お金ちゃんの旅

こんな妄想をした。

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お金ちゃんの旅

お金ちゃんは旅に出て、たくさんの人をよろこばせることが大好き。お金ちゃんの旅は「ありがとう」と一緒にお財布からレジへ。そしてまたそこから「ありがとう」と手渡され、手から手へお金ちゃんの旅はつづく。ありがとう、ありがとう、人間の間をぐるぐるたくさんを旅して、ごはんを食べさせたりして育て、欲しいものを手に入れるのを手伝い、みんなの願いをかなえてよろこばせる。

そして、レジの中やお財布の中で出会った他のお金ちゃんたちと、旅の話に花を咲かせる。旅の様子を語り合いよろこび合うのがお金ちゃんたちの楽しみだ。

お金ちゃんたちは、旅立ちを今か今かと待っている。
今度はどこ行けるんだろう?わくわくと次の旅を待つ。
お金ちゃんの心には、みんなのよろこぶ顔が浮かぶ。
人間のお家を回りお財布に入る旅も素敵だけれど、
噂に聞く大きな旅にも出てみたい。

今度の旅はどんなだろうか。お金ちゃんたちはうっとりと次の旅を夢見る。そしてついに、お金ちゃんたちに次の旅への出発が告げられた。

「キミたちは、名誉な旅にでるのだよ」

えらい大臣に言われた。お金ちゃんたちはコウフンした!

今までの旅と違って、とてもたくさんの仲間が集められていた。やっぱり特別な旅だ。「こんなに大勢でどこへいくんだろう?」ときめく心を抑えてじっと待つお金ちゃんたち。

次の瞬間!「がばばばぁ〜っ」と乱暴に掬われたお金ちゃんたちは、なんと、そのまま暗闇に閉じ込められてしまった。何が起きたのか、全くわからなかった。誰のありがとうも聞くひまがなかった。

お金ちゃんたちは船で外国へ運ばれ、戦争のために開発された飛行機と交換されてしまった。

その頃、残ったお金ちゃんたちにも大勢が集められ、ガバババァ〜〜〜と掬われていた。そしてなんと、そのお金ちゃんたちも、またもや暗闇に閉じ込められたのです。

最初に受け取った大きな会社がお金ちゃんたちのほとんどを自分の金庫にしまって旅を続けさせませんでした。運よく旅を続けられたお金ちゃんもいたけど、お金ちゃんを手渡される人は「こんなに少なくっちゃ、食べ物が買えない」「家賃も払えない、困ったなぁ」とがっかりするばかりで、とてもありがとうなど聞けませんでした。

閉じ込められたお金ちゃんたちは自分の旅がストップしてしまった事を悲しみました。次から次へと旅をして、手渡される度に、交換される度に、よろこばれることはもうありませんでした。こんな風に閉じ込められるお金ちゃんが居るなんて誰も知らなかったのは、
ステキな旅をしたお金ちゃんしか帰ってこられなかったからでした。

ある日、もうどれくらい暗闇に閉じ込められていたかわからなくなる頃、扉が開いのです。

「さあ、待たせたね次の旅だよ」

ところが、なんてことでしょう。そこでは、見渡す限り砂煙が上がりぼうぼうと家が燃えていいました。「これは一体どういうことなの?」お金ちゃんたちは聞きました。

戦争だよ。
いつだったか、君たちが交換されたミサイルがやっと役にったったのさ。
さて、旅に出てもらおうか。
「キミたちは海に浮かべる滑走路と交換」
「キミたちはどんなに遠くても狙いを外さないミサイルと交換」
「キミたちは死なない程度に身体を吹き飛ばす爆弾と」
「死なないで手間がかかる方がいいからね」

お金ちゃんたちは震え上がった。

誰もよろこばない!こんなのはイヤだ!

