【備忘録】生物系の研究室に行くならこれだけはメモしろ

注)文字数減らすために語気は強いですが、内容は有益だと思われます。

この時期なると、多くの4回生が研究室に配属されていることだろう。研究室に配属されるとまず、研究室のルールや作法を学ぶことになる。そこでは、様々な器具・機器の使い方、試薬調製の仕方など基本的なことをいろいろと説明される。

ここでは備忘録も兼ねて、生物系のwetな実験をする研究室ではどのようなことを意識し、何をメモすればよいかを書き連ねる。生物系でなくても参考になる話はあると思う。見落としがちなポイントも書いていくので、研究室配属されたばかりの読者はぜひ参考にして、僕のように何度も同じことを聞く最悪の研究室ライフのスタートを切らないようにしてほしい。

話を聞く時の心得

まずはメモを取るときの心得。結論から言うと、すべてメモを取れ。何も省くな。マジで全部メモするべきで、メモできないと思うなら録音をしろ。説明を聞いているときはそんなこと誰でも分かるだろ~みたいな気持ちになるかもしれないが、いざ一人で実験をすると分からないことが続出する。

説明を聞く時は、常に自分が操作する姿を想像しておくこと。自分がどこに試薬を取りに行き、どこで調製をし、何で機器を予約して、待ち時間は何をするか……。そういったシミュレーションをしておくと、おのずと必要な情報が見えてくる。また、説明中にサラッと言われるテクニックや注意点がとても有益なことは多々あるが、こういった情報に限ってインターネットの海では見つけられない。口頭で伝承される情報は貴重。

最後に、何のためにするかを常に考えながら話を聞け。スターラーバーを入れてオートクレーブする理由、酵素液をボルテックスしてはいけない理由、寒い日のミニプレップには注意する理由。様々な手順や操作には理由がある。理由が分かると操作自体の注意点が明らかになるだけでなく、他の操作にも応用が効く。

具体的にメモすること

ここからは具体的な話。いくつかの項目に分けて書く。
とにかく説明のすべてをメモしろ

器具・機器に関すること

wetな実験をしていると、様々な器具や機器を使う。それぞれの特性を考えて、自分が使う場面を想像しながら説明を聞け。

まずはどこにあるか。器具や機器を使うとき、サラッとその場所に移動して説明されるので忘れがちだが、必ずメモしろ。試薬瓶だけ他と離れた場所にあるとか、似たような機器が離れた位置にあるとかといったことがある。他にも、チップやディスポピペットなどの備品の予備がどこにあるかもチェックしろ。こういった備品は一部を外に出して残りは倉庫に置いていることがほとんど。倉庫から出すときには、倉庫内のどこにあるかを記録しておくと、数か月後の自分が救われる。

次に使い方。特に注意事項や禁止事項はすべてチェックしろ。不安ならチェックリストを作成しろ。これらは守らないと事故の原因になったり、機器の損傷につながったりする。例えばオートクレーブをするとき。その試薬はオートクレーブしてもよいか、瓶のふたは開いているか、水は入っているか、タンクの水量は適正かといった具合。

最後に意識すべきことは、使用前後の話。使用中は意識して話を聞いている人が多いと思うが、自分が一人で操作するとなった際には、その前後の手続きや操作も自分自身で行う必要があるため要確認。例えばフラスコはあらかじめ乾熱滅菌する必要があるか?使用後の洗浄の仕方は?オートクレーブの予約の仕方は?クリーンベンチの立ち上げ方は?使い終わった後の消毒は?ウォーターバスの電源は使うたびに消すのか?こういったルールは研究室ごとに大きく異なるので注意。

加えて、機器の場所は具体的に記述することをおすすめする。例えば冷蔵庫は何度のものか?生物系では4℃、-20℃、-80℃、-196℃がある。それぞれの場所を書き留めておき、さらにはその中の場所もメモしておくべき。インキュベーターもシェイカーも同様。温度や回転数はとても大切なのですべてメモする。

操作に関すること

まずは何をするときにその操作をする、あるいはしないのかをメモしろ。特に生物系なら無菌操作と混ぜる操作、on iceの操作。それからAgarの話を最後にする。

無菌操作をどこまでするかは研究室によって大きく異なる。また、無菌操作はクリーンベンチでの操作と卓上での操作に分けられる。クリーンベンチでの操作はメモしなくても覚えていることが多いからまだいいが、卓上での無菌操作は意外と記憶に残っていないので書き留めろ。例えばLB培地の調製や大腸菌の播種。意外とコンタミしないので全く何もしない研究室もあるが、アルコールランプを焚いて操作するところもある。また、無菌操作の時に使うアルコールも100%だったり70%だったりと様々なので注意。

