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【感想】スカイコード

ブランド : MELLOW
発売日 : 2024-05-31
原画 : まうめん , さかむけ
シナリオ : 垂花 , 由比燈汰

⚠️ここからネタバレあり⚠️





◾️ネタバレ感想

自分の感情の全部を渡してもいい。
心を侵す青春の光と影。

★はじめに

途方に暮れています。
この作品をどう受け止めればいいのか。
プレイを終えたばかりの今はまだ、とても感情の整理が追いついていません。
感想を記すといっても、いったいどんな言葉でこの気持ちを記せば良いのかさえ分かりません。
むしろ感想を残すなんてとても無理だと思って頭を抱えていました。

心がそわそわして落ち着かない感覚。
感情の置き場が定まらない感覚。

いま分かっているのは感情の全部を持ってかれてしまったこと。
ヒロインのシンジュが頭から離れないこと。
この作品を好きになった気持ちと同じくらい、心に戸惑いを抱えてしまったこと。

物語の展開よりも登場人物たちの想いに引っ張られてしまう、感情を揺さぶられる物語でした。
こんな体験滅多に出来ない。

この作品に出会えて本当に良かった。
好きです。大好きです。
でも‥‥受け止めきれない。

だから今回は素直に自分の感情で何を感じて、何を思ったのか。
ただそれだけを残せれば良いと、そう思い立ちこの感想を記しています。

主観で感情を垂れ流すまとまりのない感想です。
考察も出来ていないので、理解が不足し間違った解釈も多分にあるかと思います。
それでもよければ、どうぞお付き合いください。




★物語を受け止める

ここではライターである垂花さんのお言葉を少しだけお借りして、本作で感じたことを語ります。

本作は“空”をテーマとした物語。
夏の陽射しのような眩しさは、天使の羽根が彩った等身大の青春に思いを馳せることになりました。
地面に落ちた深い彩りは、言葉にならない感情が溢れ、中には受け入れられないものもありました。
それでも最後には天使と梯子の物語を通して、前を向いて「生きる」というメッセージを受け取ることが出来たと思います。

ただ感情は抗うんです。
これで良かったのかと。
空に惹かれたソーダやあめ、そしてシンジュを想うと、素直に全てを受け入れることなんてとても出来ませんでした。

「綺麗なものを探していた。」
物語の始まりはシンジュの言葉から。
綺麗な言葉。綺麗な音。綺麗な景色。
でも現実にそんなものは無くて。
だから夜に逃げ込んだと。

きっとこの言葉はこう続くのでしょう。
だから綺麗なものが欲しいと願った。
天使の羽根で願った。

シンジュの願った先に、綺麗なものは確かにありました。でも果たして綺麗なものは救いとなったのでしょうか。
天使はその願いを神に届けたのでしょうか。

理解したいのに、歩み寄りたいのに、どうしても分かりません。もしかしたら分からないようになっているのかも知れません。

本作は誰かにとってはかけがえのない物語で、誰かにとっては心が拒絶をしてしまう物語。
でもきっと、この相反する両方の想いを抱えてしまい、自分と同じように受け止めきれず途方に暮れてしまう方もいるのではないでしょうか。
感情の置き場が定まらない方がいるんじゃないでしょうか。

だからもし自分が天使に何か願うことが出来るなら、この作品のことを「大好きでいたい」と願います。
在るべき姿とか、道徳心とか、社会のルールがどうかとかじゃなくて、本当にそういう話じゃなくて。
理解出来なくても、寄り添ってあげられなくても、彼らが空に惹かれ一歩を踏み出した意味の肯定になって欲しい。
彼らの死が報われて欲しい。

物語を終えてからずっと、そればかりで心が埋め尽くされています。
抑えきれない黒い気持ちの自覚があっても、それでもいつか透明な心のまま受け止めたいと。
自分にとってはそういう作品でした。


