何から守る個人情報

アマゾンで買い物をする。例えば書籍。気になっていた本をポチるとする。
おすすめが表示される。同じ作者、同じジャンル、類似のテーマ。
おそろしい。つい、欲しくなるものをピンポイントで次々紹介してくるのだ。着実に顧客のニーズにフォーカスした提案ができる営業マンがいるのか。恐ろしい。
しかし残念なことに、これは人力ではない。
あらかじめ顧客の動向が自動的に分析されており、確率的に顧客が欲しがるパターンを見出して、表示しているのだ。ユーザー目線では気づきにくいが、個別に対応など到底できる件数ではない。
人間の力など、知れているのだ。

電磁波攻撃

昔、白装束に身にまとい、ワゴンで移動する謎の集団があった。パナウェーブ研究所という組織であった。
彼らは電磁波攻撃を送ってくる、ロシアなどの共産勢力と戦い、日本各地を放浪していた。オウム真理教以来のカルトかと警戒された。
問題は彼らの、相対性理論すら超越したと称する、「科学」であった。
電磁波が人体に影響を及ぼしており、それによって人間が脆弱になっているのだという。
電磁波は体に悪いと怯えるのは自由だ。
だが、大気圏外にある太陽の光を、我々はどうやって感知することができるのか。
残念なことに、電磁波なのだ。
空気がない空間を、太陽から届く紫外線も電磁波なのだ。
いい電磁波と、悪い電磁波があり、それらを判断できるのが、リーダーの女性だけであるというのだ。科学にとって大前提は、客観性である。
誰が離しても、りんごは落ちる。個人の資質や、能力に関係なく、(理解に時間はかかることがあるにしても)証明できるのが科学である。逆にいうなら、それができないなら、科学ではない。その証明に世界中の科学者は悩んでいるのだ。

スマホの恐ろしさは快適さ

主観世界にいると、世界は恐怖に満ち溢れている。
アマゾンで買い物する自分が常に監視されており、屋外に出れば電磁波によって攻撃を受けるのだ。
でも、待て。
深呼吸するか、水をコップ一杯飲むなりしてみよう。
フェイスブックでお誕生日おめでとうに、ありがとうと答えているが、あれは大丈夫なのか? スマホで買い物はしないにしても、立ち止まって地図を見たことはないか? グルメサイトで評価を掲載したり、評価の星の数を比較した閲覧履歴は?
それらを使っても、アマゾンにできた商品の売り込みを、他の企業だけはどうやっても展開できないという説は成り立つのか?
スマホを使っている限り、それらは全てダダ漏れなのだ。
利便性の対価として、情報を積極的に提供しているのが実態なのだ。
だからといって、スマホを使わないという人がいるが、それも電磁波脅威説と同じ。
スマホを使ったとしても、フェイスブックのように登録しない限り、姓名や生年月日、住所など、個人を特定されることはない。
ただ年齢層、居住エリア、年収や嗜好は閲覧履歴などから、バレバレなのだ。
そうした情報をもとに、どういう広告や商品を展開すればいいのか、という分析はビジネスとして成り立っている。十年前から。
待ち合わせのカフェにいくために、最寄駅からスマホでお店の地図情報を検索し、最短ルートを確認するのか。道ゆく人の中で話を聞いてくれそうな人を見極めて、丁寧に頼み込み、曖昧な記憶を頼りに話された道順に賭けるのか。
どちらが確実で、便利かは火を見るよりあきらかだろう。

映画『Matrix』では、コンピュータによって世界は支配され、人間はカプセルの中で生まれて、頭にケーブルをつないで電気刺激の中で生活しているに過ぎないという世界が描かれる。
そのコンピュータ側に寝返って、主人公たちを裏切る男が、要求するのは、死ぬまで高級な住まいいて、快適な人生を送れるように電気信号を送ってもらうというものであった。
「人間とは、なんと欲の少ないものか」
コンピュータが擬人化された登場人物はそういって嘲笑する。

世界を征服する組織とは

高度に整備され、人間を管理し、支配するコンピュータはまだ存在していないし、大企業がそれを実現して自社の製品を買うように、世界情勢をコントロールするにいたっていない。
その途中なのだろうが、まさかのコロナ渦である。世界を支配できる勢力が存在するなら、救いようがないリーダーシップのなさと、あんぽんたんしかいない、脆弱な組織としかいいようがない。
では、世界は何によって支配されているのか。
何のことはない。陰謀論に支配された人の脳みそにしか、人間を支配できる組織はないのだ。
個人の情報を抜き取って、利益を上げることなど、逆に管理コストがかかりすぎて、割に合わない。個人情報を管理するためのコストと、想定される利益を天秤にかけるより、不要な日用品を転売できるサイトを開設した方が、圧倒的に低コストで莫大なリターンがあったのだ。
個人情報にはそんなに経済的な価値はなく、むしろ移ろいやすくみえる消費行動の動静が分析できることのほうが、圧倒的に利益に直結する。
そんなことすら分からず、企業はなぜか個人の氏名と生年月日と住所を血眼になって、収集していると思っている人がいたら、提案できることは一つである。
深呼吸するか、水をコップ一杯飲むなりしてみよう、だ。
利便性の前に、個人の動静などとっくに筒抜けなのだ。

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