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【感想】リルヤとナツカの純白な嘘

ブランド : FrontWing
発売日 : 2024-07-25
原画 : 切符     シナリオ : 浅生詠

⚠️ここからネタバレあり⚠️





◼️ネタバレ感想

喪失を抱えた少女たちの嘘と真実
心に咲く花で世界を塗り変える愛の物語

★はじめに

浅生詠さんの話題作、気になります!
溢れ出る良作オーラと言いますか、この作品は良いぞと直感が訴えかけてくるので楽しみにしておりました。

興味深いのはやはりライター浅生詠さんの全年齢シナリオでしょう。いままでの浅生詠さんと言えばダークな作風のイメージが強いですよね。
でも、本作から最初に受けた印象は透明感。

同氏の過去作でプレイ済みの『euphoria』や『夏ノ鎖』とはかけ離れたイメージながら、筆力やメッセージの強さに関して全く疑いはないので興味津々でした。
嬉しいことに音楽は安瀬聖さん、OP曲はやなぎなぎさんですよ。音楽面まで強すぎ。
もはや約束された勝利です。
では、クリアして実際どうだったのか。
結論申し上げます。

リルナツめっっっちゃ良かったよ!!!

良かった。本当に良かった。
ブッ刺さりました。
ということで、今回の感想記事はリルナツめっっっちゃ良かったよ!って気持ちをそのまま伝える惚気た感想となります。
夏夏の見る美しい世界を見たい同志たちの共感が欲しいマンです。
ちょっとポエマー入ります。浸ります。
なにとぞご容赦を。
それではどうぞお付き合いください。


★リルナツの率直な感想

©Frontwing

メッセージ性の高い素晴らしい物語でした。
喪失と再生、そして純白の嘘。
リルヤとナツカの花瓶に咲く花、その色彩の美しさ。

”いつだって、あなたという光を通して世界は形を変え、あなたの抱く花で、世界は塗り替わる”

これは公式HPのストーリー冒頭の一文。
まさに物語そのものですよね。
こういう出会いがあるからビジュアルノベルはやめられない。

自分の心に光が差し、世界が輝き、花瓶に咲く新しい花の色彩を知るわけです。
リルナツのプレイを終えて自分の世界は塗り替わりました。

”誰かへの恋が、友情が、人としての愛が、花瓶の花となる”

きっと素敵な作品との出会いで生まれた感情も花になるのでしょう。
だから今、こうして純粋に感動に浸っているのだと思います。
ぜひ色んな方にプレイして欲しい。
この感覚、この感動、この素敵という想いがどうかシンパシーとして伝わって欲しいですね。



★物語を振り返る

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本作で感じたことを端的に申し上げるなら、
”喪失を抱えた少女たちの嘘と真実を巡り、真実の愛に至る物語”でしょうか。
これはあくまで物語の大筋で、複数のテーマが内包され物語は展開されます。

個人的には夏夏を中心に物語を読み進めていたので、“泣けなかった夏夏が素直に泣けるようになるまでの成長物語”とも受け取っています。

夏夏の見る世界と感嘆の言葉に惹かれたからでしょうね。
リルヤも好きですけど、完全に夏夏推しです。
まっすぐで笑顔が素敵で天真爛漫、純粋な眩しい姿に憧れます。
だからこそ自分も夏夏と同じ心の在りかたで世界を見たいと思わさせられました。

ここからは備忘録を兼ねて簡潔に物語を振り返っていきます。


【プロローグから2章まで】

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ライターの浅生詠さんが語る通り安楽椅子探偵の体裁で進み、2つの要素で物語が展開していきました。

一つ目は「喪失」を抱えた少女たちの嘘と真実をミステリーとするアプローチ。
リルヤの描いた絵をきっかけに少女たちは「再生」し、新しい未来を得て歩き出すまでを三つの色の物語としています。
また、心情を考察しながら読む楽しさが没入感となり、帰結の美しさも相まって3色のオムニバス物語としても楽しめました。
この3色の物語が後の展開で伏線として機能し、右肩上がりで物語が面白くなる仕掛けになったように思います。

