見出し画像

1991年7月 異常に暑い夏がありました。

今まで ” ドイツの夏は涼しい ” はずだったのに、ウッソォ~とわめきたいほど蒸し暑い日が続く、そんなはずじゃない夏が来るようになってしまいました。
そんな暑い夏に日本から中学生と高校生の甥達がスポンとやって来ました。ベルリンの壁が開いてからまだ三年目で、華やかな西ベルリンから出て観光するにも、まだ東ドイツはセピア色に染まっていた頃でした。
甥達は自分達が習った英語で何か話そうとしても、周りはドイツ語ばかり。私の息子達は日本で二人に会ってはいましたが、ちゃんとした会話にはならず手真似で何とか意志の交換をしていましたっけ・・・・。
彼らにまず見せたのはベルリンのヨーロッパセンターにあるこれです。

水時計

右の平べったいガラスは30個あって黄緑色の液体が一つに溜まるのには2分掛かります。上まで一杯になると、左の丸いガラス玉に音も無く移動しますが、さあ一時間経ったんだよ、と言う印です。見ものは正午の12時で、水がドッと下に落ちて、12個のガラス玉が一度に空になってしまいます。二人とも面白そうに見ていましたね。

ク―ダム通り

見えるのは第二次世界大戦で破壊された記念教会ですが、甥達はもっぱらセンターの内のこんなもののお店の方に興味がありました。 

はやりのTシャツ

実際はもっと際立っていましたがこの様なT-シャツのあるお店を目を輝かせながら見ています。仕方ないですね、まだ、15~6歳の少年達です。歴史や教会などは面白くないはずでした。
私だって歴史なんて嫌いです。
夏休み中の学校のクラブが気になって仕方ない甥達が、2週間滞在の予定を繰り上げて帰国する前に、もうひとつ見🚌隊せたい場所がありました。

バスタイ岩

ザクセンのスイスと言う、元東ドイツの奥深くの場所です。それを聞いた高校生の甥は、それならベルリンで買い物をしたいと言いました。中学生の甥はそのザクセンスイスに興味を持って行ってみたいと言います。
さて、どうしましょう・・・・すると上の甥は、さも自信ありげに自分一人でもヨーロッパセンターになら行けると言います。
え~?、私でさえ一人で街まで出るなんて面倒臭いからってやらないのに・・・。
そこで、心配ではありましたが上の甥を信じて、下の甥と私は二人でタクワン入りのおにぎりとジュースを持っていざ、南東のザクセンスイスへと向かいました。
そこは昔、私がウィーンに行く時に、そしてドレスデンのペンフレンドと会った時に列車の窓から見た岩場で、一度は悪友たちとハイキングで歩いていました。
ドレスデン発の各駅経由でチェコの国境近くのヴェーレンという小さな駅まで行き、そこからはフェリーでエルベ川を渡ります。
列車がヴェーレンに近づくと、厳めしい二人の国境警察官がパスポートの検察にやって来ました。
2023年の今ではEUになっているので国境警察などいません。しかし当時のチェコはまだ密入国などの管理が厳しいままでした。
国境を超える訳ではない私達は、パスポートなど用意していませんでした。
私が説明している間、物々しい警官の横で年若い甥は青くなってビビっていました。けれど日本からだと知った警官達はヴェーレンで降りた私達に向かって、列車から手を振っていたのです。
「おもしろいね、おばさん。 僕、来てよかったです」と目を輝かす甥。
程んど人のいないこのハイキングコースはとても楽しいものでした。
甥の背負った小さなリュックサックから出したおにぎりをほおばりながら、岩やこけの生えた小道を抜け、薄暗い森の小川沿いに歩き、たまにはふたりでめちゃめちゃの「猫踏んじゃった」のふざけ歌をひどい声でうたいました。

この石橋の上から変わり番こに大声で「お~い」、だの「おまえだれだよ~」だの意味のない事を叫んで、そのスッキリと気分の良かった事。
ラーテンの出口からまたフェリーに乗って、まだセピア色だったドレスデンの街をほんの少し覗いてから、くたくたに疲れて家にたどり着きました。一人でヨーロッパセンターに行った上の甥は無事に買いものを済ませて来た証拠に、あのなんとも奇抜な画のT-シャツを自慢げ見せてくれました。
下の甥がとても気に入って自分のお土産にしたものは、限りなくこれに近いドイツのランドセルでした。

小学生のランドセル1990年代

その甥は日本でそのランドセルをぼろぼろになるまで使っていたそうです。2006年にドイツでサッカーのワールドカップがあった時、その甥がこの機会に「日本を応援したい」とベルリンに来てくれる予定でした。その時には、一緒に行ったドレスデンやベルリンやポツダムの大変化を見せて、彼の驚く顔を見るのがとても楽しみでした。
けれどちょうど大きな仕事が入り、その後はその仕事で休む暇も無く、再びドイツに来る事なく、先日(2013年10月5日)の交通事故で亡くなりました。私の耳には今、忘れていたあの子の歌声が響いています。ザクセンスイスの森に響く、猫踏んじゃったのメロディーで愉快に歌っていた歌詞が・・・。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?