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55.妻のファイティングポーズ

僕は殴り合いの喧嘩をしたことがありません。
もしあったとしても小学校低学年くらいか、もっと幼少期の頃の可愛い喧嘩です。

変な話かもしれませんが、「人を思いっきり殴ったことがない」もしくは「人に本気で殴られたことがない」ことがコンプレックスだったりします。
とは言っても殴り合いの喧嘩がしたいという願望はありません。

ただ、ボクシングや総合格闘技などには、とても強い憧れがあります。
己の体1つで対戦相手と対峙し、どちらが強いかだけを決めるなんて、かっこよすぎます。
残念ながら自分がやる勇気はございません。

喧嘩漫画や、ボクシング漫画(あるいは小説)を読んで、自分が強くなったかのように錯覚するので精一杯です。
最近では改めて刃牙のシリーズにハマっています。



話は少し遡りますが、年末のことです。
ここ数年、「年末に何を見るか」という話題になれば、紅白歌合戦とガキ使の2強が挙げられるかと思います。
男性やスポーツ好きなんかはここで「RIZIN」が挙がってくる場合もあるかと思います。
僕が学生の頃には「PRIDE」と呼ばれるものでした。
基本的には総合格闘技ルールが主体の大会ですが、キックボクシングルールなどの様々なルールの試合を行う大会です。

年末年始、僕と妻はご時世的にも実家に帰らず、だらだらと紅白を流し見していました。
途中、チャンネルを変えると、たまたま「RIZIN」が映りました。

「那須川天心 VS クマンドーイ・ペットジャルーンウィット」の対戦です。


(あ、見たいかも)と思った矢先

「きゃあっ!」

と妻が小さな悲鳴を上げました。
妻は暴力的なシーンや血が流れるシーンが苦手です。
手で目を覆うようにしてテレビを見ないようにしていました。

(うーん。見たいけど、変えるか、、、。)

と思ってもう一度妻を伺うと、指の間からしっかりとテレビを見ているではありませか!
そして、何よりその目が輝いているのです!

(お、これはいけるかも!)

チャンネルをそのままにしていると右肩上がりに妻のテンションが上がっていきます。

「いけ、天心!すごい!強い!!かっこいい!!」

「はやい!すごい!倒しちゃえ!!」


人間というのは本能的に強い生物に惹かれるものなのでしょうか。
妻はもう那須川天心の試合に釘付けです。

「本当にすごいなあ、、!」

妻はもう関心しきりです。
途中、那須川天心が不思議なポーズをしました。
どうやら、KOを仄めかす際なんかに、よくやるポーズだそうです。
アキレス腱を伸ばすように足を大きく広げ、前かがみになり、片方の手を下から上に突き上げ、もう片方の手を上からしたに振り下ろし「いてかますぞ!!」と言わんばかりの挑発的なポーズです。

見た瞬間に(知ってるぞ、、!)と思いました。
動物の動作やスタイルを真似る中国拳法とリアルシャドーを応用して生み出す、あの技だ!!

僕は興奮を抑えきれません。

惑星史上最強の突進力をもつとされるトリケラトプスを模倣した、刃牙の技「トリケラトプス拳」じゃないか!
僕はとても感動し、妻に「トリケラトプス拳」の説明をしました。
妻は強い者に憧れる少年のような眼差しを見せました。
ワクワクが止まらないといった様子です。
なんてエンターテイナーなんだ、那須川天心。
(結局、試合は那須川天心の圧勝でした。)



緊急事態宣言下ではありますが、テレワークは週に2回ほどです。
僕も妻も同様です。
ある日、妻は帰ってくるなり言いました。

「今日、後輩のAちゃんと二人でお昼ごはんを食べたんだ!那須川天心の話をしたんだ!」

おお。それはすごい、と思ったのもつかの間でした。
妻はもちろんですが、どうやら後輩のAちゃんも、あまり格闘技に詳しくないそうです。
妻から聞いた話はこう。


妻「そういえばちょっと前にTVでK1見たんだ!那須川天心のやつ!」

A「え、すごい!もしかして年末にやってるやつですか?」

妻「そうそう、K1」

A「え、RIZINとかいうやつじゃないんですか?」

妻「ライジン、、、、??」

A「たぶんRIZINだと思いますよ。」

妻「ライジン、、、、??うーんわかんないけど、K1だよ!」

A「そうなんですか?あれってRIZINじゃないんですね。」

妻「うーんわかんないけどK1だったよ!」

A「そうなんですね!どうでしたか?おもしろかったですか?」

妻「うん!強くて、かっこよかった!!」

A「小学生みたいな感想ですね。笑」


妻はとてもニコやかに話をしてくれました。
ツッコむべきところは色々ありますが、妻が楽しかったのだからそれで良しとしようではありませんか。
とやかく言うのは妻の嬉しそうな表情に水を差すようなので、辞めました。

もはや言葉なんて必要ない。そう悟った僕は、渾身の「トリケラトプス拳」を披露します。

「ふんっ!!」

妻はとても楽しそうに笑いました。

「私も知ってるよう、それ!」

そして妻は僕と同じポーズをして力強く叫ぶのです。

「ヘラクレスっっっ!!!!」

僕は何も言わず、小さく頷きました。
なんと妻は無意識にヘラクレス拳を習得したのです。イカすぜ、妻のファイティングポーズ。

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