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【感想】アンラベル・トリガー

ブランド : Archive   発売日 : 2024-03-29
原画 : 有葉 / サイキライダー
/ 九条だんぼ(SD原画)
シナリオ : 工藤啓介   他

⚠️ここからネタバレあり⚠️






◾️ネタバレ感想

エンターテイメントとして一級
理想と現実に向き合った高潔な少女の物語


★はじめに

新規ブランドArchiveの第一弾にして2024年屈指の話題作、堂々の凱旋です。
これ、めちゃくちゃ楽しみにしていました!
萌えゲーアワード2021大賞作『創作彼女の恋愛公式』のスタッフが手がけた新作というのもあり、発表された時点で界隈が騒ついたのはまだ記憶に新しいところですよね。
声優が誰がやるのかと話題作りもありましたし。

『創作彼女の恋愛公式』も発売前から注目されてましたが、どちらかというと発売後の勢いの方がインパクト大で、気づいたらパケ版が大高騰する事態になってました。
本作も発売前にロットアップしていたので、かなり注目されていたのは間違いないでしょう。

いやー、豪華版予約しておいてよかった‥‥。

さて、今回はそんな2024年大本命をプレイした感想を語らせていただきます。
端折るところはバッサリと切り捨て、かなり絞ったつもりですが、それでもまぁまぁ長い感想です。
お時間あればどうぞお付き合い下さい。



★エンターテイメント重視の物語

ビジュアルノベル作品の魅力とは色々な要素が織り交ざり構成されていますが、本作はシンプルに物語そのものが最大の魅力でした。

最初から最後までめっちゃ面白い!!

端的に言えば圧倒的にストーリーのテンポが良かったんですよ。起承転結がスムーズで、次から次へと変わる状況に散りばめられる伏線、丁度良いタイミングで起きる重要イベント。もう先を知りたくてどんどん読めてしまう。
世界観や設定も非常に理解しやすいので、展開を追うだけならば難しい事を考える必要もない。それゆえ中弛みも一切なく、一定のスピード感を保って最後まで駆け抜けた印象です。
これって結構凄いことだなと。
だって常に興味関心を引く仕掛けを入れないと続かないですからね。

小さな伏線ならば回収もスピーディで、勿体ぶらずに物語のテンポに寄り添っていましたし、大きな伏線は物語の終盤までしっかり残し、重要なイベントで回収する。読み手に飽きさせない仕掛けはシナリオの妙があったと思います。

あと、忘れてはいけないのはエンディングの使い方。冗長にならない工夫として、エピソードをナンバーで区切る手法は『創作彼女の恋愛公式』でも見られましたが、本作も同様の手法で物語を構成した事が上手く機能していました。
アニメ作品のように強い引きを残すENDからのエンディング曲どーーん!

え?え!?まじ??どうなるのこれ!?

さらに、クレジットが全て流れた後にエピソードタイトルどーーん!!

“END”が”to be continued”に見えましたよ。

まぁエピソードによって引きの強さに波はありますが、この手法は確実にエンターテイメント性に繋がっていました。本作の色がしっかり出ていたなと。

エンタメ性が強い作品はユーザーを受け入れる器が広いとも言い換えられます。
これはつまり、どんな方がプレイしても一定の評価を得ることが出来ると言えます。
作品の癖もあまりないので、よく話題に上がる「ビジュアルノベル初心者へのオススメ」として名前を挙げても違和感がない作品でした。
これだけで既に良作認定です。



★デフォルメされた世界について

物語を展開する上で非常に分かりやすく、かつ最適化された世界観に感じました。それと同時に創作物として既視感を抱く世界観にも感じます。

世界地図があればもっと広義な世界観なのでしょうが、クローズアップされたのはカージ合衆国、ヴィルカール帝国、ジーミイル共和国連邦という3国と、フロスト中立特区という物語の舞台。

まるで現実世界の歴史をデフォルメしたかのようで、登場する国家の色付けが単純明快でした。
というのは、どの国家が何をモチーフにしたかは特徴から予測出来ますし、中立特区での種族間衝突は現実の歴史を見れば明らかと言えます。