そしてもう一つは、合理のリルヤと非合理の夏夏の凸凹な百合カップルのイチャイチャ具合。
もうこれ好き。
お互いを信頼、尊重しあう姿に一定の節度があり、心情から察する百合モノならではの尊さを堪能する心地良さがありました。
ここでのタイトルは『リルヤとナツカの崇高な百合』でしょうね。


【3章】

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安楽椅子探偵の体裁はそのまま、リルヤの祖母の百合と白縫りらのエピソードを中心に物語は展開していきました。
そのなかでリルヤと夏夏の出会い、過去の掘り下げが成され、リルヤが味わった絶望、夏夏と姉・愛姫の死別が次章への伏線とされます。

ここでもやっぱり百合モノの尊さが光り、二人の馴れ初め、距離感が縮まっていく崇高さは眼福であり癒しでした。
二人が惹かれるなかで生まれた素敵な言葉たちはメッセージ性も高く、リルナツの味わい深さを決定的にしていたと感じます。

あなたがいて、あなたに世界を話すと、世界はもっと美しくなった気がします。
それはきっと
わたしの空っぽの花瓶(こころ)に、あなたという花が咲いてくれたからーー

3章「目覚めの声のあなたは」より引用

もうこれは愛の告白。
夏夏の溢れる想いが詰まった珠玉の言葉です。
本当に美しい。

言葉の美しさとは”ことばで表現されているものの美しさ”なので、リルヤと夏夏が育んだ親愛という感情が美しいからこそ、リルナツで生まれた数々の言葉も美しいのだと思います。


【4章】

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これまでの章で描かれた3色の絵に意味を見出したイヌイの復讐劇が舞台。
心の成長を遂げた夏夏が姉の死を想い涙を流すまでを描いていました。
純白の嘘のタイトル回収もこの章で。

物語で語られる「昨日」と「今日」と「明日」のキーワードこそ、本作のテーマを知る重要な要素で、自分の価値観にも紐づく要素でもあり特に印象に残っています。
ここではリルヤと夏夏の姉である愛姫、そして夏夏とイヌイの対比を意識させられたので、人間の持つ強い想いの可能性を考えながら読み進めていました。

物語全体を通して、合理のリルヤと非合理のナツカという凸凹ペアがお互いを尊重し支えあい、想いあい、そして惹かれていくことで心の成長を描き、心の在りかたで世界が変わっていく。
この説得力はどんな道徳の教科書にも勝るものであったと感じています。

そしてお互いを花瓶(こころ)に咲く花として美しく喩える。
テーマに付随する複数の要素が同時進行し、そのすべてを最後に一つとして綺麗にまとめ切る浅生詠さんの手腕は本当にお見事でした。


★百合物語として

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百合カップルを当たり前とする世界感に最初は困惑しましたが、結論としては”美しく尊かった”で全て納得できました。
登場人物全員が女性というのは英断ですね。

百合モノの美しさを言葉にするのはナンセンスなので考えるより感じろです。
でも敢えて申し上げるならば、女性同士の恋愛過程や心情が繊細な為、人間として内面の美しさが色濃く反映されることでしょう。
その反面、繊細ゆえの自責の念やドロッとした嫉妬や憎悪のような負の面が陰に潜むので、美しさを際立たせるのだと思います。
各章のカップルたちも例外なく当てはまっていました。

尊さを決定的にしたのは花瓶(こころ)に咲く花という喩え。
百合モノと抜群に相性が良いですね。
あくまで主観ですが、花の美しさを表すこと自体が女性的モチーフに感じます。
簡潔に言えば少女漫画的と言いますか。
これを物語の中心としていたことも、尊い百合であったと感じるに十分すぎる理由でした。



★純白の嘘

タイトルにもある通り”純白の嘘”が本作で非常に重要なキーワードとして物語に組み込まれていました。
では、純白の嘘とはいったい何だったのか。
考えるに大きく3つの純白の嘘があったと思っていますので、ここからは考察を交えながら語らせていただきます。

①各章の登場人物が語る純白の嘘

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一つ目の純白の嘘は無意識に隠された嘘。
人間は何か辛いことがあるとどうしても負の面に囚われてしまい、記憶に蓋をすることで自分の心を守り騙し続けるのだそうです。

各章での絵の依頼者たちはまさにこの状態で、無意識ゆえに真実と嘘を夏夏に語っていたのでしょう。そこには愛や思いやりを伴う意図的な嘘も混ぜられているため、余計に真実から遠ざかってしまう。これがミステリー要素として読みごたえを与えていました。