★登場人物たちを受け止める

透明感。スカイコードという作品を一言で表せばこの言葉がしっくりきます。
他にも美しい、儚い、哀しいと色々言葉は浮かびますが、少しだけ何かが違う。

透明感の透明は雫が感じた透明ではなく、辞書通り純粋で濁りのない様という意味です。
『世界で最も美しい幻想(アイ)』は、手が届かないからこそ魅せられ、手が届かないこそ願うわけで。
登場人物たちが向き合ってきた想いは時に歪み、黒い感情も覗かせますが、願いの起源は純粋で濁りのないもののように感じたんですよね。

視点を変えて文章に目を向けると、詩的で表現豊かな言葉がとても印象的でした。
ただこの表現の豊かさは、物語の輪郭を意図的にぼかしていたようにも感じます。
命が尽きる表現が詩的な言葉で綴られたように、直接的な表現を避けているように感じました。
それは同時に考察の要素が生まれるわけです。

さて、前の項目で本作は感情が抗い受け止めきれない物語と語りました。
その理由の一つが希死念慮というキーワード。
消えてしまいたい、楽になりたいという思考や観念が散発的に出現する場合に用いられる言葉で、自殺念慮とは異なる意味になるそうです。
ただ、検索をすると最上位に「いのちSOS」のサイトが上がってくるので、ほとんど同じ意味で用いられている気がします。

ここで自分の話しをすれば、希死念慮という思考を持ち合わせてはいません。
思い返して考えると、今までそういった散発的な衝動が一瞬くらいはあるかもしれませんが、同じくらい一瞬で忘れます。
基本ポジティブ思考で動いていますので、ソーダやあめが空に惹かれた序盤の展開を読み進めていても、二人の希死念慮に至る過程や抱えていた想いより、命を投げ出したという結果を気にしてしまっていました。
どうしてこうなった?と理解が出来なかったんです。
心からの願いを見届けていても釈然としないというか、腑に落ちないというか。
心のあり方や潔さには惹かれていても、彼らが抱いた希死念慮の思考に共感が出来なかったんです。
それでも物語は進んでいくため、モヤモヤを抱えたまま読み進めていました。

ただこのモヤモヤした思いは、いつからか彼らに歩み寄りたいという気持ちに変化していきました。
決定的になったのは天使ルートでのシンジュが空に惹かれた時。

自分の思考とはかけ離れていても、彼らのほうが生に対し真摯であると思ったんですよね。
自分自身のことを分かっていると言うか。
何か心の壁にぶつかって夜に逃げ込んでも、真の意味では自分自身と向き合うことを投げ出さず、流されず、真摯に想いを積み上げた結果なんだろうと思ったんです。

これを否定することなんて出来るはずないなと、シンジュを見ていてそう思ったんです。
その結果が消えたいと散発的な衝動となってしまう。
理解出来なくても、絶対に彼女を否定したくないと。
モヤモヤした感情を抱えたままではありますが、少しは歩み寄る事が出来た気がしています。
でも歩み寄ることが良かったのか、分からないんですけどね。

余談。
声優さんの演技が神がかってましたね。
特にシンジュ役の蒼乃むすびさんの演技は刺さりまくりで、余計に感情を掻き乱されました。
いや、余計ではないか。
もちろんお声自体も素敵で、甘めだけど甘過ぎず、柔らかいけど輪郭はボヤけないみたいな。
この先ずっと心の中に居続けるヒロインになりました。


★月の雫を想う

花火大会の告白シーンが頭から離れません。
何度も繰り返し読み直しました。
そして読み直す度に彼女の告白の先を、結末を知っているから感情を全て持って行かれてしまい涙が出ました。

透明であることが怖かった雫にとって、透明であることは普通のことで。
誰かの顔色を伺って、でも感情は分からなくて。
だから好きになってもらいたくて。
自分の感情を欲して、自分自身を好きになりたかった。