帝政崩壊からの共産主義と粛清だったり、帝国全体主義と優良種の選民思想だったり、民主主義や自由思想と超兵器による戦争終結だったり。
これらの設定もある程度は察することができます。
戦争の歴史そのものと、近代史から現代史の特徴的かつ分かりやすいポイントのみ摘み出して、ごちゃ混ぜにしてから輪郭を整えた世界観とも言えるでしょう。

これを突き詰めるならば、構築した世界観の中に宗教や経済、文化や情報インフラまでを取り入れ、さらに物語に絡めたらリアリティが生まれたかもしれませんね。
さらに統治体制の深掘りがあれば尚更です。

ただ本作の軸はヒューム、ヴァンプ、アニマーなど架空の種族間の相互理解と、理想と現実に向き合った先にある平和を描いた物語なので、細かな設定やリアリティよりも、エンターテイメント性を重視したのでしょう。(ミリセントルート終盤は除きます)
複雑な要素は敢えて割愛し、結果として本筋を明瞭にさせていたのは良い塩梅でした。



★見えづらいけど深いテーマ

物語の展開に引っ張られがちですが、本作にはテーマのようなものも垣間見えました。

失くした過去を乗り越え、未来へと歩む物語――

この中にはさらに2つのテーマがあると思ったので、ここからはそれについて語らせていただきます。

①異なる種族の相互理解
一番分かりやすく、同時に難題でもあります。
無知は恐怖の源であり偏見や差別を生み、既知は親愛の源で歩み寄る理解が必要というもの。
ミリィの行動は一貫してこのテーマの中にありました。また復讐の怨嗟もこの中に含まれます。

②理想と現実を見定めた決断
これはミリィルートにて語られたものです。
綺麗事で平和を語るのは容易いですが、理想論ではなく現実として受け止めた時にどのような選択をすべきか。
物語の中では非常に重い選択となり、個人的には作品評価を上げるものとなりました。
戦争と平和の論議もこの中に含まれます。

さて、この2つのテーマ。
物語のエンターテイメント性だけを見ていると、テーマを受け取るのが難しかったかもしれませんね。クリアしてから振り返り、この感想記事を作る過程でようやく理解出来た気がします。
表面だけでは説得力に欠けるんですよ。
うーん、この感覚伝わりますかね?

本作最大の魅力は物語そのものであったと先に述べましたが、エンターテイメント性の比重が大きく、テーマの本質に向き合う機会が少なかったように感じます。
厳しい言い方をすれば、間違いなくストーリーは面白いんだけど、その反面で物語の深みは見えずらいと言いますか‥‥。
いや、実際には深いんですけどね。

戯言程度に捉えてもらえばいいですが、これはテンポの良さ、次々に切り替わる状況の弊害かもしれません。一つ一つの出来事に深堀りがあまり無いんです。更に言えばプレイヤーにも考える余韻もあまり無い。もしくは考えていても、状況が常に変わっていくので置いてかれてしまう。
因みに自分は後者で、プレイしながら頭の片隅で悶々としたものを抱えていました。

更に言えば①の相互理解はリアリティがあまり無いので自分事として捉え難い。
やっぱり画面の中の世界なんです。
ただ本質に目を向けると、人と人が分かり合うという難しさ、要はガンダムで言うニュータイプ論だったのかなって。最終的にはオープンマインドの話しなんだろうと思い至りました。
これ以上を語るには文字数が凄いことになってしまいますので割愛します‥‥。
どうにか伝わって欲しいですが、いかがでしょう?

②の理想と現実を見定めた選択は、ちょっと個人的な感情が乗ってしまうのでミリセントルートの項目で触れます。

要は本作が物語そのものの面白さと、テーマのダイレクト感を併せて持っていたならば、間違いなく傑作レベルであったんだろうなと思います。
うーん、語彙が足りない‥‥すいません。


★登場人物について

立場の違うヒロインたちと大人数の登場人物たち。これは本作の明確な強みでした。
まず捨てキャラが一人としていないこと。隠された正体は伏線回収の楽しみがありますし、全員が何かしら物語で重要な事象に関わっている。上手く絡めるよなーって感心しました。
ヒロインに関しては人物造形の深堀りもしっかりされているので感情移入もしやすく素晴らしい点でした。
ではヒロインだけ少し。


