【基礎編⑩】やる気のメカニズムを知りコントロールせよ!
やる気のメカニズムを知りコントロールしよう
今回は番外編として動機付け、すなわち人のやる気について、紐解きたいと思います。
さて、「やる気」を考えるにはもう少し要素分解する必要があります。やる気を分解すると「数日〜数年単位の長期的なやる気」と「数分〜数時間単位の短期的なやる気」に分けられます。そして長期的なやる気は動機付け二元論やアトキンソンの期待価値理論で説明でき、短期的なやる気は集中力のメカニズム、すなわち人間の好奇心と飽きで説明することができます。それではひとつひとつ見ていきましょう。
長期的やる気:動機付け二元論
動機付け二元論とは「やる気が生じるきっかけは外発的なものと内発的なものに分類される」という考え方で、前者が外発的動機付け、後者が内発的動機付けと呼ばれます。たとえば学習の動機付けについて考えてみましょう。
外発的動機付けでやる気が生じている人は、学習をなんらかの目標達成する手段としてとらえている状態にあります。たとえば、勉強できればモテると思ってやる気を出したり、将来金持ちになるために今勉強を頑張るといった具合です。学習の先に自分が達成したいことを強く意識することで、やる気を出す。この流れが外発的動機付けによる学習といいます。
一方内発的動機付けでやる気が生じている人は、学習を目的としてとらえている状態にあります。すなわち学習すること、学習内容自体に興味があり、やる気が生じている。この流れが内発的動機付けによる学習といいます。
このように二元論で説明すると人のやる気をシンプルに説明することができます。ただ、当然人間はそんな単純にできているわけではありません。この二元論だけでは説明できない場面が多々あるのです。そこで、認知心理学の領域でも有名な市川先生が提唱した理論があります。「学習動機の二要因モデル」です。
長期的やる気:学習動機の二要因モデル
二要因モデルとは、学習の動機付けに関わる要素は「学習内容の重要性」と「学習の功利性」という二つの軸により、具体的には6つが存在し、さらにこれら要素のグラデーションにより人の動機付けは構成されるという考え方です。
縦軸の学習内容を重視しているか軽視しているか。横軸の学習の功利性、すなわち学習によって得られる利益を重視しているのか軽視しているのか。これらにより分類される5つの要素の割合によって、人のやる気が構成されています。それでは6つの構成要素を一つ一つ見ていきましょう
充実志向は学習内容を重視し、功利性を軽視しているパターンです。すなわち知的好奇心、理解欲求が強く、やっていること自体が楽しいと感じるタイプです。
訓練志向は学習内容を重視しつつ功利性も少し考えているパターンです。自分のスキルがあがり、さらに別分野でもスキルアップすることに意義を見出すタイプです。
実用志向は学習内容も重視しつつ、その学習による功利性も重視しているパターンです。自分が学んだことが自分だけでなく、世の中にどう貢献できるか、還元できるかというところも重視しているタイプです。
関係志向は、学習内容も功利性も軽視しているパターンです。実際何をやるとかはどうでもよく、それをやることで何を目指すというのもあまり気にしません。むしろ誰と一緒にやるかによってやる気が左右されます。「みんながやっているからやるんだ」というタイプです。
自尊志向は学習の内容は軽視しており、功利性の方をどちらかというと重視しています。これは自分が興味ある対象を学習するというよりも、他者と比較し自分が優位にたって気持ちよくなることを大事にしています。なので、プライドが高い人やライバル設定したり、数値化することでどんどん数値が改善されていくことに気持ち良さを感じ、やる気になるタイプです。
報酬志向は内容は軽視し、功利性を重視しているパターンです。典型的な外発的動機付けに該当します。お金のためになら何でもするタイプです。
このように動機付けを構成する要素は6つあり、それらの強弱によって人のやる気が形成されます。