混ぜ方は基本的にボルテックス、タッピング、ピペッティング、転倒混和。
多くはボルテックスで混ぜるが一部は禁止なので必ずメモしろ。強い刺激に弱いものの有無が重要。特に制限酵素とコンピテントセルの入った溶液はボルテックスをするな。これはたぶんどこでも変わらない。タッピングや転倒混和で混ぜる。これはアドバイスだが、ピペッティングでもコンピテントセルはダメージを受けることがあるので転倒混和がおすすめ。

on iceでの操作はいろいろある。コンピテントセルの調製や、プラスミドの融解、制限酵素溶液の調製など。絶対にon iceでしなければいけない操作をメモすること。制限酵素は絶対に氷上で扱え、研究室全体に迷惑がかかる。また、これは自分の操作する姿を想像しろという点にもつながるが、どの操作でon iceの工程があるかを確認しておけ。実際に操作するとき、必要になってから氷を用意すると時間を無駄にしてしまったり、慌ててミスしてしまったりすることがある。
ここから悪知恵。on iceだとなかなか溶液が融解しない。先輩やテクニシャンに聞きながら、これなら室温で溶かしても大丈夫というものは覚えておくと良い。プラスミドやPCR産物は意外と安定で体温で溶かしても大丈夫なことが多い。ただし必ず一度は確認すること。

最後にAgarの話。寒天を作るとき、どのAgarを使うかを必ず確認しろ。特に泳動用ゲルのAgarは高いので、間違えても寒天培地のAgarに使うな。泳動用は本当に高い。

水に関すること

盲点になりがちな水。水なんて1種類しかないと思っていると大変な目に合う。研究室で使う水は大きく分けて3種類ある。

  • 水道水

  • 純水

  • 超純水

水の種類にははっきりとしたルールがなく、呼び方や区分が研究室ごとに異なるが、大体これらに大別できる。

まず水道水。これは水道から出てきた水で、基本的には洗浄やウォーターバスなど、コンタミの恐れのない場面で使用される。
つづいて純水。純水は、RO水や蒸留水、イオン交換水などがある。脱塩水はDWと呼ばれることもある。試薬づくりにはこれを使う研究室が多い、と思う。
最後に、超純水。これは水中のイオンが極めて少ない水であり、MiliQ水などがある。

その他にも、DWをオートクレーブしたD2Wや滅菌水、HPLCのための超純水など、一口に水と言っても様々なものがある。正しく使わないと自分の実験結果に影響するだけでなく、共通の試薬をコンタミさせてしまったり、機器をダメにしてしまったりする

とにかく、水を使う際はどの水を使っているかを明記することを強く推奨する。試薬の調製で使う水だけでなく、オートクレーブで使う水、インキュベーターに補充する水なども忘れるな。

参考に。

洗浄に関すること

特に洗剤を使うかどうか。洗剤はなぜ使うのかを考えろ。お金がある研究室ではテクニシャンが洗ってくれることもある。感謝。ただし、その場合も一部は自分で洗うということがあるので、どれは自分で洗うのかを確認しておく。

また、廃液処理の仕方は必ずメモれ。誤って有機廃液を流してしまうと大変なことになる。有機廃液はCl-の有無などで分けられることが多いが、とにかく研究室の指示に従う。オートクレーブ廃液にも注意。組換え体を下水に流してしまうことがないように。

発注に関すること

実験用の試薬やプライマー、シーケンス解析などを自分で発注、外注する機会があるだろう。特に忘れがちなのは、ログイン用のメアド、パスワード、代理店の選択だと思う。また、試薬発注の場合は、見積もりをもらった後、どのように事務手続きをするかのフローもすべて記録しておく

その他

上記以外で自分がミスしたものを残しておく。

まず、プラスチックのチップで扱えるか。これはCIAの調製時など、強力な有機溶媒を使う際の話。ディスポピペットで吸ってしまい、ぼろぼろに溶けた。有機溶媒は必ずガラスで吸うこと。それから、酸性の溶液もガラス。
溶液の扱いなども説明があるはずなので気を抜かずにメモをする

それから、補充。液体窒素や二酸化炭素などは使えば当然減ってゆく。もしなくなったらどういう手順で補充するかを確認し、当番制の場合は必ず忘れないようにする。液体窒素は細胞の凍結保存や、核酸抽出の際などに使われる。二酸化炭素はインキュベーターの二酸化炭素濃度を維持するために使われる。

最後に

色々書きましたが、ほとんど僕が失敗したり見落としていたものです。同じ過ちを繰り返さないようにしてもらえたら幸いです。

最後に、もしわからなくなったら遠慮なく聞きましょう。自己判断で大きなミスをしてしまうくらいなら、迷惑をかけてでも聞いた方がマシです。ただし、質問をするということは相手の作業を止めてしまうことなので、できるだけ避けたいものです。そのためにも、とにかくすべてメモしましょう


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