心をこめたお辞儀の効力

バイリンガルスタッフとして、ある携帯電話ショップに勤務していた時の話ですが。

入社してから知ったのですが、当時その携帯会社は、不具合のある機種を幾つも抱えて、一番難しい時期でした。

クレームを毎日立て続けに受けることもザラで、そのうち、怒鳴られたり、物を投げられるといったハードクレームも、週に一度くらいのペースで発生していました。現場でできることは限られていて、謝ってばかりの毎日でした。

私が勤務していた2年程の間に、上司が3人変わり、うち、気が弱い一人は、ハードクレーマーがお店で暴れ始め、「上司を出せ!」と叫ぶ頃には、トイレに籠って出て来ず、結局、派遣社員の男性が対応する、といったこともありました。

その会社自体に対する信用が下がっていたので、他の用事で来たお客様も、不満が溜まっていることが多く、いつ地雷を踏むかと、毎日ピリピリしていました。

“自分のできる限り、真摯に対応します”という気持ちを伝えるにはどうしたらいいか、と考えていた時、心を込めてお辞儀をすることを始めました。

手元のボタンでお客様をお呼出しし、番号札を持って、カウンターの前に立たれた、そのタイミングで行うことにしました。目を合わせた後、少し長いかと感じる程ゆっくりと、丁寧にお辞儀をします。

すると不思議に、その場の空気が一瞬引き締まる感覚がありました。何となく適当、という感じだったお客様が、お辞儀を見てからは、シャキッと背筋を伸ばしてから、椅子に掛けられる、という印象でした。もちろん、それでクレームにならない、という訳ではないですが、しっかり自分の話を聞いていただける雰囲気が、出来上がりました。

“丁寧に扱ってもらえる”と実感すると、自然に“こちらも丁寧に”となることが多いのだと、気付きました。この教訓は、今でも活きています。

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