それの願いはやがて恋となって。
梯子を好きになった。

これはシンジュでなく雫の気持ち。
きっとホンモノが欲しかったんじゃないかって思うんです。
天使の奇跡で手に入れたものじゃなくて、ホンモノの梯子の好きが欲しかったんだと。
そう思うと、彼女自身が手に入れた感情はホンモノで、探していた綺麗なものなのかなって。

この時の雫に歪みなんてなく、透明ではなく、心に彩りが生まれたんだと思います。
多分それは200の種類を持つ白のグラデーション。
初めて知った好きという感情は油絵の下地のようなもので、これから手に入れるたくさんの感情の色に染まる気がするんです。
でもそれは叶わなくて。

彩り豊かに広がる華は美しくて、散っていく様は儚くて。

スカイコード 天使ルートより引用  

この花火の描写を表す言葉には胸を締め付けられます。
夏の花火が散るかのように終わる恋。
儚く散った恋は彼女にとってどんな価値があったのでしょう。

好きと言う気持ちを言葉で伝えたから価値があった。ようやく一歩前に進めた。
でもきっとそれだけではないはず。
羽探しをした時間、恋を願った時間は間違いなく幸せな気持ちがあったはず。
そう思わないと、どうしようもない虚無感に陥いってしまいます。

天使の奇跡と美しい幻想は夜に堕ちる。
雫一人では手を伸ばしても届かない空。
だから空に惹かれてしまう。

羽根を空に還したことは正しかったはず。
でも、雫の美しい奇跡の中で見た夢は現実に戻り、本当に欲しかったものは夢の中にあったと気づいてしまうなんて、そんなの哀しいじゃないですか。
なんて残酷な話しなんだろう。
なんてやるせないんだろう。
消えない罪の残滓と醒めない夢の残滓が希死念慮に帰結するなんて、どう受け止めれば良いんでしょうか。

お願いです。誰か教えてください。
もっと歩み寄りたいのに、彼女の想いを理解したいのに、どうしても分かってあげられない。
彼女が本来進む未来が露と消えた意味を。
それが本当に救いだったのかって、3人でいた夢の中で願いが叶ったから良かったのかって。

このモヤモヤする感情は、シンジュルートをTRUEとしてしまえば少しは払拭されるのでしょうが、心惹かれたのはやっぱり天使ルートのシンジュだったんですよね。

天使ルートの最後、梯子と天使は魂となったシンジュとソーダとの再会しました。
叶わなかった願いの数よりも幸せな時間をもらえた。
願いごとなんて忘れちゃうくらい、幸せだった。願いごとを叶えることが出来ないから、人は今を受け入れて生きる。
今を受け入れられるから、人は前を向いて生きる。

これは梯子を想っての言葉なのでしょう。
きっと夏の青春の中の雫は、3人で羽根を探して過ごした幸せな時間を、梯子を好きになったホンモノの感情を永遠にしたかったのかもしれません。
綺麗なものの残滓が、幸せな夢の残滓がそうさせたのかなって。

ソーダとあめを想うと正直分からない事だらけ。
でも姉弟の恋を永遠にしたかったのかもしれませんね。
それが叶わないと分かってしまったから空に惹かれたんでしょう。
なんとなくそう思うんです。

美しい言葉で喩えられた「魂の21グラム」の喪失は、どこか呆気ないほど軽いように見えて、でもその意味はあまりにも重く受け止めきれないものでした。
この世界に喪失される魂の40,257グラムはあまりに重いんです。

これまでは画面の中の世界すぎて理解出来ていませんでした。
今を受け止め生きるとは、決して誰もが当たり前に出来ることではないんです。
自分の心、大切な人の心に耳を傾け、言葉にして伝える。
これが大事なことで、今を受け止め生きているならば前を向いていたいとこの作品を通して強く感じました。

ライターの垂花さんは、公式HPで紹介されたライターコメントを「空にーーー惹かれないように。」という言葉で締めています。
この言葉こそ、空をテーマとした本作のメッセージだったと受け取りました。

