見出し画像

からあげクンが宇宙に行くまで~宇宙日本食認証基準への挑戦(前編)~[石橋 拓真]

2020年11月~2021年5月、JAXAの野口聡一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した際に、宇宙日本食の一つとして「スペースからあげクン」が搭載されました。
宇宙食と言うと歯磨き粉のようなペースト状のものや、ゼリー飲料が連想されることも世間的には珍しくない中、日本人であれば誰もが知る国民的スナック「からあげクン」が宇宙に行ったことは、大きな話題を呼びました。
今回は、「スペースからあげクン」プロジェクトの発起人である、株式会社ローソン・マーケティング戦略本部 部長の白井明子さんと、開発を主導された株式会社ニチレイフーズ 商品開発部の金平佳乃さんに、開発の道のりや今後の可能性について、2ヶ月の連載企画としてじっくりお伺いしました。

宇宙日本食とは?
宇宙日本食は、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する日本人宇宙飛行士のストレス緩和や仕事の効率維持などのために開発された宇宙食のことです。栄養成分検査や一年半の保存試験などに合格し、基準をクリアした食品がJAXAから認証されて「宇宙日本食」となります。

画像1

▲現在では26社、47品目の宇宙日本食が認定されています(画像は一部)。出典:JAXA

スペースからあげクンの特徴は?
スペースからあげクンは、通常のからあげクンと同じ材料を用いて揚げたものを、フリーズドライにすることで作られます。袋からそのまま食べられ、地上で食べるからあげクンと同じようにサクサクとした食感を楽しめるようレトルトではなくフリーズドライ製法を採用し、無重力空間で粉末が散らないように、通常よりも小さい一口サイズで作られています。

画像3

画像2

▲スペースからあげクンの本体(左)と、パッケージイメージ(右)
出典:JAXA

上司との何気ない会話がきっかけに
「スペースからあげクン」プロジェクトは、意外なきっかけと巡り合わせで始まりました。
ローソンの白井さんは元々、国際宇宙ステーションで撮影されたカップヌードルのCMに憧れるなど、宇宙に対して関心を寄せられていたとのこと。
2017年1月、当時の上司の方から「白井さん、色々なことやっているけれど本当は何がやりたいの?」と聞かれたのです。そこで「銀河鉄道999などアニメの影響で実は宇宙好きなんです」と伝えたところ、なんとその上司の方は東大の航空宇宙工学科出身だったことが判明します。「うちの部下が宇宙の取組みしてみたいそうなんだけど」とすぐに中高同期の大学教授に電話をかけてくれ、教授とJAXA新事業部の方との会合がセットされました。
「ローソンと宇宙で何かできないか」という話の中で、やはり一番に頭に浮かぶからあげクンを宇宙に持っていくというアイデアが固まり、ニチレイフーズの金平さんに相談しました。

画像4

▲取材風景。上段左からローソン白井さん、ニチレイフーズ金平さん、ローソン遊田さん。下段左からThe VOYAGE編集部、ニチレイフーズ原山さん、Space Seedlings石橋。

作ってみて分かった、宇宙での「肉」へのニーズ
相談を受けたニチレイフーズの金平さんは、「それをやって儲かるのか?」以前に「そもそもそれは可能なのか?」という部分で半信半疑だったそうですが、ともかくもやってみようということで、開発を開始。幾つかの製法でプロトタイプを作り、白井さんと一緒にJAXAの筑波宇宙センターに持参。大西卓哉さんや古川聡さんら現役の宇宙飛行士の方に食べていただきました。
その際に実感したのは、「肉」に対するニーズでした。ISSでの宇宙食はホットプレートかお湯で戻して食べる調理方式のため、肉を素材として用いたものはあっても、から揚げのようにダイレクトな「肉」感を楽しめるものは多くなかったとのこと。そのためプロトタイプは好評で、「大西さんなんかはどれも美味しいと言って下さって(笑)
。有り難かったのですが市販できるレベルのものではありませんでした (笑)」と白井さんは振り返ります。

宇宙日本食の試練①:衣どうする問題
金平さんが宇宙仕様のスペースからあげクンを開発し、JAXAから認証を得る道のりは苦労の連続でした。
「レトルトではなくフリーズドライで」という方針を早々に固めたチームでしたが、JAXAから「噛んだ際に衣の欠片が散ってしまう」問題を指摘されてしまいます。結果としては前述の通り一口サイズにすることで解決したのですが、慣れない中で思いもよらない点を指摘され、試行錯誤には半年以上を要したそうです。

画像5

▲フリーズドライ以外には、「お湯もどし」や「油もどし」といった方法が検討されていたとのことです。
出典:ローソン宇宙プロジェクト

今回は、スペースからあげクン開発のきっかけや初期のいきさつについて掘り下げてご紹介しました。次回11月号では、宇宙日本食の認定審査での試練や、それを乗り越えるに至ったチーム力、そしてスペースからあげクンの今後の可能性についてご紹介していきます!

【参考資料】
「からあげクン」が野口さんと一緒に宇宙へ プロジェクト発足から3年9カ月
からあげクン、“特例”で宇宙食へ 開発の決め手になった宇宙飛行士の要望とは?
●ローソンnews|宇宙食「スペースからあげクン」を野口聡一宇宙飛行士に提供
「からあげクン」宇宙食採用へ前進 フリーズドライでカリッと食感
野口聡一さん宇宙船搭乗へ。宇宙食「からあげクン」開発の苦闘とやりがい

画像6

白井明子さん
株式会社ローソン マーケティング戦略本部 部長
株式会社ローソン入社後、店舗営業を経て、ITやマーケティング部門配属。
2020年3月より現職。
日本マーケティング学会理事。
法政大学イノベーションマネジメント研究センター客員研究員。
2012年「Web人大賞」
2013年日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞」受賞。

画像7

金平佳乃さん
2002年株式会社ニチレイ(現・ニチレイフーズ)入社。冷凍食品の技術研究と開発に携わる。2014年より「からあげクン」商品開発に参加。好きな食べ物はから揚げと日本酒。好きな「からあげクン」はレギュラー。

画像8

石橋 拓真(いしばし・たくま)
1997年生。東京大学医学部医学科5年。国際宇宙会議(IAC)2018 JAXA派遣学生。宇宙開発フォーラム実行員会執行部を経て、Space Medicine Japan Youth Communityの立ち上げ、運営に携わる。2019年より、雑誌「宇宙・医学・栄養学」編集委員。2020年より、スペースバルーンで炎を宇宙に掲げるプロジェクトEarth Light Project執行部。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?