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いないいないばぁ

里帆さんは幼い頃から写真を撮ることが多かった。カメラ好きの家族の影響だ。時間があれば自宅のアルバムを引っ張り出し、家族や友人の映った写真を見る。思い出が蘇り、里帆さんはこの朗らかな時間を楽しみにしていた。けれど小学生の頃、ある出来事が起きる。それは仲の良いクラスメイト達を撮影した時だ。出来上がった写真を自慢げに皆に見せる。教室でクラスメイト数人が映る一枚。笑顔でおどけ、各々ポーズを取っている。細かに写真を眺めていると、ふと端に見慣れぬ人物がいることに里帆さんは気づいた。
自分達と同年代であろう雰囲気の女の子。ただ顔が見えない。
顔全体を掌で隠しているからだ。
まるで『いないいないばぁ』だ。そんな奇妙な体勢をした人物が側にいた記憶などもない。一緒に写真を見ているクラスメイト達も気味の悪い顔をする。
(別のクラスの子が、知らぬ間に紛れたに違いない)里帆さんはそう思うようにした。
それ以降も写真を撮ればアルバムに挟み、いつしかあの頃の出来事を忘れる。
しかし里帆さんが高校生になった頃、その記憶が再度蘇る。

部活動のメンバーを撮った写真に、手で顔を覆う人物が写っていたからだ。以前見た女の子だと里帆さんは確信する。けれど当時と雰囲気が少し違う。里帆さんと同じように成長しているのだ。そして覆った手が少しだけ開き、尖った顎先が見えている。
もはや誰かの気持ち悪い悪戯としか思えない。
アルバムに挟む気にもなれず、処分したそうだ。
そして高校を卒業し、大学は地元から離れて一人暮らしをすることになった。楽しいキャンパスライフを送るが、写真を撮ることを躊躇していた。あの手を覆った女の子の記憶が蘇るからだ。けれどあの出来事が誰かの悪戯だとするなら、地元を離れた今は心配はないはずだ。
ちょうどサークルの旅行の予定がある。里帆さんはこれを機会に写真撮影を再開し、カメラを持つ楽しみを思い出した。
ある日、出来上がった写真を見ると、里帆さんは驚き叫んだ。写真の端にあの女が立っている。
地元から遠く離れ、写るはずのない人物。里帆さんを追うよう、歳を重ねている。覆った手は目の部分のみ充てられ、口が大きく裂けて耳まで届いている。明らかに人ではないものが笑っていた。「あの女は」もう撮ってはいけない。そんな直感を持った。その写真を目にして以降、里帆さんはカメラを持つことをやめたそうだ。

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