【基礎編⑥】方法記憶を利用すれば一気に成績アップ!?
記憶は5つに分類される
これまで人間の記憶構造を心理学的側面と脳科学的側面から紐解いてきました。今回はそんな「人間の記憶」をもう少し細かく分類し、深掘りしていきます。
記憶はよく短期記憶と長期記憶に分類されますが、これは大雑把な分け方であり、本来は以下のようにより細かく分類することができます。
(https://qiita.com/katsu1110/items/352f20ed91bf3299e155より引用)
それぞれ見ていきましょう。
感覚記憶(sensory memory)
これは一般的な「記憶」のイメージと少しかけ離れていますが、記憶分野では明確に記憶のひとつとして位置づけられています。外界からの刺激が感覚受容器(目や耳など)を刺激し、そこに神経活動を生じさせ「注意が向く」。その瞬間に貯蔵される情報が感覚記憶です。ここで感覚的に受け取られた情報は、約1/4秒だけ記録され、その中で特に注目された情報が短期記憶装置へと送られます。つまり短期記憶装置への関門の働きをしているわけです。
短期記憶(short-term memory)
短期記憶はこれまで見てきた通り、数秒単位で意識下に貯蔵される記憶です。場所は海馬でしたね。一回に7項目くらいしか留めておけません(メモリースパン)。役割としては「一時的な記憶の貯蔵」と「長期記憶への移行」です。長期記憶へ移行するために海馬は約1ヶ月をかけて情報を取捨選択します。いかに選ばれやすい情報にするか、いかに海馬を騙すかなどが長期記憶へ移行させるために重要というお話もしました。
知識記憶(意味記憶:semantic memory)
長期記憶の一種です。名前の通り、知識そのものの記憶です。学校の机の上で学び、インプットする内容のほとんどがまずこの記憶になります。特徴は「何かきっかけがないと思い出せない」という点です。自発的に思い出せないんですね。何か、ヒントがないと思い出せない。授業で学んだ内容などはまさにこの特徴に当てはまります。ただ、これではせっかく貯蔵した知識を自由自在に使えません。そこで利用したいのが経験記憶です。
経験記憶(エピソード記憶:episodic memory)
長期記憶の一種です。先ほどの知識記憶から移行し保持されることの多い記憶です。何事も知識としてインプットしてもすぐにアウトプットできるとは限りません。何かしらの自発的なアウトプットが必要です。例えば、人に説明したり、テストを受けたり。知識記憶をこうした経験に乗せることで経験記憶へと移行します。すると記憶の定着はより強固となり、かつきっかけがなくても自発的に思い出せるようになります。ただ、1ヶ月間、経験記憶のメンテナンスをしなければ、すぐに知識記憶に戻ってしまうので注意が必要です。
では一ヶ月たっても変わらない記憶はないのでしょうか。それがあるんですね。方法記憶です。
方法記憶(手続き記憶:procedural memory)
長期記憶の一種であり、勉強の質をあげるためにも重要な役割を担う記憶です。方法記憶は最も原始的な記憶で、赤ちゃんのころから備わっています。
よく例に出されるのが、自転車の乗り方ですね。多くの人は小さいころに自転車に乗る練習をした経験があるかと思います。一度自転車を乗れるようになると、以降乗り方を忘れることはほとんどありませんよね。それは自転車の乗り方という方法記憶を身につけているからです。自転車に乗っていない期間が数年あったとしても、いざ乗り始めると問題なく乗ることができます。
これはいわゆる乗り方を体が覚えている状態です。
しかも方法記憶は別に意識して覚えているわけではありません。「なぜかわからないけど乗れる」。これこそが方法記憶の特徴です。すなわち無意識のうちに記憶しており、忘れにくいのです。
さらにもう一つ特徴があります。「方法記憶は他のことにも応用できる」という点です。例えば、原動付自転車(原付)について考えてみましょう。原付に乗る人はよく「自転車のようなもの」と言うそうです。まあ名前からもそうですよね。乗る感覚が自転車と似ているわけです。2つの車輪からなる構造で、ペダルをこぐことはありませんが、バランスを取りながらエンジンで前に進みます。このように乗り方において自転車との共通点がたくさん存在します。そして不思議なことに人は原付に乗る際、無意識に自転車に乗る感覚(方法)を応用します。
そうすることで、よりスムーズに原付という新しい道具を使えるようになるのです。このように方法記憶は無意識のうちに他のことに応用できる記憶なのです。
方法記憶を利用して効率よく学習するためには?
