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児童書『ふしぎなかぎばあさん』/感想

「かぎっこ」の広一は、算数のテストで
35点をとってしまい、お母さんに
テストを見せるか悩みながら家へと帰る。

その道中、家の鍵をなくしてしまった
広一の前に、何百もの鍵をもった
不思議な鍵ばあさんが現れる。

鍵ばあさんと出会い、交流する中で、
広一は大切なことに気づいていく。
小学校中学年から。

鍵を何百ももっている、
ミステリアスな鍵ばあさん。

国のおえらいさんも私を知らない。
知っているのはかぎっ子だけ

鍵ばあさんの黒いかばんからは
あらゆるものが出てくるし、
鍵ばあさんが歩いたはずの雪には
足跡がつかない・・・。

鍵ばあさんの不思議な存在感に
惹きつけられます。
でも、鍵ばあさんは怖いわけでは
ありませんでした。

最初は怪しげだったけど、その温かな笑みや、
鍵っ子を思いやる優しさ、ジンジロゲの歌を
陽気に歌う姿などを見るにつけ、
どんどん親しみの気持ちが湧いて、
好きになっていきました。

特に、鍵ばあさんが鍵博士になった理由が、
かわいらしくてお気に入り。

子どもらしい広一も魅力的です。
彼の行動の数々を読みながら、
子ども時代のいろんな景色や気持ちが
ぽつぽつと心に浮かびました。

逡巡して、むやみやたらと
走りだしたくなる広一の気持ち、
よくわかります。
あのころは、なにかとすぐに
走りだしたくなっていました。

ランドセルが背中でガタゴト揺れる音や
寒い冬でも汗をかいて、
バンドに当たっている
肩の部分が湿っている感触が、
ふわっと心に蘇ってきました。

鍵ばあさんが広一に
語りかける言葉もよかったです。

35点をとって悩んでいたり、
「この紙しばい、テレビっ子に
なっちゃいけないって、
いってるみたいだね」と言ったりする広一に、
鍵ばあさんは言います。

それは、あんたが、
じぶんの心できめることだからね
それは、じぶんのむねに手をあてて、
じぶんで考えなきゃならないことじゃないかな。

広一が自分自身と向き合うことを
そっと励ます鍵ばあさん。
物語の冒頭でお母さんにテストを見せるか
悩んでいた広一でしたが、
結末では見せることに決めます。

読み終わった後、
雪の上を足跡を残さず消えていく
鍵ばあさんの後ろ姿がぼんやりと
心に映って消えません。

でも、夢を見ているのか、
現実を見ているのかわからないような、
不思議な気持ちです。
こんな気持ちを味わえるって贅沢ですね。

自分は「かぎっこ」ではなかったけれど、
「かぎっこ」は、もっとこの物語を
楽しめるんだろうなあ。

『ふしぎなかぎばあさん』
手島悠介 作、岡本颯子 絵
岩崎書店、1976年

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