【ミリセント・フリード・レオンハルト】

尊さの極み。
まさにセンターヒロインの風格。

なんて美しい少女だろう‥‥。
慈愛に満ちた女神というか、高潔な精神の美しさというか。なんていうか、凄いなって。

皇女殿下とはいえ、等身大の少女と見れば一人の乙女。恋をしているミリィがもじもじしてたり、カイがソフィアにアプローチされてるのを横目で嫉妬したり、乙女が過ぎていじらしい。

皇女として成長していく姿が眩しくて、その支えがカイへの恋心ってのはたまらないですね。
ただ理想だけでなく現実に向き合う決断の先は、あまりに深い業を背負う運命だったのが苦しいですよね。彼女の目指す未来、想いの強さが本作の全てでした。

テンプレですが、意外と性欲が強いってのもギャップがあって良い。明羽杏子さんのお声がミリィそのもので素敵でした。


【ソフィア・ノスコーヴァ】

優勝。ソフィア様、優勝で。

めちゃくちゃ可愛かったんですが!!
クーデレ最高すぎて昇天しました。
なのに階級は中将て‥‥厨二心を刺激されます。
けも耳とか、小柄で愛らしい姿とかだけじゃなくて、丁寧な立ち振る舞いと苛烈な性格のギャップ萌えです。良き。

松岡侑里さんのお声がツボ過ぎました。めちゃくちゃ好き。個別ルートで見せたソフィアの戸惑いや恥じらいはご褒美。
ソフィア様の笑顔、プライスレス。


【小花衣レイリ】

C.V.くすはらゆいさんの時点で勝ち確です。

両親の復讐という憎しみと悲しみを背負いながらも、強くあろうとする姿はとでも魅力的でした。
恋愛脳な面もノリが良くて、後輩ちゃんポテンシャルがめちゃくちゃ高かったです。

レイリルート以外でカイへの想いが成就しなくても、諦めない姿が恋する乙女の強さを見た気がします。こういうヒロインって良いですよね。
右手を上げてる立ち絵が「オイーーッス!」に見えて好きです。可愛い。



■物語の展開について

本作最大の魅力は先に述べた通りストーリーの面白さ。先が読みやすい展開ながらも、面白いポイントはしっかり押さえてくれているので、没入感は非常に高かったと思います。
クオリティの高い共通ルートからメインのミリセントルートの流れは一貫性があってとても綺麗でした。
ソフィア、レイリの個別ルートはメインほどでは無いにせよ、IFストーリーとしてしっかり楽しめるので満足度が高いです。
参考までにクリア順はレイリ→ソフィア→ミリセントでした。


★共通ルート

とにかく共通ルートが圧倒的に面白かったです。
物語の導入は丘の上でのミリィとの出会い。
素性を明かしていない皇女をエスコートし、等身大のミリィを魅せてくれたところで掴みは完璧。
王道展開ですが分かりやすくて好きです。
物語の骨子ともいえるミリィの立場や思想、作品の世界観がすぐに理解できるので、後の展開も非常にスムーズ。

序盤は各話ごとにフォーカスされるヒロインが違う構成なのも秀逸で、しっかりヒロイン達の魅力を享受できるのも素晴らしい点でしょう。
しかも同時進行で様々なショートエピソードを絡めながらも、物語の本筋はしっかり進んでいくため、どんどん引き込まれていく感覚がありました。

さらに、ヒロインそれぞれの抱えた想いを描いた上で、それぞれのエピソードが相互に関係性を持たせて展開していく。
ただ、良くも悪くも先が読みやすいので、人によっては物語の起伏が弱いと感じるかもしれません。その代わりテンポの良さは十分に活きて、常に高水準の面白さを提供していたとも思います。

重要だったポイントは、最序盤で異なる種族がお互いに理解し合い強調するというミリィの目指す平和な世界が提示された事、その為には何をすべきか模索している事。
これがラストにどうなるか、まさに最大の伏線となっていました。
(これに関してはミリセントルートの項目にて)

カイの立場から見れば、紗衣奈との過去の約束と復讐が本筋。ヒロイン個別ルートが共通ルートと地続きになる過程に、カイと紗衣奈、ナトレのエピソードもしっかりクロスオーバーしていくので一定の緊張感があるのは良いです。
エピソード5のラスト、ソフィアに銃を向けたその時に紗衣奈が乱入する展開は、共通ルートで屈指の山場であったと思います。
実際めっちゃテンション上がりましたしね。

キタキタキター!ラスボスキター!!

