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推し活に疲れていませんか?〜観る将スランプの立て直しかた〜

観る将だって、疲労する

私が2017年の29連勝で始まった藤井聡太ブームから観る将(アマ段位者や将棋大会に参加するかたとは違い、ゆるゆると観戦や将棋イベントをメインに楽しむファン)になり、早6年が経とうとしている。

実はつい最近まで、私は二度目のスランプ状態だった。推し先生への応援の気持ちはともかく、将棋自体にちょっと距離を置きたい気持ちというのだろうか、心が疲れているなと感じていて、普段ならスラスラと書けていたnoteも全然言葉が浮かんでこなかった。

ただ、二度目、と書いたように私は以前にも似たような経験があり、克服する方法に心当たりがあった。ひきはじめの風邪のように、観る将の推し活疲れにも早めのパブロンならぬ心の処方箋が必要なのだと思う。

早く元気を取り戻して、今まで通り楽しく推し活に励めるように。今回の記事ではそんな私の対策をまとめてみたので、読んでくださったかたのお役に立てればとても嬉しい。


よくあるスランプのきっかけ「推しの敗戦」

今回のスランプのトリガーは、2023年1月18日のA級順位戦7回戦で、豊島将之先生が藤井聡太先生に敗れたことによるものだった。名人挑戦の可能性がかなり厳しくなったことで、目に映るもの全てにキリキリと心が疼いていた。

私がどれほど豊島先生の名人復位を切望しているか。noteの過去記事やTwitterでもずっと熱弁し続けてきた。
貴重な十代・二十代を将棋に捧げ、不断の努力を続けてこられたかたの願いが叶ってほしいと、並々ならぬ思い入れがあった。
この対局にどうしても勝って欲しいと願う気持ちが強すぎて、反動として敗れてしまったことへの失意も簡単には拭いきれなかった。

あれこれ言葉を並べる必要はない。ファンにとって推しの至福は自分の至福以上だ。
第77期名人となった翌朝、ホテルのロビーでインタビューを受ける豊島先生。この眠そうだけれど心から幸せそうなお顔。
私はお名前こそ存じ上げてはいたものの、そこまで深く先生を知らなかった為に、リアルタイムで一緒に喜ぶことが出来なかった。
嬉しさを隠しきれない豊島先生のこの表情が、私はどうしても観たくてたまらないのだ。

最初に私の観る将活動がスランプに陥ったのは、2021年の第34期竜王戦七番勝負第4局で豊島竜王が失冠した直後からだった。
激しい虚無感(虚無顔が得意⁈な先生を推しているが本当の意味での虚無)に襲われた。北陸から遠路はるばる山口県宇部市を訪れ、まる二日間を全身全霊で応援したのに願いが届かなかったのだから無理もない。

冷静に考えれば勝負事の結果に自分ごときが影響を及ぼせるはずも無いのだが、その時は自分は豊島先生の何のお力にもなれなかったと、ひたすら無力感に苛まれた。

Twitterでは気力を振り絞り、また全力で応援しますと明るく宣言していたが、自分の人生ですらこんなに落ち込む事はないのに(なんとありがたい人生だろう!)仕事に支障をきたすほどには失意に心が捉われ、ガックリときていた。


対策その①誰かの言葉ではなく推しの言葉を信じる

最初のスランプ時に私を救い出してくれたのは、2021年12月12日放送のNHKスペシャルだった。
戦いを終えた豊島九段が、誠実さを感じる眼差しで語った言葉がこれだった。

豊島「いや、もうちょっと続けたかったというのはあります。
対局がどう、スコアがどうとかじゃなくて、純粋になんかやっている瞬間が気持ちいいというか、すごく集中していて、言葉にするのは難しいですけど、気持ちいい時間というか、瞬間というか。
(藤井さんが)すごい先のほうまで正確に読まれているので、自分もそこに到達して、もうちょっと先の局面まで指したかったなと」

「四冠誕生 藤井聡太 激闘200時間」NHKスペシャル

私は、雷に打たれたようだった。
私の推し先生は、考える時間が気持ちいいと感じるほどに将棋を愛しておられるかただったと。
無冠となってしまった悔しさなど毛頭も無い。この清らかで美しい世界線に、私はただ自分の俗世にまみれた感性を恥じ、心から豊島先生に感動した。

マスコミではこの時も序列が最年少記録がと騒がしく、中には本当に中身のない、心ない内容の報道記事も乱れ飛ぶ中で、対局者のお二人は全く別世界で静かに将棋を楽しんでおられたのかと。

それからは、騒がしい外野の言葉に惑う事なく、先生ご本人の言葉を信じていこうと決めた。中継が無かったり、感想戦取材が省略されたりと、対局を終えた気持ちを推しはかるのが難しい場合もあるが、出来る限り憶測で想いを巡らせるのではなく、先生ご自身の声を聞いて判断したい。

幸いにも今回も嬉しいニュースが浮上のキッカケとなった。2023年2月1日のA級順位戦8回戦、通称「ラス前」と呼ばれる一斉対局で藤井聡太先生が敗れたことにより、名人挑戦権争いは一気に2敗の2名(広瀬・藤井)と、3敗の4名(斎藤・豊島・永瀬・菅井)による大混戦の様相となった。

朝日新聞社YouTubeチャンネルの囲碁将棋TVでは対局後の豊島先生のインタビューが中継され、挑戦の目を残して迎える最終一斉対局について、次も自分なりに精一杯指していきたいという決意を直接聞くことができた。

私は嬉しくて最終局の全32通りの結末をくまなく調べた。全く、この情熱があれば学生時代に苦手だった数学の確率問題も解けそうなものだが、豊島先生の挑戦の可能性が僅かではあるものの確かに残されている事を知り、私は神に感謝した。まだ夢は続いているのだ!

