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Space BD 宇宙利用を拡げる民間の力 - 後編[吉田 恵実子]

今回は「宇宙商社」として宇宙における総合的なサービスを展開し、さらなる宇宙利用促進を進めているSpace BD株式会社(以下Space BD)の大野和宏様に、Space Seedlingsの吉田恵実子がお話を伺いました。

前編はこちらから!

国際協調と日本のポジション

吉田: 前編では宇宙環境の商業利用について、Space BDさんの人材と情報のネットワーク、そしてそれによって実現できるプロジェクトスピードをはじめとする強みについてお話を伺ってきました。

お話しの最後では、これから広がっていく宇宙開発の中でも特に民間のレイヤーでは、国際的な協調が必要だとおっしゃっていましたが、その中でこれから各国の宇宙機関がそれぞれの強みを活かして行くにはどうしたらよいでしょうか?

大野さん:例えば当社が提供する衛星放出事業では、JAXA様の所有するアセットである小型衛星放出機構(JSSOD)を活用したサービスをユーザー様へ提供しております。単にユーザー様へアセットを提供するだけでなく、企業や大学などからのニーズをJAXA様に還元していきます。その中でJAXA様に対してその需要に合わせた制度や設備の対応を提案することで、プロジェクトを進めていくことに貢献しています。

それは、JAXA様に提案を押し付けるという形ではなく、すでに彼らが持っているアセットをさらに有効活用していくために、私たちがその営業や事業開発の部分を担当し、活用の幅を広げるということを目指しています。このような取り組みは「きぼう」のさらなる利用促進につながって行くと信じています。

吉田: なるほど。こうした民間と公的機関の相互の働きかけの中で、さらに日本独自の強みが生まれてくるといいですね。

大野さん:まさにおっしゃる通りです。海外からは日本企業のサービスの丁寧さや、きめ細やかさを付加価値として高く評価いただいています。私たち日本人にとっては、当たり前なものと捉えがちな「おもてなし」を心がけてコミュニケーションすることで、「頼んでいないのにここまでやってくれる!」とポジティブな反応をいただいています。これからも日本のアセットの魅力を海外に向けて丁寧に発信し、日本のファンを増やしていきたいです!

「野武士のように」宇宙を開く昔気質の商社マンのマインド

吉田:こうした海外も含めての事業を進めて行く中でのマインドに関して、Space BDさんのコラムの中で「野武士のように」という言葉が出てきたのですが、これはどういった意味でしょうか?

大野さん:私たちが取り組む全ての仕事で大切にしているのが「やりきる意志と覚悟」です。前編でも述べた「三方よし」の言葉の通り、利益や名誉を追求するのではなく、自社とともにお客様や社会にまで良い影響を及ぼすためには、道なき道を前に進み、最後まで理念を貫く覚悟が欠かせません。

宇宙ビジネスで私たちが直面するのは、まだまだ前例のない案件ばかりです。その中で、この事業がお客様にとっていい影響があるのか、そしてその先で社会に与える影響はどのようなものかを社内で徹底的に議論する中で、メンバーとして最後までのやりきる意志を固め、それを着実に実現するための方法を考えています。

当社代表の永崎は、Space BDを創業する際に、お世話になった方から「これからの宇宙には昔気質の商社マンが必要だ」とアドバイスをもらったといいます。今のSpace BDには、その生きざまはスマートではないけれど、つらいことがあっても自分の決めたことにとことん向き合うその泥臭さに美しさを見出すような人が多いと思います。

ちなみ私は、漫画の『花の慶次』にでてくるキャラクターのような、人と人とのつながりを大切にする心もちが好きなのですが、このような姿勢も商社の仕事では必要だと思います。

目の前の成功に満足するのではなく、それらが最終的に日本の産業の礎となり宇宙産業が世界と戦えることを目指して、これからも邁進していきたいと考えています。新しいことに挑戦したり産業をつくりたいという気概と覚悟がある人に、どんどんSpace BDに入ってきてほしいです。

これからの民間の宇宙を開く、国内・国外での方策

吉田: それでは、これから宇宙関連の業界を産業として盛り上げていくために必要なことは何でしょうか?

大野さん:産業をつくりあげるためには、宇宙に関わる方をさらに増やしていく必要があると考えています。その為に、これまで以上に宇宙分野の研究を推し進めることはもちろんですが、そこで得たつながりを活かしたり、社内のメンバーの多様なバックグラウンドをフル活用しながら、これまで宇宙に触れて来なかった分野の方々を巻き込んでいきたいと思います。

吉田: その中で特に注目されている分野はありますか?

