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FFS×宇宙兄弟から見る、新時代の宇宙飛行士に必要な「個性の活かし方」とは?[石橋 拓真]

ついに募集要項が発表された、宇宙飛行士選抜試験。学歴不問と門戸が大きく広がり、とりわけ「発信力」が求められる今回の募集ですが、国際宇宙ステーション(ISS)でも月面ミッションでも変わらないのは、チームで高い成果を出す重要性です。そのチーム編成に於いて、メンバーごとの「ストレス特性」を組み合わせることに着目した手法である「FFS理論」が、最近多くの注目を集めています。

12月号から連続でお届けするFFS理論特集、今回はFFS理論実践の第一人者であり、宇宙兄弟とのコラボ書籍「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析」の著者である古野俊幸さんに、FFS理論のバックグラウンドや宇宙兄弟とのコラボについて語っていただきました。


石橋(Space Seedlings、以下S.S.):まず初めに、FFS理論とはどのような理論なのでしょうか?

古野さん: FFSは、Five Factors & Stressの略。人間の特性を5つの因子、「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」に整理し、それぞれの因子の多寡と順番によって、その人が示す反応・行動を計測するものです。ポイントは、この「因子」はその人の「能力」ではなく「個性」を表すもので、環境と活かし方によってポジティブにもネガティブにも発揮されると言うことです。

石橋(S.S.):相手との関わり方によって、個性が強みにも弱みにもなるのですね。5つの因子と言うのは、それぞれどのようなものなのでしょうか?

古野さん:「凝縮性」は、自分自身のこだわりと価値観を強く持つこと、「受容性」はその逆で自分の外部の状況を受け入れようとすることを主に指します。宇宙兄弟で言えば東やイヴァンは凝縮性が高く、シャロンは受容性が高い人物です。

石橋(S.S.):その2因子が対になっているのですね。

古野さん:「拡散性」はリスクを恐れず自由に奔放に行動すること、対して「保全性」は計画的・安定的に物事を進めていくことを指します。宇宙兄弟なら日々人やフィリップが「拡散性」、六太やゲイツが「保全性」の人物になります。

石橋(S.S.):南波兄弟はやはり対照的ですね。

古野さん:凝縮性/受容性、拡散性/保全性という相対化できる因子(ただし、どちらもともに高い/低いこともある)に対して、単独の因子として存在するのが「弁別性」です。これは物事を合理的に白黒はっきりさせることを指し、宇宙兄弟ではビンスが代表例です。

石橋(S.S.):キャラクターで例えると分かりやすいですね。FFS理論はどのような経緯で開発されたのでしょうか?

古野さん:FFS理論は、生物の活動を「外部刺激(=ストレッサー)によるストレスへの適応反応」と捉えたストレス学という分野の知見が元になっています。20世紀後半にモントリオール大学のハンス・セリエ博士によって創設された新しい分野で、元々生化学的な反応機構を研究していたのですが、セリエ博士の元に留学してきた小林恵智先生との出会いによって心理学の方面へも発展した結果、「個人の特性は5つの因子の組み合わせで説明でき、その違いが個人ごとのストレッサーの違いになる」という論文を出しました。これがアメリカの政府機関の目に留まり、チーム編成の理論へと発展していきました。

石橋(S.S.):「何をストレスと感じるかは人によって違い、それこそが個性である」ということですね。個人のストレッサーの特性から、「自分に合ったストレスマネジメント方法」も分かるのでしょうか?

古野さん:自分にとってのストレッサーが何なのかが分かれば、自然と対策も分かってきます。例えば保全性が高い人は、「先が見えない」状況に強いストレスを感じるため、プランを立てて安全を担保すれば安心することができます。逆に拡散性が高い人は、「自分の行動を制限される」ことに強いストレスを感じるため、制限された環境下でも何らか自由に楽しめるポイントを見つけることが重要です。

石橋(S.S.):例えを聞きながら、六太と日々人の顔が浮かんでしまいました(笑)宇宙兄弟とのコラボレーション出版は、どのように実現したのでしょうか?

