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「ゲーム」×「EC」研究第二弾 エルデンリングに見る体験創出のヒント 〜探索・発見編〜

皆さんゲームはお好きですか?

カードゲームの「トランプ」や「UNO」、ボードゲームの「将棋」や「チェス」、そして「Play Station5」や「Nintendo Switch」を始めとするビデオゲームなど世の中には様々なゲームがありますが、いずれも楽しい体験を与えくれますよね。

そんな楽しいゲーム体験が、ECでの顧客体験にも活かせたら良いと思いませんか?今日はそんなお話。

こんにちは、ペンシルです✍️
ペンシルの研究開発部門であるヒューマナライズマーケティング研究室
特殊研究機関『is』のラボメンNo003、橋本と申します。
日頃はアンケートの設計やデータの集計・分析業務をおこなっています。

この記事はゲーマーでもある筆者が、ゲーム理論や実際のゲーム体験から、ECにも活用できる体験創造のポイントを考察していこうというものです。
今日は全4回のシリーズの第2弾です、前回記事をまだご覧になっていない方はそちらも一読いただけると、より理解が深まると思います。

▼前回記事はこちら▼

※ 上記はバートルの4分類を元に筆者が考察したものです。

上記はゲーミフィケーションで有名な『バートルテスト(バートルの4分類)』を元に、エルデンリングに見られる工夫を考察したものですが、今回は左下の『エクスプローラー』について深ぼっていきます。

※ 元のバートルテストについては前回記事を参照下さい。

エクスプローラー 『発見と世界観』

ゲーム世界を愛し、新しい発見を求めて探索する者、
それがエクスプローラーです。

このタイプのプレイヤーの最大の関心はゲーム世界にあり、誰かと競い合ったり、何かを達成することにはさほど興味がありません。

バートルも彼らについて、「その世界を知り尽くすことに何よりも誇りを感じており、発見によって世界がより魅力的になることを求めている」と述べています。

そのため、彼らを満足させるためには『世界観』『発見体験』を魅力的なものにしていくことが必要なのですが、その際に忘れてはいけないのがエクスプローラーが求めているのは『知ること』ではなく『発見すること』であるという点です。

語弊があるかもしれませんが、伝わりやすいよう極端に表現すると、両者のニュアンス違いは『探す』というプロセスに重点を置いているかどうか、にあると思います。
受身の姿勢でいても誰かが一方的に情報を与えてくれることを、『発見』とは言いません。

故に「自分で掴み取った発見」をいかに体験させるか?それこそがエクスプローラーに対するアプローチで鍵となります。

エルデンリングにおける発見体験

では、「自分で掴み取った発見」を体験させるにはどうすればよいのか?
ここで『エルデンリング』を例に具体的に考えてみます。

前回はアクション場面にフォーカスした記事でしたが、『エルデンリング』は世界観やストーリーといった面でも独自の設計がなされています。

核となるのは
『自分の意志で行動している感覚を与えること』
です。

まずはこちらをご覧ください。

あなたはこれを見た時、どこに行きたくなりますか?

これは海外掲示板Redditに投稿されて一時期話題になった、「もしもエルデンリングのUIが情報量てんこ盛りだったら」という旨の画像です。
見て分かる通り、ミニマップやクエスト内容、進行のヒントなどが大量に表示されています。

こちらの是非に関しては人それぞれであると思いますが、少なくとも発見体験にフォーカスした時は、ナビゲーションが画像のように過剰になってしまうと、自分の行動が常に誘導されているような感覚を与えてしまいます。

そうなるとプレイヤーの主体性は奪われ、ゲームはただのお遣いになります。

本当の『エルデンリング』のUIはこちら。

非常にシンプルで、次の行動を指示するようなメッセージ表示もありません。

エルデンリングでは冒頭の画像にあるような文字やマーカーといった、誘導性の高い表示が極力そぎ落とされ、ユーザーの直感的な好奇心が探索につながるようデザインされています。