そして二元論である内発的動機付けと外発的動機付けは、二要因モデルで言うと、前者が充実志向に該当し、後者が報酬志向に該当します。つまり、両者は二元論的に独立しているのではなく、同一直線上に存在する関係性であると説明しています。したがって、強弱はあれど、人は誰しも内発的動機付けと外発的動機付け、どちらも備わっているという考えが二要因モデルなのです。
少し話がそれましたが、動機付けは6つの要素のグラデーションであることがわかりました。そして、このグラデーション(強弱の比率)は時間軸によって変化します。すなわち、その時々で、人のやる気スイッチは変わるのです。これはみなさんも経験があるかと思います。
たとえば以下は、適当に作った動機付けの比率です。
今の時点では実用志向と報酬志向が高くて、他は低いです。だから、この高い二つの要素を刺激する工夫をすればやる気が出ます。そして、あくまでこれは現時点での比率なので、数ヶ月後はまた別の比率になってるかもしれません。
ただ、それが自然です。
高校二年生と三年生の勉強への原動力は異なります。大学生と社会人でもやる気のバランスは異なります。学習する対象によっても動機付けは異なります。時期や対象によってやる気のバランスは容易に変わります。したがって、大事なのは今の自分がどのようなやる気の比率なのか、具体化して客観的に評価し、的確に刺激し続けることなのです。
さてここまで長期的やる気である動機付け二元論と二要因モデルをみてきました。次に同じく長期的やる気を別の側面からフォーカスするアトキンソンの期待価値理論を見ていきましょう。
長期的やる気:アトキンソンの期待価値理論
心理学者のアトキンソンは人の動機付け、すなわちやる気は期待と価値のかけ算で構成されると提唱しました。
期待とは、求める対象が得られる見込みを示します。つまり「学習で得たい対象をどの程度の確率で得られるか」、その見込みをいいます。期待はさらに、結果期待と効力期待に分けられます。結果期待とはその行動をとれば、良い結果が得られるという期待で、効力期待はその行動を実際にとれる期待です。
例えば月曜日に漢字テストを控えているとしましょう。今日は日曜日です。前日なので、さすがに勉強しないと間に合いません。そこで2パターンを考えてみます。
ひとつは「テストが出る範囲がわかっているパターン」です。特定の30問の中から10問出されるとわかっている場合、この30問をやれば良い結果が得られるであろうという結果期待は高まります。さらに、30問程度だったら1日で勉強できるだろうという効力期待も高まります。したがって行動に移す確率が高くなります。
一方「テストが出る範囲がわかっていないパターン」を考えてみましょう。高校3年間で学ぶ漢字から10問出るという条件のみわかっている場合、明日のテスト勉強なんてやる気が出ません。そもそも高校3年間で学ぶ膨大な量の漢字で、どこを勉強すれば良い結果が得られるかなんて、わかりっこない。すなわち結果期待はかなり下がりますし、もし仮に全ての漢字を勉強するとしても、1日じゃできっこない。すなわち効力期待も下がります。したがって、アトキンソンの期待価値理論の期待値はめちゃくちゃ低く、やる気は全くわかないのです。
次に価値をみていきましょう。価値とは、求める対象の有益性の評価をいいます。すなわち、「学習で得たい対象が、自分にとってどれほどの価値があると評価しているか」がやる気に大きく影響するのです。
先ほどの漢字テストの例でいうと、たとえば「この漢字テストで合格しないと留年になる」のであれば、価値は非常に高く、徹夜してでも勉強するでしょう(もう少し早くから勉強するとは思いますが)。一方、「漢字テストで合格しなくても簡単な再テストがある」のであれば、価値は低くなり、今回はまあ勉強しなくてもいいかという気持ちになります。
以上のように、アトキンソンの期待価値理論では、やる気は結果期待と効力期待、価値の3要素のかけ算で構成されています。
