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オスマン軍制史の翻訳雑感

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マフムト・シェヴケト・パシャ著『オスマン帝国の軍制と軍装』の翻訳をめぐる雑感を綴った記事です。
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「鎧師軍団」と呼ばれた兵士たち

「鎧師軍団」と呼ばれた兵士たち

前回の記事で触れたとおり、オスマン帝国の君主直属の常備軍をカプクル軍団といい、これを構成するひとつひとつの兵科を軍団と言いました。その代表にして最も数が多い者たちが歩兵であるイェニチェリ軍団です。

今回取り上げる「ジェベジ」もオスマン帝国の常備軍を構成する軍団のひとつです。彼らは主にイェニチェリの兵士が使う弓、矢、刀剣、鎧、小銃、弾薬などの武器や軍需物資の製造、修理、保管、運搬、支給を担当した補

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不思議な不思議なイェニチェリ 部隊名は『左利き』で部隊長は『スープ鍋番』

不思議な不思議なイェニチェリ 部隊名は『左利き』で部隊長は『スープ鍋番』

オスマン帝国の軍隊といえばイェニチェリ。これは論を俟たないでしょう。

改めて説明すると、イェニチェリは14世紀にアナトリア北西部の辺境に興ったオスマン帝国がバルカン半島へと版図を広げていく過程でキリスト教徒の子弟から徴集した改宗イスラム教徒からなる君主(スルタン)直属の精鋭歩兵たちです。16世紀には小銃で武装した常備歩兵軍団として発展してオスマン帝国の軍事的な絶頂期を支えますが、17世紀以降は人

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ケトヒュダー、其は何をする人ぞ

ケトヒュダー、其は何をする人ぞ

そんなことだろうと自分では思っていましたが、毎週更新を1回サボったらあっという間に1か月開けてしまいました。次回10月更新にご期待ください。

今回はオスマン帝国のあちこちに出てくるケトヒュダーという官職をどう訳そうかという話です。

語源をさぐる

ケトヒュダーはペルシア語からの借用語で、家(kad)と主(khudā)の複合語となります(現代ペルシア語ではキャドホダー)。もともとはサーサーン朝時

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近代オスマン陸軍の階級

近代オスマン陸軍の階級

近代軍隊の歴史の翻訳に取り組む際にもっとも厄介なもののひとつ、それは階級です。

欧米では階級は封建軍から近代軍へと変化していく過程で、軍隊の単位(軍、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊)の指揮官の呼称からおおまかにできあがっていったものなので、各国で似たり寄ったりだと思います。将官の呼称がまちまちだったり、下士官がてんでバラバラだったりしますが、現代ではNATO階級符号を用いて対応関係が示されて

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カプタン・パシャはなんと訳すか

カプタン・パシャはなんと訳すか

noteにアカウントを作ったので、オスマン語の軍事史や衣装に関する文献を日本語訳するときにどういうふうに頭を悩ませているかという話を書いていこうと思います。怠惰が取り柄なので三日坊主になったらすいません。

第1回は「カプタン・パシャはどう日本語訳しよう?」という悩みです。

カプタン・パシャは何をしていた役職かカプタン・パシャ(Kaptan Paşa)はオスマン帝国の艦隊司令官の役職名です。オス

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