な背景、カーラ星からの宇宙船エンジンへの特殊な干渉現象、事故にあった船員の不可解な行動の数々。
 SF作品であると同時にミステリ作品でもあり、事件の真相に一旦たどり着いた主人公が「なぜ『探偵』がここに呼ばれたのか?」と自身をメタ的に捉え直し、真犯人を明らかにする展開は本作の白眉だと思います。
 事件解決後、補足資料として明らかにされるカーラ星とその凶悪な原住民バブーの正体には苦笑。その引っ掛け本当に必要だったんですかね!?

『いとしのエリー』

 死体になった妻を「疲れて寝ている」と偽って妹夫婦とディナーを楽しむ主人公という、のっけからサイコパス度がまた高い話です。
 念のため様子を見に行こう、という妹夫婦をあっさり寝室に案内して即興トリックでごまかす主人公の驚異のアドリブ力は、数多の浮気の経験から培ったものなのでしょうか?やべえよこの主人公!と呆れていると、終盤事件は意外な展開に?
 それでも最後には「やっぱりこの主人公やべーよ!」という結論になりました(笑)

『習作2』

 『習作1』とは無関係な話でした。孤独な主人公の一人語りです。
  オチまで読むと印象がガラッと変わります。そのオチを読んだ上で読み直すと、偶然Netflixで映画『MEMORIES(大友克洋)』を見ていたことが災いして、この主人公が『最臭兵器』の田中信夫にみえて仕方ありませんでした(笑)

今日はこの辺でおしまいです。また続きを書いていこうと思います。


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