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相手との関係性で答えをつくる~正解のない問題の解き方(4)~

「自分で解決できなければ、誰かに頼ればいいんです」と話す坂本岳之さん。上司や同僚ではない安心・安全な第三者に感情を表出できる場である「心の保健室」の活動などで、様々な人の悩みに向き合ってきました。

世の中にある正解のない問題を解決している人たちに話を伺う正解のない問題の解き方シリーズ。第四弾は、坂本さんに他人や自分の悩みに向き合う際に大切にしていることを伺いました。

初対面でも安心できる空気をつくることで定評がある坂本さん。まず優先するのは、自分が安心できる環境をつくることだそうです。

今悩んでいることがある方だけでなく、解決をサポートしている援助職の方にもぜひ知ってほしい話を聞くことができました。

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坂本 岳之(Sakamoto Takayuki)
メディカルBECS代表。1983年富山県生まれ。2007年から2017年まで国立精神・神経医療研究センターに勤務。10年の精神科臨床経験とともに、複数の経営者のメンタルサポートしてきた知見を活かし、2017年に独立。認知行動療法を下敷きにした独自のメソッドと、「相手の心や感情に徹底的に並走する」ことをモットーとして活動中。教科書執筆、厚生労働省の認知行動療法研修ファシリテーターほか、企業や自治体での講演、教育者・医療者向けの研修を全国で開催する。

健康な人をより健康にするための意識も高く、「人と人が理解を近づけるためのセルフ感情カウンセリング」の普及をライフワークにしている。
上司や同僚ではない安心・安全な第3者に感情を表出できる場を企業内に設置することを目的に「心の保健室」を複数企業で運営する。
東京都杉並区在住、妻と3歳の娘の3人暮らし。子育てで大切にしていることは「押しつけないこと」「妻の話を聞くこと」

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納得する答えは安心できる環境で生まれる


――坂本さんは「心の保健室」の活動で、様々な方の相談に乗っていますよね。「心の保健室」にはどのような人がくるんですか?

まず前提として何かに悩んでいる人が来ます。「現状をもっとよくしたい」と心のどこかで感じている人ですね。”保健室”と掲げているので、現状に何も不満がない人は来ないです。

悩みごとの種類は様々ですが、仕事関係と恋愛・夫婦関係が多いです。「上司や部下との接し方がわからない」「恋人と上手くやっていけるか不安だ」「夫(妻)にイライラしてしまう」といった内容です。要は、人間関係に基づく悩みですね。

「仕事が上手く進められなくて悩んでいる」という悩みも、よく話を聞くと同僚とのコミュニケーションが本当の悩みごとであるケースが多いです。

悩んでいるケースには二パターンあります。本人が悩んでいると自覚しているケースと本人は無自覚で周りの人が心配して悩んでいるケースです。

本人が無自覚の場合は、悩みごとに蓋をしている場合があります。なので悩んでいることが本当にないのか、見ないようにしているだけなのかを対話を重ねることで見極めるようにしています。



――相談に乗るときには、どのようなことに気を付けていますか?

相談者にとって納得度の高い答えを導き出すことです。

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正解はないので、本当は何を答えにしてもいいはずなんです。でも、答えを導き出しても「的外れだな」とか「ちょっと違うな」と感じることがありますよね。

それは本人の中に正解が存在しているからなんです。無意識のうちに自分の中で作られていた正解と、出された答えにずれがあるから違和感を覚えるんですよね。

だから"何が楽しいと感じるか"などの個人の性質を知ることを優先します。そのうえで、一緒に納得する答えを探すようにしています。

――納得しているかどうかはどのようにはかっているんですか?

話しているときの表情、話すスピードなどの差で気づきます。僕が納得度の低い話をしてしまっているときも、相手は気を遣って態度や言葉には出さないようにしていると思うんです。でも、僕は感情の起伏の変化に敏感なので、相手の微妙な表情や声色の変化で納得度が低いとわかるんです。

たとえば、今日話すテーマを僕が「ストレス対処法についてにしましょう」と提案したけれど、本当はありぺいさんは「正解のない問題の解き方」をテーマにしたいと思っていると仮定します。

おそらく、ありぺいさんは「そうしましょう」と返事をしてくれると思うんです。一番話したいテーマとはズレているけど、反対するほど興味がないわけではないから。

でも僕はそこで「納得はしてない」と気づくんです。言葉では同意していても、声のトーンが下がるなどの何かしら変化があるからです。なので、その場合はより納得度の高いものを選べるように、声のトーンが高い話題を探り直すと思います。

――とても細かく相手のことを観察しているんですね。納得する答えを導き出すためには、どのようなことが必要になるのでしょうか?