古野さん:宇宙兄弟を手がけるコルクが、20人を超えたあたりからチームとしての運営に悩んでいたそうなんですね。社長の佐渡島さんが人の紹介でFFSのことを知ったみたいで、会社に導入してみたら次第にうまくハマるようになってきて。今度はコルクのコミュニティに導入したり、宇宙兄弟のファンクラブに勉強会したり、と続いたんです。その勉強会の時に、5因子の特徴をさっきのように宇宙兄弟のキャラクターに例えて紹介していたら、それを聞いた佐渡島さんが「これ、すごく分かりやすいです!」と言ってくれて、本を作ろうという話になりました。

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▲ベストセラーにもなった、FFS×宇宙兄弟コラボ本第一弾。
『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』
古野俊幸 著/日経BP
出典:日経ビジネス

カバー表1帯付き

▲2021年11月出版された、FFS×宇宙兄弟コラボ本第二弾。
『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』
古野俊幸 著/日経BP

石橋(S.S.):初めは会社の人材マネジメントでの導入からだったのですね。宇宙兄弟のキャラクターの中で、分析が難しかった人物はいますか?

古野さん:難しかったのは伊東せりかさんですね。医師でありアスリート的なパワフルさを持つ女性である一方で、いつもお腹を空かせて擬態語が多い、という両面性を持っているように描かれているので。分析してみて感じたのは、小山宙哉先生(※宇宙兄弟の作者)のキャラクター作りが本当に上手いということです。現実の組織を研究して構築された理論を持ってしてもきちんと分析できてしまうキャラの作り込みと、彼らが互いの関わり合いの中で自分の個性を生かした活躍の仕方をしていくのは、本当にすごいです。一巻一巻泣きながら読んでました(笑)

キャラクターマトリックス

▲個性が際立つ宇宙兄弟のキャラクターのマップ。
出典:宇宙兄弟×FFS診断

石橋(S.S.):まさに宇宙飛行士としてのリアルなチームワークのあり方が描かれていますよね。今年いよいよ宇宙飛行士選抜が始まることもあり、月面ミッションへの期待が高まっていますが、ISSミッションに比べて適切なチーム編成も変わってくるのでしょうか?

古野さん:不確定要素が多く難易度の高いミッションなので、基本的には互いに異質な気質を持ったメンバーで補完し合うチームの方が良いでしょう。この後のグループワーク(詳細は1月号に)でもやりますが、想定外に対処しなければならない時には、一人一人が自分の意見をしっかり持ってぶつけ合い、発想の幅を広げながら試行錯誤していく必要があります。

石橋(S.S.):この因子が適している、といったものはありますか?

古野さん:非定型な状況で必要なのは、想定外を楽しみ、一方で冷静に考え、そして決断することです。5因子で言えば順に拡散性、弁別性、凝縮性が必要になります。宇宙兄弟では、ブライアンがそれに当たりますね。

石橋(S.S.):確かに、漫画のストーリーと照らし合わせても納得ですね!

次回の2022年新春1月号では、日本の有人宇宙開発を振興する若手による草の根組織Homer Spaceflight Project (HoSP)の方々と共に、「月面遭難脱出」(創造性開発ワーク)を行った様子をお届けします。事前にFFS理論による分析を受けたメンバーが、グループディスカッションの中でどのようにそれぞれの個性を発揮するのか。古野さんからの解説もお届けします。

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古野俊幸(ふるのとしゆき)
株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約800社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは60万人、約6万チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者。
主な著書:
「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」(日経BP)
「ドラゴン桜とFFS理論が教えてくれる あなたが伸びる学び型」(日経BP)
「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析」(日経BP)
「本当のリーダーはどこにいる」共著(ダイヤモンド社)
「組織潜在力」共著(プレジデント社)
「組織を変える、社員を変える、会社が変る」共著(中経出版)
「入門チームビルディング」共著(PHP新書) 
「適正配置と組織の最適編成マニュアル」(アーバンプロデュース刊)

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石橋 拓真(いしばし・たくま)

1997年生。東京大学医学部医学科5年。日本宇宙航空環境医学会企画委員。宇宙開発フォーラム実行員会執行部を経て、Space Medicine Japan Youth Communityの立ち上げ、運営に携わる。2019年より、雑誌「宇宙・医学・栄養学」編集委員。2020年より、スペースバルーンで炎を宇宙に掲げるプロジェクトEarth Light Project執行部。

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