１７．学園祭

夏休みに生徒たちが地元に凱旋する前に、我が母校では異常にボルテージが盛り上がるイベントがある。学園祭だ。なぜなら、函館市内の他校から女子生徒も遊びに来るからだ。なにせ母校は男子校である。その大半がむさくるしい男子寮で学校と日常生活を完結（もちろん例外もある）しているのだから身近に女っ気がない。あっても寮母さんみたいな思春期の男たちにとっては問題外の女性である。だからここ一番でがんばるのだ。各クラスで趣向を凝らした、女の子の気を引こうとする出店が繰り広げられることになる。 そこで、私が高校１年生の時の学園祭の時の企画を回想してみたい。
どういう経緯でそうなったのかわからないのだが、１年生のときは自主制作の映画を上映する映画館に決まった。確か二本ほど８ミリ映画を撮ったと記憶するが、印象に残っているのは昭和の昔、ヤラセとの評判もあったがそれなりに視聴率を稼いでいた水曜スペシャルの河口探検隊シリーズを剽窃した「アフリカの奥地で猿人を見つけた！！！」である。なんとロクでもない企画を考えたものだ。
ストーリーは至って簡単。近所の公園の森に猿人に扮した同級生が駆け回り、それを企画者＆監督＆主役の隊長を先頭に追い詰めていって、最後には生け捕りされるのであるが、なんとその猿人の腕には腕時計の跡が付いているのを隊員たちが発見するというヤラセ番組のパクリである。途方も無くつまらない映画を作ったものだ・・・
川口浩探検隊シリーズは川口浩（俳優）が隊長を務めたおなじみサバイバル企画。娯楽要素を随所に盛り込み、過剰な演出によるやらせを逆手に取った大胆な内容が人気を呼んだ。また、恐ろしいシーンや大発見シーンなどが現れたときに、必ず「ジャーン」と派手な効果音が流された。テーマ曲は「猿の惑星（初代）」、「ロッキー」やアメリカのドラマ「特別狙撃隊SWAT」などのテーマが使われた。なお、企画のスタートとなった最初の放送では、フィリピンのタサダイ族を探索しているが、実は放送より4年前にフェルディナンド・マルコス大統領の命令により、タサダイ族の居住区への立入りが禁止されている。これは後に詐欺事件との疑惑が出ている。
旗振り役をしたヤツの企画によるとアフリカ奥地のチャドのジャングルで猿人を発見したものの、そいつの手首には腕時計の跡がはっきりと見えたというものである。
ここで疑問を持った方も多いと思う。アフリカのチャドという国をご存知だろうか？ 　チャド共和国は、アフリカ中央部の国。スーダン、中央アフリカ、カメルーン、ナイジェリア、ニジェール、リビアと国境を接する。北部のリビア国境付近に東西南北とも約600kmにわたって広がるティベスティ高原は山岳地帯ともなっており、同国最高峰（サハラ砂漠最高峰でもある）のエミクーシ山 (3415m) やトゥーシドジ山 (3265m) が位置する。エミクーシ山は死火山だと考えられている。東部のスーダン国境沿いには高原が広がり標高1000m程度に達する。国土のニジェール寄りの中央部には200km四方の窪地があり、サハラ砂漠中央部では唯一標高200m以下になっている。これ以外の地方では標高300～400m程度の土地が広がる。国土の北半分はサハラ砂漠、南半分はサバンナ地帯となっている。最南部の中央アフリカ共和国との国境沿いや首都ンジャメナ周辺、ンジャメナから300km東に離れた地域には耕作地帯が広がる。つまり、ジャングルなど存在しない。
当時はそこまで気が付かなかったのだが、なぜジャングルの設定としてアマゾンやニューギニアではなかったのかと聞きただすと、
「チャドって名前が面白しれえからよ」だそうな、・・・・・アホである。
ともかく８ミリ映画を撮り終えて教室で試写会を開いたのだが、重要な問題点が明らかになった。照明が圧倒的に足りないのである。だから薄暗い映像に音声だけが木魂する不気味な映画になった。しかし、撮ってしまったものは仕方がない。企画を変える時間もなかったので我々は仕方なくミニシアターの準備に取り掛かった。ところがまたもや問題が発生した。函館は北海道とは言っても暖かい地方である。夏の盛りに教室を閉め切り、暗幕を張るとなかなか暑苦しい空間になる。空調などもちろん存在しない。暑苦しい空間につまらない映画。これが繁盛するわけはない。制作費をまかなうために決して高くはないがそれぞれの出店は有料である。これでは大赤字必至である。隣のクラスがやっていたお化け屋敷がやけにうらやましかった。
ちなみにこの１年生の時の学園祭であるが、当初は、まだ当時バリバリのアイドルであった森尾由美をゲストで招くと言う案があったが、実際に来たのは半農半芸の芸能人田中義剛であった。彼が学園祭のオープニングに体育館でコンサートをやった時、使用電力のオーバーを理由にステージの電源が切られた。ただしその理由は表向きのもので、義剛の下ネタを交えたＭＣが生徒には受けたが、教師陣の顰蹙を買ったからなのでは、との話もあるが、実情は定かではない。