この頃からカイはヒロイン達との触れ合いを通し情が移りだんだん優しくなっていく成長も見どころでしたね。鉄血の脱力タイプ主人公が懐柔されたではないですが、人と人が分かりあう一つの見せ方だなって。最初はどんな主人公か測りかねていましたが、彼の主義主張が鮮明になり、だんだんと感情移入できる主人公になっていきました。

さて、個人的にテンションが上がったのはカイを巡るヒロイン達の立ち廻り。ヒロイン3人とも立場が違いながらも同じ時間を共有し、ミリィとレイリに関しては種族を超えた友情に発展していくのも王道ながら良いです。
そしてバトルものと言えど、恋愛過程がしっかり描かれているのがさらに良い。好きという気持ちまで発展していなくても、無意識にカイを気にかけているヒロイン達は見ていて和みますね。
ヒロインの可愛いと愛はやはり重要なんです。

ミリィはどう考えてもカイの事好きになってるし、ソフィアは無自覚ながら垣間見える信頼がいじらしいですし、レイリは直球で恋愛脳ですし。
若葉の言葉を借りるなら、てれてれ状態。
何気にお互いを牽制したりと、細かな攻防もトキメキ要素です。

もう、嫉妬してる姿がたまらんですよ。

あぁ、可愛いなと。
いわゆる日常パートで緊張感が解かれる心地よさと言いますか、キャラゲー的な安心感と言いますか。
もちろん各陣営の思惑や事件の解決が主軸なので、結局はそこの面白さが目立ちますが、でも緩急って大事なんですよ。

特にミリィに関しては、恋が育っていく過程と緩急の効果が出ていた事により、エピソード6のラストに繋がっていたと思います。

満点の星空の下、2人のダンス。
皇女という立場ゆえ結ばれないと理解しても、恋心を自覚するミリィの抱えた想いの葛藤は切なくも美しい。
感情面に訴えかけるロマンチックな時間は、どう考えても正史ルートはミリィであると理解してしまいました。
そして起きる爆破事件という強烈な引き。
共通ルートの締めに相応しいエピソードでした。



★ミリセントルート

間違いなく『アンラベル・トリガー』正史ルートであり、全ての伏線が回収されるグランドルートでした。
また個人的には「先が読みやすい」を完全に逆手に取った超展開ルートでもありました。
これについては次の項目にて語りますので一旦は置いといて…。

物語としてどうだったかと問われれば、間違いなく個別ルートで一番面白かったです。流石はセンターヒロインって感じですよ。
ソフィアルート、レイリルートで回収された伏線も含め、全ての点が線となるために高揚感を伴いながら読み進めていました。
そして、ミリィの高潔な精神がいかに尊いか思い知りました。
本当に凄いなって。

頑張っているミリィを見ていると、彼女にはどうしても幸せになって欲しいと願ってしまいます。
その為か、彼女が恋心に決着をつけて想いを遂げた時は最高に嬉しかった。
本当に、本当に良かったねって。
皇女殿下の乙女な姿はこのルート最大の癒し。
後半に待ち受ける非情な現実を前にした、一時のオアシスとも言えました。

さて、後半から物語は大きく動きます。
コード191の密約のもと、連邦と合衆国が帝国に対し宣戦布告。
地獄の始まりです。

激動の中、カイと紗衣奈決着が果たされたのはグランドルートの証明でもありました。それにしても綺麗に収まりましたよね。物語のラストで再び巡り合うシーンはこみ上げるものがありました。
紗衣奈の目指した理想は荒唐無稽なサイコパスでしたが、ようやく理想の呪縛から解き放たれた事でしょう。
約束のハンドサインが胸アツです。
あぁ、良かった。



★ミリセントルートが突き付けた現実

ここからは先に触れた「先が読める」を逆手に取った超展開について。
それはミリィの下した決断。
そして、おそらく本作のテーマ。
物語が急にリアリティを見せつけてきました。
衝撃を受けながらも、本作の評価を上げる直接的な要素ともなったので少しだけ掘り下げて語らせていただきます。

理想を語る少女が現実を受け入れ成長し、皇女として苦渋の選択する。

いや、まさかまさかと…。

帝国民8000万人の命を助けるために帝国民200万人の命を犠牲にするのは許されるか?