もしそうであるなら、ソーダとあめ、シンジュの命が失われた事にどうしても抗いたくなります。
穿った見方をすれば、まるで生け贄のようにも思えてしまいます。
でもこれは必要な事で、ただ自分自身の理解力、想像力、読解力が足りないだけなのでしょう。
もっと言えば感情の整理ができていないからでしょう。
それがとても悔しいです。

梯子は最後に救われました。
天使が運んだ魂、ソーダ、シンジュ、あめを心に刻むことで前を向きました。
ここまでの道筋は理解しているのに、感情が追いつかないような感覚。
結局は感情の袋小路を出ることは暫くなさそうです。



★余談。明日香と九条について

青春って綺麗なだけじゃないなって思い知らされました。
多感な時期の歪みって、世界そのものの歪みのように思えてしまうんでしょうね。

物語の中の九条はどうしようもない奴でしたが、彼の本心が何だったのかを考えると決して嫌いになれないんです。
恵まれない環境の安息の地だった3人の関係。
明日香の存在は、彼の名前通り希望だったのかもしれませんね。
きっと明日香の同情を知った時に運命の悪戯でボタンを掛け違え、心のタガが外れてしまったんでしょう。
許されない行為に及んでも結局は救われず、ただ自分を追い詰めただけという悲しさ。
もちろん一切擁護は出来ませんが、心の根っこは純粋なんだと思います。

明日香の純粋さはあまりにも眩しすぎました。
こんなにも慈愛に満ちた少女が身近にいたならば、梯子も九条も明日香を好きになってしまうのも当然でしょう。
でも本心を言ってしまえば梯子のトラウマの直接的な原因って、明日香が状況に流された結果なんじゃないかとも思うんです。
間違いなく辛い思いをしたのは理解していますが、立ち位置の曖昧さが招いた結果のようにも思えるんですよね。
圧倒的に悪は九条ですが。
あくまで主観ですので戯言だと捉えてください。
読み直したらまた違った感想になるかもしれませんので。

色々言いましたが、天使ルートのエピローグで梯子と天が2人と待ち合わせている描写があったのは救いでした。


追記。2024/06/09
明日香を深掘り改めて考えてみると、最強の天使では?と考えを改めました。
シンジュに気持ちが行き過ぎて、明日香の強さや意志、想いを見落としていました‥‥。
いつか明日香についても何かしら記事にして残したいですね。


◾️最後にまとめ

サントラをリピートで聴きながらこの感想を作っていたのですが、挿入歌「シンデレラ」が流れると毎回手が止まって困りました。
歌詞なんか読んだりすると、今度はシンジュを想って泣けてきて更に困りました。
曲が良すぎてマジで勘弁でした‥‥。

物語の後半の展開や、梯子と天使と天の恋愛描写などにツッコミどころはありましたが、強烈に惹かれる想い、感情の揺さぶりや戸惑いはなかなか体験できるものではありませんでした。
実際この感想を記している今でも感情がふわふわしています。

本作はビジュアルノベルというよりも、心の葛藤を描いた青春映画を見終わったような感覚で、感情をぐちゃぐちゃにされる得難い体験が出来たように思います。
今までプレイしてきた作品を振り返る中でも、Waffleの『妹と彼女』以来の強烈なやるせなさを感じる作品でした。

本当はもっと理解を深めて、言葉を尽くして感想を記したかったのですが、どう考えても無理だったので、感情の垂れ流しのような感想になってしまいました。
何かが伝わっていれば良いですが‥‥。

暫くは地に足を付けていないような、ふわふわした感情の残滓が頭をよぎるのでしょうね。

時間を空けて改めてプレイしたいと思います。
その時自分がどう感じるのか。
その答え合わせのためにも、この感想を残せて良かったと思います。

心に刻まれる作品との出会いをくれたMELLOWの皆様、作品に関わられたすべての方に感謝を。
また、この読みにくい感想にお付き合いくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。

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