大野さん:国内で特に注目している分野としては、宇宙空間のエンタメ利用が挙げられます。「宇宙」を一つの起爆剤となるようなキラーコンテンツとして示す中で、それを楽しむ側の人たちが宇宙をより身近に感じられるような風土を作って行きたいです。 エンタメは「遊び」としてだけでなく、これからの宇宙の多様なな利用の仕方を試行錯誤しながら作り出していける場になるのではないかと思っています。

また海外に対しては、いわゆる「キャパシティビルディング」に注目しています。これは、東南アジアや南米、アフリカなどの宇宙開発新興国に対して、ロケットや衛星自体を提供するだけではなく、衛星開発のノウハウを提供しながら人材を育てたり、その運用や活用の方法を伝授しながら、将来は自国で宇宙開発を進めて行けるようなシステム作りの支援をしていく、というものです。

特に日本は教育熱心な国として、こういったキャパシティビルディングのパッケージを提供していくべきだと考えおり、今後さらに加速させていく予定です。

Space BDはモノづくりを行っている企業ではないので、特定の製品の提供だけではユーザー様にご満足いただくことはできません。宇宙開発に関わるあらゆるプレーヤーの強みを理解した私たちが、ハブとなって訴求していくことで宇宙産業を盛り上げていきたいと考えています。

規模の原理が働く商社の世界。少数精鋭のSpace BDの施策とは?

吉田:Space BDさんは商社としてこれらの動きを促進しようとお考えですが、大手総合商社が宇宙産業に乗り出すニュース等多い中で、少数精鋭のSpace BDさんととしてどのようなお考えをお持ちですか?

大野さん:当社のMissionは宇宙領域を日本の基幹産業にしていくことです。「産業」となるためには多くのプレーヤーが参加する必要があります。大手総合商社等の参入は産業化するにあたっては当然の流れだと思います。

その中で当社が果たすべき役割は「宇宙商社」として、既存・新規プレーヤーのハブとなり、信頼をつないでいくこと。信頼をつないでいくためには、我々自身が宇宙産業において信頼を集められる存在であることだと考えております。そのため、短期・中期的には事業開発のプロ集団であること、また、経験と知識豊富なエンジニアリング部隊を抱えていることを強みに実績を重ね、信頼を築きあげることが当社の使命と考えています。産業化の過程において、信頼を集め、信頼の連鎖の中心として機能することを役割とするうえでは自社の規模感や資本等のリソースは大きな問題にはならないと考えています。

これから宇宙を目指すみなさんへのメッセージ

吉田: 先ほどの「野武士マインド」のように会社としての理念についてお聞きしましたが、中高生をはじめこれからの宇宙産業を担っていく方々へのメッセージをお願いします!

大野さん:「常に目の前のことに感謝して生きる」ということを意識していってほしいです。一見このことは、宇宙と関係ないじゃないかと思われるかもしれませんが、コロナ禍の現在は特に、分野に関わらず、仕事をしていくうえで、人と人とのつながりがより一層重要になってきていると思います。だからこそ、一期一会という言葉のようにこの瞬間に感謝し、周りの人とのつながりを大事にしたうえで、運と縁と恩を大事に生きていけば何かいいことがあるはずだと考えています。

そのうえで、会社でも大切にしているマインドである「やりきる意志と覚悟」を持てるようになるといいですね。やりきる覚悟というのは、特定の状況に立ち会わないとなかなか感じられないことではありますが、些細なこと一つ一つに感謝していく中で、こうした意志や覚悟が自然と育まれていくと考えています。

もちろん表に出すのは恥ずかしいですし、親にはなかなか言いづらいとは思いますが、だからこそあえて感謝を出してみると、恥ずかしいと思っていたことがばからしく思えてきたり、新しい一歩を踏み出してみたりすることで、新しい何かが見えてくるというのは、私のこれまでの社会人人生で本当に感じてきたことです。私自身、全く違う業界から宇宙業界に身を投じて、宇宙業界は強い想いや、多様な経験をもった方々が多いと感じています。だからこそ宇宙を目指すという志を持つ皆さんも、まずはその第一歩として目の前のことに感謝しそれを言葉にしてみてほしいと思います。


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取材の様子:高野さん(左上)・SS吉田(右上)


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大野 和宏

2013年、東京理科大学大学院総合化学研究科総合化学専攻修了。
NTTコミュニケーションズ株式会社に入社後、ICTソリューション営業の経験を経て、IoT分野での新規事業の立ち上げに従事し、様々な業界・業種との協業案件を企画・推進。2019年よりSpace BD 株式会社に参画。主に国内の企業や大学、研究機関への衛星打上げサービスやISS利用サービスの企画提案・実行支援に従事。その他、宇宙領域における幅広い新規事業開発プロジェクトを牽引し、多様なニーズに合わせた最適な宇宙へのアクセス・宇宙空間利用をサポートしている。


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吉田 恵実子
東京理科大学 工学部 機械工学科 3年

【専門・研究・興味】
宇宙トイレの研究開発に取り組む
地球惑星科学、深宇宙探査、アストロバイオロジー

【活動】
STeLA Leadership Forum:宇宙をはじめ、科学技術全般の社会実装に必要なリーダーシップを議論する10日間の国際フォーラムを毎年夏に開催している。

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