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koino owariniha wakegaatte

『おーい、空、出し物回らないのか。』同じクラスのサッカー部のやつだ。

まだベランダで転がっていたかった。今日はバツが悪い。最高に。
賑やかな校舎の中で余った資材が積まれたここだけが五月蝿くない気がする。

付き合って一年になる彼女と口を訊かなくなって十日になる。最後に聞いたのは、今年は文化祭に出れるから一緒にいよう。だったはず。

『今日さ、結局女バド大会なんだってな。ドンマイじゃん。』

サッカー部はまだ喋り続けている。どうやら彼女はここにいないらしい。ダンボールを重ねたこのベッドから動くのがもっと嫌になる。雲から覗く光が綺麗だ。

『大会、先週じゃなかったっけ』出来るだけ温度のない声をつくる。

『なんだ知らなかったの。台風でズレたって。この前の。一緒回るか。』

いいやつだな、なんて分かってたことを再確認する。でも、先週から付き合いだした彼女と昼過ぎに約束してると朝盛り上がっていたのを聞いている。

『こういうの、苦手でさ。ありがとう。』

『そっか。孝も探してたから返事してやれよ。』

『分かった分かった。』
携帯を開くと、どこ?と20分前にメールが届いていた。D組のベランダ、とだけ返信を打ってまた仰向けになる。

今日、ここに分かり合えるやつはいない。「彼女と回るやつ」はもちろん。「そもそも彼女がいないやつ」も「女子に興味ないフリをするやつ」も。このわだかまりと同じ種に水をかけているやつなんていない。

誰かが昔、言ったらしい。
「あるから寂しい。知るから虚しい。」
僕には、彼女がいて。一緒に楽しく遊んだ時も記憶にある。

目の前には、焼きそばを持った笑顔の孝がいた。


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