無意識と意図的という異なる性質の嘘から改めて”純白の嘘”を考えると、純白という言葉は”まじりっけのない白”の意味なので、彼女たちの閉じた記憶ゆえの”無意識の嘘”が純白の嘘を指していると捉えるのが自然に感じます。
そうすることで、光の3原色が重なる白の暗喩となり、2つ目の純白の嘘に繋がっていきます。

②青、緑、赤の絵にリルヤが込めた純白の嘘

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二つ目の”純白の嘘”は誠実で優しい嘘でした。
喪失の再生は段階を経て、幸せな未来を描いたその先に、本来向き合うべき真実が隠されていたというロジック。
一度甘い幸せに浸かっているからこそ、受け入れがたい絶望の白。
無意識の純白の嘘は、リルヤの誠実で優しい純白の嘘に隠されたわけです。

この嘘の中身を考えると、本来の合理のリルヤであったら真実をそのまま描くでしょうが、夏夏と出会い、夏夏の見ている世界の感嘆がリルヤに影響を与え非合理を是とするように変化していったように思います。
この心の在りかたの変化は、神の目を備えた視力を失うことで絶望を知ったリルヤが、人間らしさを手に入れた結果とも言えますよね。
夏夏が言うところの明日が分裂した先が、3つの色を描いたリルヤだったのでしょう。

③白黒の絵に隠された純白の嘘

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三つ目の”純白の嘘”は信頼の嘘。
リルヤの死を想起させる白い棺桶の少女の絵は、2つの目的を持つ嘘でもありました。
一つはイヌイを出し抜くための嘘。
もう一つは夏夏にかけられた呪いを解くための嘘。

各章で描かれた青・緑・赤の絵はリルヤと夏夏の二人の距離が縮まり作り上げた3つの色。
光の3原色が重なり白になる。
そして白を暴くヒントは姫甘草の色。
夏夏は見事にリルヤが覆い隠した真実に辿り着き、愛姫を描いた白い棺桶の少女の絵によって、姉の死を想い泣けるようになる。
物語の集大成として、二人の強い親愛を感じさせますし、これまでの純白の嘘が集約される見事なロジックでした。

さて、ここからは純白の嘘のキーとなる光の3原色について。
色彩関連の資格を仕事柄いくつか取得しているので、少し専門性のある切り口で光の3原色を掘り下げてみます。

光の3原色はRGBの3色を指します。
Rはレッド、Gはグリーン、Bはブルー。
物語の順番では青・緑・赤でしたね。
人間の目の網膜には、光に含まれる赤色波長、緑色波長、青色波長の光を吸収共鳴するそれぞれ異なる細胞があり、この3つの波長領域の光により細胞が反応し色を知覚します。

そのすべての波長により知覚される色が白なので、RGBが重なると白となります。
この3つの波長ですべての色は再現され、分かりやすい例を挙げればテレビモニターは光の3原色の応用です。

先にも述べたとおり、そもそも色を見るには光があってはじめて知覚されます。
つまり、色というのは光の成分の一部の波長を知覚しているのです。
これを物語にあてはめて考えると、「光」の存在に大きな意味を感じます。

この場合の光についての仮説ですが、リルヤにとっては夏夏が真実を見抜くであろうという信頼こそ「光」であり、夏化にとってはリルヤを信じたいという希望こそ「光」としていた。

光を知覚している=お互いの信頼や希望を理解している、つまり分かり合ってると受け取れますよね。
信頼や希望という光があるから、花瓶の花の色彩=心の中身を知ることが出来ると言えます。

これまでに二人は互いを尊重しあい、3つの色それぞれの絵を完成させてきました。
だからこそリルヤは光の全ての波長を重ねた白の中に、真実と夏夏にだけ分かるヒントを隠したのでしょうね。
まさに相思相愛です。良すぎる。
ちょっと理論が強引かもしれませんが、この暗喩もあったのではと勘ぐってしまいますね。

