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あなたを車の部品に例えると? 〜月面脱出ゲームFFS分析編〜 with HoSP[石橋 拓真]

まもなくエントリーが終了する、宇宙飛行士選抜試験。学歴不問と門戸が大きく広がり、とりわけ「発信力」が求められる今回の募集ですが、国際宇宙ステーション(ISS)でも月面ミッションでも変わらないのは、チームで高い成果を出す重要性です。そのチーム編成に於いて、メンバーごとの「ストレス特性」を組み合わせることに着目した手法である「FFS理論」が、最近多くの注目を集めています。
3号連続でお届けするFFS理論特集、最終回となる今回は、Homer Spaceflight Project (HoSP)の方々と共に行った「月面遭難脱出」(創造性開発ワーク)のグループワークを、FFS理論実践の第一人者である古野さんに解説いただきます。ワークの中でメンバーが担った役割は、FFS理論によってどのように分析されるのでしょうか?
1月号でお届けしたワークショップの模様をまだお読み出ない方は、ぜひそちらからチェックをお願いします!

2022-2月号-SS石橋取材の様子

▲今回ゲームに取り組んだHoSPメンバー
上段中央:SS石橋、右:HoSP江島さん。
下段左:HoSP角谷さん 下段中央:古野さん 下段右:HoSP池田さん

35分という厳しい時間制限の中で、工学や惑星科学、運用や医学といったそれぞれの専門を活かして脱出プランを組み上げたメンバーたち。分析パートの導入として、「カーパーツエクササイズ」に取り組みました。

カーパーツ

カーパーツエクササイズとは、議論の中での自分の役割を「自動車の部品」に例えて振り返るワークです。
アイデアを出して議論を引っ張るアクセルやイグニッション(駆動系)、それらを膨らませるオイルやタイヤ(調和系)、情報を出すメーターやナビ(情報系)、議論を検証するブレーキやギア(制御系)など、いくつかの系統に分けながら自分の貢献の仕方に最も近い形を選びます。

記録係としてまとめ役を担った江島さんは制御系。35分で終えることをとにかく意識しながら進めていたと言います。最初に案を出した角谷さんは、アクセル。他の3人が話しているのをひとまず聞いて補うように動いていた池田さんは調和系。そして筆者石橋も、アイデアと言うよりは問いを出す役割を意識していたため駆動系または調和系のどれか、と言った形でした。

個人単位での振り返りの次に、「議論していてどうだったか?」と言うチーム単位での振り返りも行いました。「もっと長い時間話していたいくらい、楽しかった」と言う江島さんに、池田さんも「初めに出たアイデアに乗っかって膨らませられたのでやりやすかった」と続きます。筆者としても、誰か一人が回すと言うよりは全員でフラットに作り上げている感じがあり、とても心地よいワークでした。

自身の振り返りとチームの振り返りが完了したところで、いよいよFFS理論の出番です。古野さんは事前に、FFS理論で4人を分析した結果をもとに、ワークの中で個々人とチームとがどのようなパフォーマンスをするか、予想を立てていました。その予想がこちら。

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▲FFS理論のベースとなる5つの因子を基に4人を分析し、チームの特徴を推定した上でディスカッションの流れを予測した図。左下の樹形図にも見えるグラフは、チームメンバー同士の同質性の高さ(ライバルクラスター型)と異質性・補完性の高さ(パートナークラスター型)を示しています。

特に「議論の流れ」の部分は、あまりに見事な的中ぶりにメンバーもびっくり。
今回のチームは比較的同質性の高い構成となっており、それがメンバー自身の「とてもやりやすかった」と言う振り返りにも現れていると古野さんは解説します。「自身が面白いと思うことに集中しやすい」と言う分析を見て「他の人のポジティブなコメントに比べて自分の分析はちょっとネガティブ…?」と角谷さんは苦笑気味でしたが、古野さん曰くそれは今回のチームの中でむしろ欠かせない役割を担っており、目標達成に大きく貢献していたとのこと。

一般的に同質性の高いチームは効率性が高く短期集中のプロジェクトに向く一方で、異質性の高いチームは柔軟性と突破力が強く新規の価値創造に繋がるとのこと。もっと時間のある時には、同質なチームと異質なチームの両方を経験することでその違いをよりクリアに掴めるそうです。

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全3回に渡って、FFS理論とその応用としてのワークショップについてお届けしてきました。
事前にFFS診断を受けてから臨んだワークショップではあったものの、私自身は時間制限の短さゆえか、診断結果を意識する余裕もなく自然体でワークに取り組んでいました。だからこそ、診断されていた特性がワークで素直に反映されたのかも知れません。
そして何より今回のポイントは、個々人の特性は環境や向き合い方次第で強みにも弱みにもなり得るということです。5つの因子の強弱はそれ自体が能力を表すのではなく、あくまで環境への適応パターンを示しているに過ぎません。
宇宙飛行士の選抜や実際の業務は、今回のワーク以上に負荷がかかるでしょう。そうした状況下では、自分自身の特性を表面的にごまかすのではなく、それらを受け入れた上で強みとして発揮できるような条件・環境のデザインが重要なのだと実感しました。

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▲ベストセラーにもなった、FFS×宇宙兄弟コラボ本第一弾。
『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』
古野俊幸 著/日経BP
出典:日経ビジネス

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▲2021年11月出版された、FFS×宇宙兄弟コラボ本第二弾。
『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』
古野俊幸 著/日経BP
出典:日経ビジネス

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古野俊幸(ふるのとしゆき)
株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約800社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは60万人、約6万チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者。
主な著書:
「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」(日経BP)
「ドラゴン桜とFFS理論が教えてくれる あなたが伸びる学び型」(日経BP)
「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析」(日経BP)
「本当のリーダーはどこにいる?」共著(ダイヤモンド社)
「組織潜在力」共著(プレジデント社)
「組織を変える!社員を変える!会社が変わる!」共著(中経出版)
「入門チームビルディング」共著(PHP新書) 
「適正配置と組織の最適編成マニュアル」(アーバンプロデュース刊)

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石橋 拓真(いしばし・たくま)

1997年生。東京大学医学部医学科5年。日本宇宙航空環境医学会企画委員。宇宙開発フォーラム実行員会執行部を経て、Space Medicine Japan Youth Communityの立ち上げ、運営に携わる。2019年より、雑誌「宇宙・医学・栄養学」編集委員。2020年より、スペースバルーンで炎を宇宙に掲げるプロジェクトEarth Light Project執行部。2021年より、株式会社dinow宇宙ヘルスケア部門チーフ。

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