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【感想】鏖呪ノ嶼

ブランド : CLOCKUP    発売日 : 2024-05-31
キャラデ : はましま薫夫 原画 : のりざね
シナリオ : 昏式龍也 ,他

⚠️ここからネタバレ⚠️







◾️ネタバレ感想

これぞ呪術ミステリーの最適解。
呪いと縁に由来する”濃縮”された人間ドラマ。


★はじめに

冒頭でいきなりですが、まずは謝罪を。

発売日購入スルーで様子見した愚行、誠に申し訳ありませんでした!

面白かった。マジで面白かった。
最初から最後までずっと面白かった。
発売日以降、CLOCKUPの新作が凄いという噂はXを眺めていればすぐに目に留まり、みんな楽しそうだから羨ましいなってなりまして。
すぐにでもプレイしたい衝動に駆られ即購入。

良い作品教えてくれてありがとうございます!

これもSNSという現代のコミュニケーションがもたらした縁。
それと同時に呪いの嶼との縁が結ばれたということ。

現世の地獄と例えられた離島で繰り広げられた縁と呪いの人間ドラマを見届け、かっこいいオジサンと翻弄されたヒロインたちから色々感じたことを語らせていただきます。
どうぞお付き合いください。



★作品から受けた印象

©CLOCKUP

本作を一言で表すならば”呪いと縁による濃縮された人間ドラマ”でしょうか。
“濃縮”というのがポイントです。
閉塞的で陰の雰囲気が充満したダークな作風。
そして、暴力的で反道徳的な内容を人生経験を積んだ中年男性主人公の視点で描いたハードボイルドミステリーな作風。
この二つの要素は非常に相性が良く見事に合わさった結果、本作は呪術ミステリーの最適解であると感じました。

過度な演出に頼らない作品の方向性は、決して分かりやすいエンターテイメントに振ることのない硬派な質感。あくまで物語で起きた事実を淡々と描いていくもので、作品世界に非常にマッチしていたように思います。

文章は硬質ながらも非常に読みやすく、難解な言葉こそあれど物語の展開を理解しやすい。
効果的に使われる音楽も印象的で、特に因縁の対峙では沸々と湧き上がる激情のようなものが文章以上に音楽から伝わってきました。

次に物語構成に目を向けると、物語の引き算が非常に秀逸であったと感じます。
クリア後に振り返っても、無駄なエピソードが思い浮かばないストイックさがありました。
それはつまり、全てのエピソードが必要不可欠という意味なので、短い尺の中に”濃縮”されていたと言えるわけです。

これは登場人物も同様に感じます。
物語のヒロインは珠夜と偲の二人でしたが、カノと姫奈の役割も呪いと縁を描くに不可欠なもので物語に奥行きを与えていました。

味付けの濃いオジサンたちのなかでは刑部が魅力的でヤバかったです。
物語のラスボス的な立ち位置でもあるだけに、狂った思考と行動が最高でした。
やはり良い作品には良い悪役がいるものですね。

また、謎出しのタイミングと解答提示のタイミングも絶妙で、物語進行に一定のスピード感をもたらしていました。
こういう計算された謎出しこそ没入感に直結するので、大きな魅力と言えるでしょう。

呪術というと霊能的なホラーを思い浮かべますが、本作は呪術ホラーでなく、あくまで呪いと縁による人間ドラマ。
この作品の立ち位置がガシッと定まっていたからこそ、短いながらもギュッと濃縮された人間ドラマが描かれたのだと感じます。
濃縮されたからこそ、派生エピソードが生まれる余地があるわけなので、鳴文編の珠夜のその後や、不二彦関連エピソードをもっと知りたいという欲求や想いを馳せる好材料となります。
プロットの段階からしっかり練り上げられたんだろうと想像できる見事な物語構成でした。



★地続きの世界観

おお!これは凄い!と思ったのは地続きに感じる物語の世界観。
登場人物たちの過去と物語の世界の今、そして令和という現実世界が全て線に繋がっていると錯覚させたのは個人的に最も印象的でした。
これは過去編に散りばめられた「現実世界での過去の事実」が功を奏したと言えるでしょう。
過去の時事ネタを濁すことなくありのままに伝えていたことは妙なリアリティを抱かせられましたし、音楽アーティストが実名で表記されたたことには静かな驚きがありました。
さすがに実在人物の不祥事関連は名前が伏せられてましたが、分かる方には分かったでしょうね。
この過去の時事ネタに関しては、当時話題になったトピックスがジャンルレスで盛り込もれてたので、あーそんなことあったなと感慨に耽ることになってしまいました。

この線で繋がった世界を決定的に意識させたのは文鳴編のラストでしょう。
二ツ栗を起点とするシズの呪いが新型コロナに繋がったというフィクション。
この物語の帰結の一旦にはカタルシスさえ感じることになりました。
過去に出会った作品の中でもここまで「世界観のリアリティ」を感じるビジュアルノベル作品はなかなか出会わないので、強烈に脳に焼き付くこととなりました。





★生きるとは呪い

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縁とは人と人、物と物、事と事が関連づけられることを指し、この関連は必然や見えない力によって形成されるとされています。
簡潔に言ってしまえば、人間関係や出来事の流れを示す場合に用いられる言葉です。
そう捉えると、縁とは運命と同義のようにも感じますし、そういうものだと思っていました。
ただこの作品で面白いのは二つの運命が示されたこと。
一つの未来に繋がっていると考えるのが運命論であるならば、それを無視した所業といえます。
そう考えると本作は、決して呪われた先に待つ運命がどうとかって話をしたかったわけでは無かったんだと思い至りました。
縁とは運命ではなく呪いであり、人と関わることで結ばれた呪いという縁は、それはいずれ収束されるという経過が物語で濃縮して描かれていたと感じます。
それは生まれながらにして結ばれるものであり、生きているとは呪いであるという解釈が本作の土台であったように感じます。
また、善と悪、幸と不幸など相反する縁に由来した解釈も独特で、間違いなく作品に深みを与えていたと感じています。



