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短編小説『深海魚の憂鬱』2

タクシーに戻り、自宅へと向かう。東京湾のウォーターフロントの一角に小堀の住む2LDKのマンションはあった。
40階建ての高層マンション。その24階に小堀の部屋はあった。中層階ではあるが、決して見晴らしは悪くない。晴れた日は東京タワーの向こうに富士山が見える眺望が小堀のお気に入りだった。

最寄駅の地下鉄東京メトロ東西線門前仲町まで徒歩で10分。将来、生まれて来る子供の事を考えて購入したが、自分のDNAを受け継いだ者の顔を見る事もなく、小堀の人生は終わりそうだ。

マンションのローンは残り32年。気が遠くなる程の長さ。完済する頃には小堀も62歳になっている。
残りのくだらない人生は、ただ馬車馬の如くローン返済にあたるだけのものだった。

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