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『「ゲーム」×「EC」研究第一弾 エルデンリングに見る体験創出のヒント 〜達成感編〜』

皆さんゲームはお好きですか?

カードゲームの「トランプ」や「UNO」、ボードゲームの「将棋」や「チェス」、そして「Play Station5」や「Nintendo Switch」を始めとするビデオゲームなど世の中には様々なゲームがありますが、いずれも楽しい体験を与えくれますよね。

そんな楽しいゲーム体験が、ECでの顧客体験にも活かせたら良いと思いませんか?
今日はそんなお話。


こんにちは、ペンシルです✍️
ペンシルの研究開発部門であるヒューマナライズマーケティング研究室
特殊研究機関『is』のラボメンNo003、橋本と申します。
日頃はアンケートの設計やデータの集計・分析業務をおこなっています。

はじめに

ここ数年、ビジネスの世界では「D2C(Direct to Consumer)」「CX(Customer Experience)」という言葉が流行し、単に「商品(モノ)」を売るのではなく、どんな「体験(コト)」を提供できるかに焦点を当てる重要性が高まってきています。
今後、企業が関わりうる全ての購買プロセスを体験と定義して、商品やサービスをデザインしていく流れは加速していくでしょう。

そんな体験という領域において、何十年も前から進化を重ねてきたものがあります。それがゲームです。

特にビデオゲームに関しては、テクノロジーの発展と共にその可能性を広げ続け、今ではeスポーツとして大きな盛り上がりを見せるまでになりました。
まさに、「体験」を考えていく上で参考にすべきものの1つであると思います。

事実、ゲームの理論を活用して顧客体験をデザインしようとする考え方(ゲーミフィケーション)は浸透してきており、ブランドやマーケターがゲームから学ぶことが多いのは間違いありません。

今回はゲーマーでもある筆者が、ゲーム理論や実際のゲーム体験から、ECにも活用できる体験創造のポイントを全4回に分けて考察していこうと思いますので、ぜひ最後までお付き合いいただければと思います。

それでは早速いってみましょう!

今回の参考作品『エルデンリング』をちょこっとだけご紹介

具体的な考察に入っていく前に、今回、参考にするゲーム作品『ELDEN RING(エルデンリング)』を知らない方のために簡単に紹介します。

こちらはフロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月に発売されたアクションRPGゲームです。
世界観の構築には「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作者であるジョージ・R・R・マーティンが関わっており、独特な世界観とやりごたえのある高難易度の戦闘が人気を博しています。

全世界累計の出荷本数は、わずか18日間で1200万本を突破し、発売直後はTwitterでのツイート数が2022年の第1四半期最高を記録するなど、今最も勢いのあるゲームの一つと言えるでしょう。

かくいう私もリリース初日から今に至るまでプレイし続けている作品で、かなりの睡眠時間を削られました笑

ゲーマーをタイプ分け!? バートルの4分類とは

それでは、ここからが考察パートです。
突然ですが、皆さんは『バートルの4分類(バートルテスト)』というものをご存じでしょうか?

ゲームデザイナーであるリチャード・バートル氏によって1996年に発表された論文『HEARTS, CLUBS, DIAMONDS, SPADES: PLAYERS WHO SUIT MUDS』にて登場した、ゲームの喜びの好みという観点から、プレイヤーを4つの主要グループに分類するものです。

どのように楽しむ(主体的↔相互的)と、何を楽しむか(ゲーム世界↔プレイヤー)の2軸によって、プレイヤーを『アチーバー』『ソーシャライザー』『エクスプローラー』『キラー』の4つに分けます。

それぞれの特徴については下図の通りです。

プレイヤーは基本的に4要素全てを少なからず備えており、どこを特に重視しているかによって所属するタイプが決定します。
そのため、「アチーバー」タイプだからといって、全く「ソーシャライザー」的な行動を取らないというわけではありません。

そんなバートルの4分類ですが、タイプ分類として理解しやすく、汎用性が高いという点から様々な文脈で活用されています。

確かに顧客体験や顧客理解のヒントにはなりそうな気がしますよね。
しかし、このままでは具体的にどのような体験を提供するのが良いのかまではわかりません。

ですので、今回は世界的なヒットを記録した「エルデンリング」を例に、各象限を考えてみることで、ECにも活用できる体験創造のヒントを探っていきます。

バートルの4分類に対して、「エルデンリング」ではどのような体験を提供しているのでしょうか。
図で考えると以下のようになりました。

※ 上記はあくまで筆者が考察したものです。

4つの領域全てに対してユニークな体験が用意されていますね。
2つ、3つ満たしている作品は他にもありますが、4つ全てを網羅している作品はあまり多くないと思います。
「エルデンリング」を参考作品に選んだ理由がここにあります。

今後この4分類に関しては4回に分けて考察していきますので、ぜひご期待ください。第1回目である今回のテーマは『アチーバー』です。

アチーバー 『達成感と難易度』

アチーバータイプのプレイヤーを満足させるために必要なもの、それは「挑戦と達成感」です。
バートルも彼らについて「ゲームに関する目標を自分自身に与え、それを達成するために精力的に活動する」と述べています。

そのため、いかに魅力的な課題(挑戦)を用意するかが重要になってくるのですが課題の魅力と密接に関係しているのが『難易度』です。

基本的には難易度が高いほうが達成感を強く感じやすいと言われています。
また、挑戦をやり遂げた時の価値としては、「自分の成長の実感」と「他人への自慢」の2つが主だと思いますが、どちらも難易度に比例して高まります。