ただ、リルナツの「光」はいくつもの意味が込められていたように思いますので、あくまで仮説であり、自分はそう思ったで完結される話でもありました。


余談ですが、作中で色の3原色は赤・青・黄とされましたがこれは誤りで、正しくはシアン(cyan)・マゼンタ(magenta)・イエロー(yellow)です。

赤とマゼンタ、青とシアンは似て異なる色と認識しています。
おそらく分かりやすくするために赤・青・黄としたのでしょうが、念のため触れさせていただきました。



★リルナツから受け取ったメッセージ

©Frontwing

『”花瓶に水を、そして花を”』

これが自分の受け取ったメッセージです。
言葉通りでありながら、花瓶に生ける花、花を生かす水、花こそが世界を塗り替える絵具という意味を表した言葉でした。
サラッと出てきた言葉でしたが、意味を考えるととても素敵ですし、言葉以上のメッセージが集約されていたように感じます。

花瓶という心にどんな花を生けるのか。
それは人との出会いや学び、心の成長によってもたらされるもの。
そして花瓶に咲く花は自分そのものである。

”素敵な世界を知るために、心の花を育てよう”
”心の在り方ひとつで世界は変わる”

あなたの花瓶(こころ)は、どんな花を咲かせていますか?
こんな感じでしょうか。

心の成長により昨日の捉え方が変わり、そして今日が変わり、見ている世界が塗り替わることで明日が変わっていくという大きなメッセージに繋がっていると感じました。

「人は何度でも人生の悔苦の瞬間を思い出す。侮恨の瞬間は変わらない。
だが、それを思い出す自分は変わっても良い。」
「同じ気持ちでいなくても良い。変わっていく瞬間を認めても良いんだ」

4章「未来へ」より引用

「今の私が変われば、過去の私が変わり、そして、過去が変わると、今も変わる」
「そして今という地点から見渡せる、未来も変わっていく。過去と現在を限りなく循環して、変わっていく」

4章「エピローグ」より引用

リルヤのこれらの言葉がまさにそうですよね。
では、これを夏夏に当てはめて考えると、“夏夏の呪いが解かれ、素直に泣けるようになるまでの成長物語”という側面が考えられ、夏夏に与えられた自由、泣けない呪いとして描いていました。
大切にされたのは事実や結果ではなく、心を震わせる強い感情なのだと感じます。

最初からあっても、目の前にあっても、見えないものは見えない。
光があってはじめて、見えないものを見ることができる。
「光」が世界を照らし出してはじめて、そこにあるものが存在しはじめる。
姉が磨き上げた花瓶を夏夏は見出し、そこに花瓶に花を生けた。
花瓶の花こそが、世界を塗り替える絵の具。
目の前の世界だけでなく、過去の世界も、塗りかわっていく。

これはエピローグにある言葉を要約したものです。
大切な人との出会いで見ている世界は塗り替わったんですね。
彼女たちにとって今を生きていくに大切なものは真実の愛。
そして最後のリルヤの台詞が心に響くんです。

「お前の目を通して見る世界は、わたしの目で見る世界よりも美しい」

リルヤも変わりました。
俗な言い方をすれば人生を楽しむコツをつかんだのでしょう。
事実や結果だけでは真実を見失うので、その時に伴う感情を大切にする。それが大事であると。
合理だけでは世界を語れないってわけです。
百合モノとして完璧な帰結でした。拍手です。


■最後にまとめ

振り返って考えていると、たくさんの素敵な言葉に出会うことが出来て嬉しい気持ちになります。
これまでに語った以外にも素敵な言葉ばかりですが、文字数が膨大になるのでここまでとさせていただき感想を締めようと思います。

でも最後にこれだけ。
個人的にリルナツが良いなと思ったのは、過去に囚われることを安易に否定せず、その中でどう振り返るのかを語っている点でした。
過去に囚われるのは今日を生きていないけど、それは凄いことで、それだけ過去に大切なものがあるということだねって肯定してくれるんです。

負の感情を一度受け止めて、優しく解きほぐし、未来を指してくれる。
逃げてもいい。自分のタイミングで良い。
ゆっくり心の花を育てなさいって。
ああ、これこそ想いに寄り添うってことですよね。
それがとても素敵に思えました。

では最後に謝辞を。
素晴らしい作品との出会いをくれたFrontWingの皆様、作品に関わられたすべての方に感謝を。
また、この感想にお付き合いくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。


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