トロッコ問題と呼ばれる倫理学上の課題に対し、現実的な答えを突き付けるミリィの決断。
ミリィの理想に従えば、どう考えてもどちらの命も犠牲にせず解決する義務論で進むかと思いきや、どう足掻いても抗えない現実を受け入れ、結果を重視する功利主義を選択した事はかなり衝撃を受けました。

更には超兵器ともいえるアーマゲドン投下の打診。首都を占拠するのは合衆国か連邦かの瀬戸際ではありましたが、パーカー大統領も道徳に反すると躊躇した作戦です。
もちろん物語では多くの命が犠牲となりました。
でも結果的には、さらに多くの命が救われます。

極め付けは平和の為に父を殺す悲しみの選択。
『アンラベル・トリガー』のタイトル回収。


"unravel" は”もつれた糸をほぐす”もしくは”解きほぐす”という意味。
つまり、もつれた糸はヴァンプの優生思想で、それを解きほぐすとは解放を意味し、トリガーはそのまま引き金です。

泣きました。泣きましたよ‥‥。
これを持って帝位を継承し停戦協定を持ち終戦へ至ります。

このミリィの選択はもしかしたら、ライター工藤啓介さんが描きたかった事そのものだったのかもしれません。
いかに尊い理想を掲げたとしても、世界は綺麗ごとでは収まらない。
必ず何かを犠牲にしたうえで成り立っている。
そしてその何かは、ほとんどの場合で命そのものなのです。

ミリィルートの最終盤でヴィルカール帝国は滅び、領土は西と東に分割統治されることになります。
帝政と全体主義を掲げたヴァンプ種族の国家が、民主制と共和制に吞まれる帰結はどこか現実世界を彷彿させますよね。
戦後、合衆国の自由経済を基にした西ヴィルカールの象徴とされたミリィは、残った多くのヴァンプ種族の希望となり、経済的発展を遂げ先進国に再び並び立つ時が必ず来るでしょう。これは歴史が証明しています。

何が言いたかったかというと、ミリィの背負った業が深すぎるって事です。

理想はやはり理想であって、現実を見定め決断する勇気が必要なんだなって。
それこそが人の上に立つ者の器であり、彼女がもつ皇族としての矜持だったのでしょう。
正義を貫く為に悪を成したわけです。
自分の犯した裏切りを民意に問い、命を預ける覚悟までして。

なんていうか、本当に凄いなって。
だって、皇族である前に1人の少女ですよ。
彼女の心中を思うと言葉が出ません。

ミリィが言うように、失われた多くの命には家族があり、大切な人があり、未来に対しての希望や幸せがありました。
こんなの、どうしようもなく哀しいなって。
人の歴史は争いの歴史。
世の中って無常ですよね。
現実世界でも規模は違えど、同じような決断をした人物がきっといたのでしょう。
その業の深さ、想像する事も難しいです。

自分が考えている戦争や平和について語るのはあまりに無責任かもしれないので割愛しますが、色々思う事があるなって感想でした。

こんなの見せられたら悶々とするけど、しっかりと答えを提示してくれたことに対し評価を上げざるを得ません。
ミリィの高潔な精神に心からの敬意を。
そしてエピローグへ。

「空が青くても、黒くても、私は手を伸ばします」

このミリィの言葉こそ、本作の総括だったのではないでしょうか。
物語最序盤で提示された理想に対する答えだったと感じます。

ラストは深過ぎる業を背負いながらも、2人並んで幸せな未来を見ている後ろ姿はとても大きく見えました。
待ち受ける困難もきっと2人で乗り越えて、いつか少女の頃に信じた理想を掴んで欲しいと願います。

失くした過去を乗り越え、未来へと歩む物語——

見届けたからこそ、この言葉の重さを理解出来ます。物語はここに終幕となりました。



★ソフィアルート

ソフィアの可愛さが存分に発揮されたルートでした。てか、可愛すぎた。
亡国の遺児による独立戦争という構図は非常に胸が高まりますし、ソフィアの秘めた信念が明かされたのは伏線回収としても満足度が高めです。
カイに結婚を依頼するという導入の掴みも上手く、物語の進行に沿ってソフィアの感情がだんだんと解放されていくのが見所でした。