現在2敗の広瀬先生か藤井先生のどちらかが勝利するか、両者とも勝利した場合は現在3敗の4名(斎藤・豊島・永瀬・菅井)の挑戦は無くなるが、それでも奇跡のプレーオフを信じて、頑張る豊島先生を全力で応援しようと心に決めた。

6勝3敗だと最大5人でのプレーオフの可能性がある

対策その②推しを好きになった瞬間のことを思い出す

推し一途なかたほど観る将スランプに陥りやすいのだと思う。推し先生お一人に強い関心を注ぐと、大事な対局で敗れた時や、調子が下降気味の時に自分までも疲弊してしまう。そもそも楽しめてこその観る将なのに、そうなってしまっては本末転倒である。

想いが強すぎると、強過ぎる事により心の防衛本能からリミッターが発動するのだろうか。突然、なんか応援するの、ちょっと疲れちゃったなという気がしてくる。

そんな時にお薦めしたいのが、推しを好きになった瞬間の思い出に浸ることだ。
タイトル戦やABEMAトーナメントなどの映像、写真などを改めて見返す。

私の場合、第4回ABEMAトーナメントのチーム豊島スリースタービクトリーズのチーム動画で豊島先生に好感を持ち、第33期竜王戦七番勝負フォトドキュメントで美しい和服姿に釘付けになったので、特に写真集はいつでも見られるようにすぐ手元に置いている。

将棋では隙無しのクールな豊島先生が苦手⁈なイラストに悪戦苦闘する愛らしいご様子や、至高の対局・羽生善治先生との竜王戦の写真をみると、先ほどまでの応援疲れはどこへやら、またこのお姿を観たいのだ!と元気が取り戻せるのだから不思議なものである。

読売新聞若杉カメラマンがリモートカメラで捉えた渾身作

対策その③推しグッズの整理や創作活動に没頭する

いったん勝負事から意識を遠ざけ、完全に趣味の世界に没頭するのも一案だ。手先の器用なかたや、文章の得意なかた、絵が描けるかたなどそれぞれご自分の得意分野でありつつ、やっていて時間を忘れるほど楽しめる事がいい。

おそらく推し先生を絶大な愛情で見守れるかたは、次の対局までの間隔が空いたり、番勝負に敗れて次の予定が無くなったりすると、惜しみなく注いでいた愛情の行き場を無くしてしまうのだと思う。

もちろん、ご家族やペットなど他の愛すべき存在に振り分ける事が出来ればいいのだが、そうは器用に切り替えられない時に効果的なのが創作活動だ。

私の家のリビングにはたくさんの将棋グッズが飾ってあるが、むやみに置くと視覚的にもゴチャゴチャしてしまうので、出来るだけスッキリと見せるにはどうすればいいのか、どう飾るのが素敵なのかをInstagramやルームクリップの写真などを参考にして考えるのがとても楽しい。「推しのいるインテリア」特集もあるほど、推しと暮らす日常は既に市民権を得ていると感じる。

また、新将棋会館のクラウドファンディングでミニチュアの棋士先生方のアクリルスタンドを手に入れたかたも多いと思う。ドールハウスのように先生方のお住まい(⁈)を整えるのも童心に帰ってワクワクする。

そんな風に少し視点を変えて楽しむことで、やっぱりこの先生を応援するのだという気持ちがふつふつと湧いてくるので、落ち込んだ時は焦らずにささやかな日々の生活を改めて楽しむ心の余裕を持ちたい。

試行錯誤しながら飾りかたを考える
季節によって模様替えも

「観る将」を長く続けるために

簡単に実行に移せそうなことを3つ挙げてみたが、観る将活動への意欲を取り戻すまでの方法は、他にもたくさんあると思う。
暖かい部屋にいる時には気づかなくても、外へ出て初めて暖かさのありがたみを実感するように、将棋もちょっと視点を変えるだけでその奥深い魅力は様々な光を放ちながら疲れた心に語りかけてくれる。

これからも長く観る将活動を続けていく中で、勝ち負けによる感情の乱高下にはおそらく誰もが一番手を焼くのだろう。
それでも挙げてきた対策などで対処しながら、なんとか明るい気分やモチベーションをキープできるように、気持ちを立て直して推し先生を全力で推していきたいものだ。

人生は次の瞬間に何が起こるかわからない。今、楽しく観る将活動が出来ることの有り難さに感謝し、一瞬一瞬を大切にしていきたいと思う。
そして忘れてならないのは、自分一人では無いということ。
同じように感情を揺さぶられながらも将棋棋士の先生を推し続ける仲間は、全国にたくさんおられるのである。
勝って嬉しい時も、負けて悔しい時も、推し仲間と繋がれる心強さは観る将にとって最大の強みであり、幸せなのだと思う。

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