ここで述べたいのは、どちらのタイプのUIが良いかではなく、能動的な発見体験をデザインする上では、ユーザーの好奇心をかき消さないためにも、あえて説明しすぎないことも時には必要であるということです。

そして、この『自分の意志で行動している感覚を与えること』の先に、もう一つ重要なポイントがあります。
それは
『『発見』を『自分なりの解釈』につなげる』
ことです。

発見した情報がそれだけで完結しており、考察の余地が一切ないものであれば、発見体験は何の広がりもないまま、そこで終わります。

『自分の意志で行動している感覚』とは発見までのプロセスだけでなく、発見後にも必要なものです。

非常に壮大かつ細部まで作り込まれた世界観が魅力のエルデンリングですが、実は作品側からストーリーや解釈が語られることはあまりありません。

代わりに探索の中で出会うNPC、アイテムや武器の説明欄、建物の造形や装飾など、至るところに情報が散りばめられており、プレイヤーはそれらをパズルのようにつなぎ合わせながら、ストーリーや世界観を自分なりに解釈していくのです。

興味深い点はその解釈が正しいかどうかは、あまり重要ではないことです。
そもそも、エルデンリングにおけるストーリーや世界観の語られ方は非常に不明瞭で、解釈が正しいかどうかを確かめるすべがないのです。

しかし、この不明瞭さのおかげで、プレイヤーは集めた情報のパズルを自由につなげ、足りない情報は想像で埋めるという楽しみ方が可能になります。

『不明瞭さ』とは『想像のため余白』であり、これこそが『発見』を『自分なりの解釈』へと繋げ、ゲーム体験をパーソナルなものにしているのです。

顧客の意志と興味を尊重する

前章では「エクスプローラー」タイプに効果的な発見体験の工夫をゲーム視点で述べましたが、ここからはそれらをECに落とし込んだ場合について考えていきます。

そもそも、ECにおけるエクスプローラータイプとはどのような顧客を指すのでしょうか。
これまでの特徴を考えると、以下のように定義し直すことができます。

『ブランドの世界観に強い関心があり、ただ購入するだけでなく、サイトを積極的に回遊し、様々な情報を集めていくタイプ』

そして、彼らに対する体験設計の具体的な工夫として、前述の要点をベースに以下のようなものを考えました。

  • 自分の意志で行動している感覚を与えること 
     →回遊性の高さと好奇心を刺激するギミック

  • 『発見』を『自分なりの解釈』につなげる『余白』
     →ブランドの立ち位置を変えて、コミュニケーションに『余白』を

今回は台湾と漢方をベースとしたライフスタイルブランドである『DAYLILY』を例に解説していきます。

  『漢方というライフスタイルで、女性たちの体温と気分をあげていく』を理念に掲げている

回遊性の高さと好奇心を刺激するギミック

買い物とゲームは目的こそ違いますが、どちらにおいてもユーザーは大なり小なり「思うがままに探索(回遊)したい」という感情を持っています。

そうした場合、ECサイトのデザインも前述のゲームUIと同様で、「あなたおすすめ」「お得なキャンペーンはこちら」といった誘導性の高い情報が過剰になっていないか注意する必要があります。

これらの表記は目を引きやすいが故に、ユーザーの純粋な好奇心をかき消してしまいがちだからです。

『DAYLILY』は誘導する情報を抑えたシンプルなデザインのサイトでありつつも、ユーザーの好奇心を引き出してアクションを起こさせる工夫が見られます。
その一つが「気分に関連する言葉で検索できる機能」です。


通常の検索メニューとは異なるポップな単語が並んでいますが、機能としてはTwitterのタグ検索のようなもので、それぞれの単語(タグ)がつけられた商品を検索することができます。