印象的だったのはミリィとの会話。
信念と感情を天秤にかける時点でソフィアの心の変化を感じますし、早くカイへの想いに気づいて!って画面越しに念力を送っていました。

あと驚かされたソフィアの隠された強さ。
足が悪いがフェイクだったのは流石に気付きませんでした。これは素直に完敗。
そして明かされるカイのノーブルと記憶改ざんの事実。殺す殺さないの緊張感マックス状態から、ノーブルが解除された後もカイへの信頼が揺るがなかった戸惑い。
一気に空気感が変わる緩急に加え、ソフィアの可愛いまでも見せてくれた流れはお見事でした。
というか、ソフィアのクーデレはどのシーンだったとしても強い。

ソフィア様…反則級にかわよ。

ルート後半は新生ルーラー帝国に向けてですが、かなり駆け足感がありました。そのために感情面での大きな山場はあまり無く、淡々と物語が進行したように感じます。
覇道を行くために、様々な策略をめぐらしていく展開自体は面白いですが、命の扱い方が軽い事や、争いではなく協調路線を掲げるミリィが、大義名分のもと帝国に派兵を進言するなどツッコミどころも。ただ、ミリィルートにある理想と現実に向き合った選択と捉えれば許容範囲ですかね。

これって結局は新たな政権が樹立する際に血が流れた歴史の肯定なので、ある意味で戦争の無常さが描かれていたように感じます。
命が軽いと述べましたが、現実的に見れば戦火の中の死など日常だという見方も出来るのかもしれません。主要人物たちが特別な演出もなく、あっけなく死んでいきますしね。
このポイントだけ見ればミリィルート同様、最後にリアリティを突きつけられた感覚です。

それでもソフィアが、過去のルーラー帝国を否定し未来の希望を語る姿や、理想を歩む恐怖と弱音を吐く姿、連邦との停戦協定後に、ミリィを国の礎と語る締めは感情に訴えかけるものがあります。
カイとの出会いで人を信じることが出来る幸せ。
ソフィアの笑顔があまりに尊いラストでした。

あと触れるべきは、カイと紗衣奈は決着を着けるわけではなくフェードアウトした事ですかね。
ここはIFストーリーだから仕方なしかと。

余談。アリーシャの了解(ダース)が癖になる!



★レイリルート

復讐の怨嗟と種族間の相互理解を一番分かりやすく描いていたルートでした。
予想していたより早い復讐の幕引きだったので呆気なかった気がしますが、その後ヘンリエッタへの謝罪と歩み寄りにテーマ性を見ることが出来ましたね。

印象的だったのは公園での告白。
レイリの飾らない純粋な想いは、恋愛物語として直球で胸を打たれます。その後結ばれてからは完全に恋愛脳。あれ?作品変わったかな?と思えるほどお花畑でしたね。
街中でイチャイチャしていたら、お約束と言わんばかりにミリィとシルヴィアに遭遇する悪戯。
そして失恋を思い知るミリィ…。

ごめんミリィ。泣いてる姿…大好物だわ。

物語の後半はレイリの過去と合衆国のパーカー大統領が実父であるという事実が判明。
これは途中からバレバレでしたよね。
政治的陰謀に巻き込まれていく展開はテンポが良く面白いですが、同時にあまりに先が読みやすく、新たな驚きがほぼないのがやや残念なところ。
ソフィアルート同様に、カイと紗衣奈の決着も着かないのであくまでIFストーリー。

それでも事件解決後、復讐の怨嗟を絶ち、新たな目標を定めたレイリの姿は頼もしく見えました。綺麗な締め方です。
いつか立派な政治家となって、未来の平和を手にしてもらいたいと願います。



■最後にまとめ

純粋に物語を楽しめましたので、満足度は非常に高い作品でした。
もちろん悶々とした思いもあれど、久々に物語そのものを堪能出来た気がします。
他ブランドですが『穢翼のユースティア』をプレイしていた感覚に少し近いかも。
異なるのはテーマ性と悲壮感の有無だったのかもしれませんね。

2024年の話題作は期待した通りのクオリティでビジュアルノベルのスタンダードになりえる作品であったと思っています。
定期的に出会いたいタイプの作品でしたので、Archiveの次回作は絶対買うマン誕生って事で。

最後に謝辞を。
素晴らしい作品を送り出してくれたArchiveの皆様、作品に関わられた全ての方に感謝を。
また、この感想にお付き合いくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。

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