さて、普段勉強では知識記憶、経験記憶をよく使うかと思います。学校で勉強して知識記憶として取り込み、テストなどで力試しをしたり、友達に教えるなどして経験記憶に絡ませ定着させる。この二つを繰り返すことで、確かに勉強は問題なく行うことができます。
ただもっと効率よく学習できるのであれば、それに越したことはありませんね。そこで鍵となるのが方法記憶です。実はみなさんは、もうすでに方法記憶を利用した学習を行なっています。
例えば、暗記方法とかそうです。英単語の暗記に苦労された方は多いでしょう。でも何度も失敗と成功を重ねて自分の暗記方法を見つけたかと思います(もちろん暗記効率が良い悪いは別として)。そしておそらくその暗記方法は他の暗記科目にも使っているのではないでしょうか。無意識に自然と応用しているのです。あくまで自然とです。過去にうまくいった方法を似たような場面で無意識に行うというわけですね。これが、方法記憶の転用です。
ただ、もちろん方法記憶の転用はメリットもあればデメリットもあります。
方法記憶を利用すると過去の成功体験を新しい内容にスムーズに適応できるので、新しい内容の習得も早くなりますが、一方100%同じ方法が合うとは限らないため、少し合わないと、そこで身動きが取れなくなってしまう可能性があります。過去の成功体験は新しいことに対し100%合うことはほとんどないため、意外とデメリットの側面が現れることが多いのです。
では合わなかった際に方法記憶を少し変えて新しい内容にうまく合わせることはできないのでしょうか。それができるんです。方法記憶を普段から無意識ではなく意識的に転用すればよいのです。そして意識的に転用するためには、過去に上手くいった方法記憶を言語化(図式化)し体が覚えているという感覚的なものから、人に説明できる具体的なものにする必要があります。
そうすれば言語化された方法記憶を意識的に新しい内容に適応でき、うまくいかなかった場合でも、どこが合わないのか分析し修正が可能となります。これこそが方法論の強みなのです。やり方は人によって異なります。ただ。そのやり方を明確に見える形、言語化や図式化できれば、上記のように修正しながら適応させることができ、勉強の質とスピードはべき乗に上がっていきます。
このように、それぞれが持っている独自の方法記憶を具体化し、意識的に利用することが最も効率のよい学習につながるコツです。
ではまとめです。
・記憶には感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分かれる。さらに長期記憶は知識記憶、経験記憶、方法記憶に分けることができる
・知識記憶はきっかけがないと思い出せない。これを自由に思い出せる記憶、すなわち経験記憶にすることで記憶を自由に使うことができるようになる
・方法記憶は転移(応用)できる記憶で、無意識下で定着する。ただし、言語化し意識下におくことで、転移を確実に行い、べき乗に成果をあげることができる
以上が心理学的、脳科学的な側面から見た記憶・暗記のお話です。こうして人の記憶構造を見ていくと、どんな勉強方法が良いのか、どのように進めていけばよいのかがわかりますね。
さて、効率よく記憶するためには、情報を有意味化させることが重要でした。また脳科学でいう学習は「独立した物事の関連性に気づくこと」でしたね。このように、上手に勉強するためには、物事の意味や繋がりを意識した方が当然よく、そのためには「理解すること」を避けては通れません。理解は全ての学習の基本なのです。
ただ「理解」というのもまた漠然なもので。「理解を説明してください」と言われても、なかなか答えることができません。そこで次からは「理解」を深めていきたいと思います。
それでは🐧
一人でも多くの方にお役にたてたらと思い…ペンペン先生がんばります🐧