それでは、アチーバータイプの人に充実した体験を与えるには、「難易度」の高い壁を用意してあげればよいのでしょうか?
『エルデンリング』を例に考えると、少し違ったものが見えてきます。

ポイントは
「試行錯誤なしではクリアさせないこと」
です。

「死にゲー」と名高い「エルデンリング」ですが、このゲームの特徴はプレイヤーに常に問いかけ続けている点にあります。

「いつ攻撃をするのか?」
「どうやって攻撃を避けるのか」
「どこにいたほうが有利なのか?」

もし、間違った行動を取れば絶対に手痛い反撃をもらうことになるので、プレイヤーは考え続けなければなりません。
特に初見時は、直感的なアクションゲームというより、論理的な問題解決に取り組んでいるような感覚を覚える時があります。
何となくプレイしてクリアすることは困難なゲーム、それが「エルデンリング」です。

※ ドラゴンに挑んで返り討ちに合い、ゲームオーバーになる筆者

しかしながら、そういった問いかけには必ず答えが用意されています。
プレイヤーは何度もゲームオーバーになりながら、1つ1つロジックを理解し積み上げることで、最後には「クリアすべくしてクリア」することができるのです。

高難易度とは「いかにプレイヤーに試行錯誤させるか」を突き詰めた結果として現れるものであり、成功と失敗のコントラストの強さが重要であるといえます。

「失敗体験」を創造せよ

それでは、「試行錯誤なしではクリアさせない」をECに活用するのであれば、どのようなことが言えるでしょうか。

それは
「失敗体験を創造(用意)する」
です。

ECに当てはめて考えた場合、顧客を成功に導くためのロジック自体はしっかり作り込まれているブランドが多いように感じます。

足りない点があるとすれば、それを理解してもらうためのフローが徹底できていないことです。
もっと言えばゲームオーバー、つまり「失敗体験」とそこからの「再チャレンジ」が足りません。

失敗体験(ゲームオーバー)というと聞こえが悪いので、「そんなものは無いほうが良いのでは?」
と思う方がいるかもしれませんが、「失敗体験」とは何も『終わり』を意味しているのではありません。
成功に至るために、足りなかった部分・間違った部分をフィードバックし、学ぶ機会を与える、それが失敗体験の持つ価値です。

そうした場合、今のECに「失敗体験」は用意されているでしょうか?
意外と無いものが多いと思います。

商品やサービスの利用において、顧客が想像した通りの結果にならないというのはよくあることです。
そんな時に、「何がいけなかったのか」「どうすれば良くなるだろうか」というフィードバックの場を企業側から提供することが重要です。
顧客はそれまでの自分の行動に区切りをつけられるので、振り返りを行いやすくなり、成功に向けた試行錯誤を主体的に行えるようになります。

もしこれがなければ、顧客は明確な実感を得るまで、何もわからない闇の中を延々と進み続けることになるでしょう。

実際のサービスで例を上げるのであれば、お菓子のD2Cブランド『Snaq.me』のお菓子評価が良い例です。

 ※「Snaq.me」の実際の評価画面:「Snaq.me」マイページ 「おやつ手帳」より

「お菓子の好み診断」の結果から、自分にピッタリの健康的なお菓子を毎月届けてくれるのが『Snaq.me』ですが、商品が到着した後に届いたお菓子の評価をすることが可能になっており、合わなかったお菓子などはフィードバックすることができます。
これのお陰で、仮にお菓子がマッチしなかったとしても、その原因を自分の中で言語化し、成功体験に一歩近づくことができます。

もし、「何がいけなかったのか」等をフィードバックするのが難しい商品・サービスであるならば、商品とともに何か小さなチャレンジをミッションのような形で顧客に課すのも良いかもしれません。
定量的に評価可能なチャレンジがあれば、成功・失敗のフィードバックを行いやすくなります。

重要なのは「エルデンリング」の例でも挙げましたが、成功と失敗のコントラストを高め、顧客に成功へのロジックを考えさせることです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回はバートルの4分類の1つ「アチーバー」という切り口から、エルデンリングを参考に、ECに活用できる体験創造を考察しました。

まとめるとこのようになります。

【アチーバータイプ】
:目標の達成を目指すタイプ。
 チャレンジし、達成することに喜びを感じる。

【達成感を高めるために重要なこと】
:成功と失敗のコントラストを高め、成功への道筋をプレイヤーに主体的に考えさせることが達成感向上につながる。
高難易度とはプレイヤーに試行錯誤させるように設計した結果現れるもの。

【ECへの活用】
:失敗体験を創造すること。サービスや商品利用を振り返り、フィードバックをする場を企業側から提供することで、成功体験に必要な道筋を失敗を通して顧客自身に考えさせる

ECにおいては通常、いかにして商品・サービスの利用における「失敗」を無くすかを考えますが、

そうではなく「失敗」を利用して顧客に主体的に考えさせるというのは、「失敗(Game over)」も不可欠な要素としてシステムに組み込まれているゲームらしい視点ですよね。

第2回は「エクスプローラー」を切り口に、『自分ごと化』していくのに必要な要素について考察する予定ですので、次回もお楽しみに


参考文献・書籍:
Richard Bartle ,1996 『HEARTS, CLUBS, DIAMONDS, SPADES: PLAYERS WHO SUIT MUDS』 https://www.researchgate.net/publication/247190693_Hearts_clubs_diamonds_spades_Players_who_suit_MUDs

Jesse Schell, 2019 『ゲームデザインバイブル 第2版 ―おもしろさを飛躍的に向上させる113の「レンズ」』

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