ここで重要なのが、足し算ではなくかけ算である点です。すなわち、どの要素もバランスよく高くなければ、やる気は出ないということです。どれだけ期待が高くても、価値が「0<=価値<1」であれば、やる気は0ないしは1以下になります。全くやる気がないわけじゃないけど、なぜかやる気がでないと思った時には、どれかの要素が下がっている可能性が高いため、きちんと分析し、どうしたら全体を高めることができるかしっかり考えることが重要なのです。
次に短期的やる気について見ていきましょう。
短期的なやる気:集中力
短期的なやる気とはいわゆる集中力です。つまり、短期的なやる気がなくなるとは、集中力が切れることを意味します。では集中力はなぜ切れるのかを考えると、好奇心が薄れ、飽きてくるからです。
では好奇心とはなんでしょうか。きちんと定義されています。
「好奇心とは新規性、複雑性、不確実性、葛藤といった特性を持つ刺激や活動に対するプロアクティブで、意図的な行動促すもの(Kashdan, Rose, & Fincham 2004)」
これだけでは意味不明ですね。一言でいえば、好奇心は対象に抱くワクワク感です。たとえば、ポケモンGO。知っていますよね。実際の街中でポケモンをつかまえて楽しむゲームです。これ初めてやるときはワクワクしましたよね。つまり好奇心が非常に高かったかと思います。
PokemonGO公式ページより引用
さてもう一つ見ていきましょう。チームラボが作る空間です。デジタルアートですね。この空間も素晴らしく、一歩踏み入れるだけでワクワクします。好奇心が高まります。何かに触れたくなります。
チームラボ公式ページより引用
さて両者に共通することは新規性、複雑性、不確実性です。こうした特性をもつ対象に対して、自らゲームを立ち上げたり、いろんなところに触れるといった意図的な行動が促されています。すなわちワクワク感、好奇心を抱いている状態なのです。
ただ、ゲームを毎日やっていたり、こうした空間に長時間いると飽きてきます。好奇心がなくなってきます。それはなぜでしょう。それは対象から新規性や複雑性、不確実性が軽減されるからです。
では新規性や複雑性はどのような点で現れるのかというと、それもわかっています。まず対象側の要素しては機能、デザイン、時間。そして個人(私たち)側の要素として欲求、経験、興味。こうした要素に新規性と複雑性が現れ、高まると好奇心をもつことになるのです。
したがって、ポケモンGOを毎日やると、対象要素では流行が薄れてきたりとか、個人要素では慣れてくることから、ポケモンGOが当初もっていた新規性や複雑性、不確実性が軽減し、好奇心が薄れ飽きにつながるわけです。チームラボの空間も同様のことが言えます。
このように、集中力というのは、対象や個人の状況、状態によって移り変わるものであり、集中力が切れた時には、どの要素において新規性や複雑性、不確実性、葛藤が軽減、ないしは消失しているのかを分析し、それらを再度高める工夫をすることが大事なのです。
まとめです。
・やる気は長期的やる気と短期的やる気がある
・長期的やる気は動機付け二元論、学習動機の二要因モデル、アトキンソンの期待価値理論で説明される
・短期的やる気は集中力、すなわち好奇心と飽きで説明される
・やる気がでない、集中力が切れる際には、それぞれの理論からどの要素が原因かをあぶり出し、高める工夫をすることが大事である
さて本記事を持ちまして、ようやく心理学脳科学で知る勉強方法の基礎の解説を終えることができました。すなわち人が物事をどのように学ぶのか、人間という動物単位での学習メカニズム(情報把握、情報処理、問題解決、理解、記憶、想起、動機付け)を知ったことになるのです。
ではもともとの目的に戻りましょう。そもそもこのシリーズを始めた理由は「経験則に基づく勉強方法を心理学、脳科学的に検証したい」というものでした。そのために、まずは前提知識として人間の学習を心理学、脳科学的側面から見てきたわけです。
準備は整いました。次回からはいよいよ勉強方法について、世にある勉強方法を一つ一つ検証し、人間に合う方法と合わない方法を明らかにしていきたいと思います。
では🐧
一人でも多くの方にお役にたてたらと思い…ペンペン先生がんばります🐧