この機能自体は特別珍しいものではありません、しかし、単語選びに見られるひと工夫が合理性や効率性ではない、ユーザーの好奇心を引き出します。

なお、この機能は商品詳細ページにも存在しており、カテゴリートップに戻ることなく、次の興味のあるカテゴリーへ移動することができます。

また、それ以外にも商品詳細ページには関連する記事コンテンツの導線が設置されていたり、商品説明にYoutube動画やGIF動画などが織り交ぜられていたりなど、一つのページから常にあらゆるコンテンツに快適にアクセスすることができるようになっています。

文字通りサイトを自由に探索することができるのです。

ブランドの立ち位置を変えて、コミュニケーションに『余白』を

ECにおける、『「発見」を「自分なりの解釈」に繋げる』を端的な言葉で表すと『自分ごと化』です。

そのためには、情報をただ知って終わりではなく、日常を顧みて、関連性を見出し、共感する、そんな顧客の自発的な思考の広がりを引き出す必要があります。
これは一方向的に情報を与えるだけでは発生しません。
ECにおける情報の発信とはあくまでもコミュニケーションの一貫なのです。

故に『何を語るか(What)』と同じくらい『誰が語るか(Who)』『どう語るか(How)』にも重点を置く必要があります。

DAYLILYでは、スタッフと顧客を区別せず、ブランドに関わる全ての人を”Sister”と定義し、呼ぶことで、ブランドと顧客が対等な横の関係を作り上げています。

具体的には、記事やメルマガ等の場面で顧客をSisterと呼び、ブランドの一員として感じられるような親しげなコミュニケーションを行ったり、顧客の声を巻き込んだコンテンツを作成したりなどがあります。

これによって、コミュニケーションはより距離が近く、目線が合ったものになります。そして、情報の一方向性が弱まれば、顧客が自発的に考える『余白』が生まれ、『自分ごと化』が促進されていきます。

もちろん、ポッドキャスト、インスタグラム、Youtube、記事といった多様な接点で楽しめるコンテンツが用意されていることもDAYLILYの特徴です。
しかし、それは『自分ごと化』がしやすいコミュニケーションをDAYLILYが心がているからこそ力を発揮しているのです。

顧客との最適な関係と多様なコンテンツ、この2つが実現できた時はじめて、商品を売るだけではない、ブランドの奥行きが生まれると考えています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回はバートルの4分類の1つ「エクスプローラー」という切り口から、エルデンリングを参考に、ECに活用できる体験創造を考察しました。
まとめるとこのようになります。

【エクスプローラータイプ】
:ゲーム世界を知ることに喜びを感じるタイプ。
 常に新しい発見を求めている。

【発見体験の質を高めるために重要なこと】
:企業側からの過度な誘導はひかえ、プレイヤーの好奇心を尊重する。
 情報は多様かつ断片的に提示することで、組み合わせる楽しみを与える。
 プレイヤーが自分なりの解釈を行える『余白(不明瞭さ)』を作る。

【ECへの活用】
:誘導する情報を抑えつつ、好奇心で回遊したくなるひと工夫を入れる
 ブランドと顧客の関係を見直すことで、『自分ごと化』できるコミュニケーションに多様なコンテンツを用意する

 

「発見」という言葉に始まり、最終的には「顧客の意志や解釈」を尊重するという結論に着地しました。

ECサイトのゴールは「購入」ではありますが、最短のルートで誘導することが万人に対して常に有効なわけではありません。
ゴールまでの道のりがどれだけ納得感・充実感があるかも大切な観点です。
いかにLTVのポテンシャルを高めた状態で顧客を獲得・維持できるかは、多くのEC事業者が課題として取り組んでいるポイントではないでしょうか。

ブランドの世界観によって引き出された好奇心をもとに、ユーザーがサイトを自由に回遊し、多様なコンテンツで表現されたブランドのメッセージを自分ごと化して解釈することで、もっとブランドを好きになっていく、それこそがエクスプローラーにおける理想的な顧客体験と言えるでしょう。

第3回は「ソーシャライザー」について考察する予定ですので、次回もお楽しみに!

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