まずは、僕との関係は安心できると認識してもらうことですね。

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同じことを言っても、信頼している相手とそうでない相手では伝わり方が変わるからです。

たとえば、つらいときに「休むのは攻めの姿勢だよ」と声をかけられたと想像してみてください。

全然知らない人から言われたことだと「自分の何を知っているんだ」「そうは言っても休むわけにはいかない」と反発してしまいかねません。一方で、相手が信頼できる人なら「○○さんが言うなら休もう」とすぐにアドバイスを受け入れられそうですよね。

同じことを言われても相手によって言葉の確信度が異なる
から、効果に差が生まれるのだと思います。

――「安心できる」と認識してもらうためにしていることはありますか?

まずは、相談者のことを積極的に知ろうとします。相談者のために何かするよりも先に、僕が安心できる状況を作る必要があるからです。

僕は何度も相談に乗った経験がありますが、初対面の人と話すのはいまだに緊張します。とても安心できる状態ではないです。さらに、僕が不安に感じていると相手にも伝わってしまいます。これでは双方にとって安心できない状況になってしまいますよね。

そこで、感情が相手に伝わる仕組みを意識的に利用しました。初対面の人と話すときは、まず僕が”一緒にいて楽しい”とか”相談者が好きだな”と思えるような関係性づくりを優先したんです。そうすれば、相手にも楽しさや好意が伝播して安心してもらえると考えたからです。

僕の場合は、相手が何をしていきたいのか、何が好きで楽しいと感じるのかといったことがわかると安心します。だからまずは相手のことを知ることに注力しています。


他人の悩みも自分の悩みも一人で解決しない


――まずは、自分の安心をつくるんですね。納得できる答えを出すために他に意識していることはありますか。

やみくもに探しているだけでは答えに辿り着かないので、着地点は決めています。相談に乗った後、その人が安心して行動できるようにすることです。
ミスしたときにミスしたといえる環境があったり、人と一緒に頑張っているときの方が安心して行動できますよね。だから「解決して終わり」ではなく、その後の行動にも伴走する気持ちでやっています。

僕は「こうすると良いのでは」と仮説を提示する側で、相手は仮説を実行する側。この関係性は、いわばチームだと思っているからです。だから相手がミスをしてしまったら「どうすればうまくいくか一緒に考えよう」と提案しますし、上手くいったら「君が頑張ったからだよ」と伝えるようにしています。

――坂本さんと一緒ならどんな悩み事も解決できそうです。解決できなさそう、と思ったことはないんですか?

はじめの頃は「僕が解決しなくては」と気負いすぎて悩んだこともありましたが、今はあまり悩まないです。

なぜなら、どう解決するかは本人に聞くしかないですし、僕が解決できなかったとしても他の人を頼ればいいと思っているからです。

そもそも、相談主にとって僕は赤の他人です。おそらく、相談主が心から安心できる人はもっと近いところにいると思うんです。

だから僕ひとりで解決しようとせずに、「誰だったら困りごとを話したいと思う?」などの質問をして、本来の頼り先を一緒に探す手伝いをしていますね。

――悩みを抱えた側が意識すべきことはありますか?

「自分で解決できる」と諦めないことです。悩んでいる最中は、自分で解決できると信じられないのは自然なことです。

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そんな時に必要なのは、自分以上に自分のことを信じてくれる存在です。信頼できる相手から「きっと解決できるよ!」と後押しがあるだけで、自信になると思います。そのため、いつも僕は本人以上に解決できると信じますし、信じていることを本人に伝えています。

みなさんの周りにも、信じてくれる人はきっといます。自分を信じてくれる人を探し、「自分で解決できるかもしれない」と小さな自信をつけてみてください。「できるかもしれない」と思えるだけで、想定よりもずっと早く解決できるかもしれませんよ。

――坂本さん自身が悩んだ時はどのように解決してきたんですか?

僕自身も、誰かを頼って悩みを解決してきています。でも、僕は頼るのが苦手なんですよね。それと他人の悩みを解決してきたので、自分で悩みを解決できると思ってしまうんです。だからすぐに一人で解決しようとしてしまう。

でも、僕も苦手なことはあるので、他の人にフォローしてもらう必要があるんです。たとえば僕は自分のことを表現するのが苦手です。だから独立したときも「こういう良いところがあります」とうまくPRできなかったんですよね。そんな時、世話焼きな友達が助けてくれたんです。

僕を頼ってくれる相談者がいるように、悩んだ時は僕が頼りたいと感じる人の力を借りる。そして「きっと解決できるはずだ」と信じて行動しています。

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インタビューを通して、坂本さんは問題が何かよりもその人自身を理解しようと努めていることがわかりました。「相手の特性を掴むことをまず優先している」という言葉からも、真摯に相手に向き合う姿勢が垣間見えます。

もし今後「心の保健室」などの活動を通して坂本さんに相談することがあれば、きっと一緒に問題解決に取り組んでくれる力強いチームメンバーになってくれることでしょう。

坂本さんのように、誰かを支える立場にいる人も他の誰かを頼ればいいと思えれば、どんな正解のない問題も答えを見つけていくことができそうです。

話し手:坂本岳之さん
文:ありぺい
イラスト:ふく

▼坂本さんが「心の保健室」を運営する、メディカルBECSについて

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