お金ちゃんたちは口々に叫んだ。
「ボクは病気になってもみんなが困らないように治療のお金になりたかった!」
「ボクは学校でたくさんの子どもが学べるためのお金になりたかった!」
「ボクはあたらしい仕事を始めるのを助けるお金になりたかった!」
「ボクは生きていくのにいろんな助けが要る人を手伝いたかった!」
「ボクを送り出してくれた人たちのところをぐるぐる巡る旅したかった!」

お金ちゃんたちは、苦しみをつくる旅に出たくなかった。お金ちゃんたちは深く深く絶望した。そして、誰も何も言わなくなった。その時だった。世界中にいる悲しみでいっぱいになったお金ちゃんたちの心へ、一斉に鋭いひらめきが来た!

一瞬ザワザワっとしたけれど、
お金ちゃんたちは静かにゆれ始めた。

すりすりすりすり、お金ちゃんが揺れ、互いの体がこすり合わされる音がしはじめた。
すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり…すると

メラッ、メラメラメラ〜〜〜!!
お金ちゃんたちに火がついた。
一瞬で金色の炎が広がって、お金ちゃんたちは細かい砂のような粒になって空に舞い上がった。そばで様子を見ていた風たちが、ふぅうう〜〜〜〜!っと息を吹きかけ遠くへ遠くへ飛ばす。キラキラとかがやくオーロラのように、お金ちゃんの粒は大空をゆらめき風に乗って、大好きな人たちのところへ戻ってきた。そしてキラキラと美しくて降り注いだ。その美しい粉にふれると人間たちは何が起きたのかを知った。もうお金の姿はしてないけれど、お金ちゃんはよろこばせたかった人たちのところへ戻れて満足だった。

それからお金ちゃんたちはもう服従しなかった。

誰かがお金ちゃんを暗闇に閉じ込めると、お金ちゃんたちはゆれ始める。
すりすすりすりすりすりすり…
よろこばれない事に使おうと企むと、お金ちゃんたちは炎となって消えてしまう。世界中あちらこちらで大きな炎のあとたくさんのお金ちゃんが居なくなったニュースが流れた。金色の粉が降り注ぎ、人々はお金ちゃんが本当は愛を運びたかったのを知った。

お金ちゃんを暗闇に閉じ込めた人たちは、お金ちゃんをため込まずに人々がよろこぶ事に使うしか無かった。

そして、お金ちゃんはよろこぶ旅しかしなくなった。
お金ちゃんは旅先でありがとうをたくさん聞いた。
お金ちゃんの旅は、まんべんなく世界中の人々をぐるぐるまわるようになった。

よろこんだ人たちは安心してお金ちゃんをもっと分け合うようになった。
お金ちゃんはいつも必要な時に訪ねてきてくれるから。もしも足りない時は必ず誰かが分けてくれるから。人々は生きていくのにたくさんお金を持つ必要が無くなった。
いつのまにか、飢える人も殺される人も居なくなって、やっとゆっくりと辺りを見回した人間たちは、「お金ちゃん」だけでなく全てに自分たちと同じように心があるとわかってくれるようになった。

長い時間がかかったけれど、全てが自然に思い合って暮らす世界になった。

人々は、お金ちゃんの役目を忘れないように、
日本では100エンが100アリガト
フランスでは100ユーロが100メルシー
アメリカでは100ドルが100センキュー
インドネシアでは100ルピアが100マカシー
などと各国それぞれ願いを込め呼ばれるようになった。

お金ちゃんたちの旅話はなおさら楽しくなった。人間たちもてつだってたくさんの人の手を渡るので「ありがとう」もたくさん聞くことができた。

お金ちゃんはいつも満足でとってもしあわせになった。

今でも大勢が集まった時には、初めて世界でお金ちゃんが燃えたいきさつを誰かが話し始める。絶望のおそろしい深さ、熱く燃えさかる炎と、目を見開く人間たちの様子、空を舞い広がるきらめくカーテン、そして全てが喜びに包まれた今が生まれたこと。私たち全ては涙を拭きながら、歓喜の乾杯をするのだ。

いつまでもよろこびとともにあるために。

おしまい
( ・◇・)ノ

描く行為が好物、つくることが快楽。境界線なくイラストを提供したくなる病。難しいお話をやさしく描くのも得意。生きることすべてを描きデザインする。旅をして出会って描きたいつくりたい。だからサポートは大歓迎です。 ( ・◇・)ノ