★呪術というフィクション

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呪術師という存在の定義が宗教者ではなく、あくまで技術者であるという概念は非常に興味深い要素でした。
実在した陰陽道の流派を参考にしたそうですが、かなりの資料を調べ上げてフィクションに落とし込んでいるのが素晴らしいところです。
法文を唱えるというワクワク要素も本当に実在するのではと思ってしまうほど細部まで細かくディティールされていました。
これは作品世界の質を確実に底上げしていたので賞賛されるべきものでしょう。
月並みですが勉強になったなと。
ビジュアルノベル作品の良いところは、予期せぬ新たな知識の吸収とも思いますので素直に嬉しかったです。
オカルトじみた話しというのは世代を超えた関心ごとでもありますから、やっぱり心踊るものでした。

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戦闘描写の呪術の扱いも淡々としたもので、手に汗握るというよりも今起きている事象や、呪術の所作等をそのまま描いていました。
偲や不二彦が魅せる肉弾戦も同様でスマートであったように思います。
これはジュアルノベル作品と非常に相性が良い表現だったのではないでしょうか。
お陰で没入感を削ぐことなく、戦闘の立ち振る舞いや駆け引きを楽しめました。



★物語の帰結について

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文鳴編と吐月編のどちらも面白かったです。
ただどちらが好きかといえば文鳴編で、信念や守るべきもののために命を散らす男気に惚れました。
単純に文鳴という捻くれながらも、実は情の深さがある主人公が好きだったこともありますが、二ツ栗家の血縁という呪いが完徹されたことこそ惹かれた大きな理由です。
やっぱり呪いの一族って構図がミステリーものでは面白く感じます。

少年時代の文鳴にとっての槐への想いはきっと母性を求めていたのでしょう。
これが血縁の因果で珠夜が槐と重り、自らの死を利用してまでも二ツ栗の呪いを断つ意思に繋がるのは胸が熱くなるものですよね。

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珠夜の家を背負う覚悟を決意する一連の展開は全て見どころでしたが、やはり文鳴に抱かれながら心情を吐露するシーンは本作屈指の名シーンだったように感じました。
珠夜にとっての相手役として不二彦が理想なのは間違いないですが、実際に物語を見届けると文鳴こそ相手として相応しい。
珠夜がメインヒロインの違和感みたいなものを、最後見事に払拭してくれました。

槐を重ねていたとはいえ、珠夜を守りたいという想いは彼本来の優しさや情の深さを感じますし、何より捻くれた態度の中に忍ばせているのが良いです。
渋い男のカッコ良さと、垣間見える人間らしさと言いますか。
お互いに愛し合っているわけではないでしょうし、文鳴にとって珠夜は槐が重なるだけなのでしょうが、もしこの関係性が死別でなかった未来があったなら、せめて妄想だけでも想いを馳せてしまいますね。
不二彦に申し訳ないですが、その時は泣いてもらおうと思います。
やっぱり主人公強しということで。
そうは言っても文鳴にとっての槐は特別で、母であり愛した女性でもあるので完全に詰みなんですけどね。
捻くれた男に宿る一途な想いこそ、文鳴の真の魂のように感じますし、惹かれた理由でもあるのでやっぱりただの戯言でした。

さて、文鳴編が素晴らしかったのはラストシーン。
怨霊シズの圧倒的な呪詛に立ち向かう切り札がスマホという力技に驚愕。唖然としました。

え?スマホってどゆこと?

うわー最後に地雷引いたかと不安になるも、その後のメタ展開があまりに見事。
日進月歩で増殖する、他者の尊厳を破壊する凶器として先鋭化される可視化された悪意ある言葉の数々。
SNS時代に蔓延る負の感情を呪いとして対抗手段にするなんてあまりに超展開。
ロジックとしても非常に面白いですし、ダークヒーローの見せ方としてセンスすら感じます。

極め付けは、今生きている人間の可能性(ろくでもなさ)を、舐めるんじゃねぇぞォォーーッ!
こんな最強の皮肉、あまりに爽快すぎて思わず拍手してしまいましたよ。
知らない誰かが犠牲になる容赦のなさ。
徹底して文鳴はブレないですね。

最後にエピローグ。
文鳴を偲び遺骨に手を合わせる珠夜の言葉は、ある意味人間社会にとって辛辣なものでした。

呪いや怨みの一念こそが、全ての人間に残された最後の拠り所である。

これこそ人間の業が見せる壮大な未来へ続く理のように思えてしまいます。
ここまでの物語を見ているからこそ、悲しくも納得させられてしまいました。

文鳴が死して向かう魂は槐の元へ。
二人の顔に幸せそうな笑みが咲いていたという文章と、手を繋ぐ二人のCGは最後の最後に全ての線と縁が結ばれた結果のようでずっと眺めてしまっていました。
暗い夜道から始まる母と子の旅立ち。
そこにあった幸せそうな少年の笑顔。
余韻を残す素晴らしい締め方でした。


©CLOCKUP

吐月編の締め方も綺麗で納得いくものでしたが、どちらを正史として捉えたいかといえば文鳴でしたのでバッサリ感想は端折らせていただきます。
でもほんの少しだけ感想を語れば、関わり合った女性たちの呪いにも似た祈りを強く感じたってことでしょうか。
全てが終わった時点で、偲とカノは死しても呪いとして完の傍らに座しているように感じます。
それは背中の刺繍として、犬の霊として。
守るべきものや理想を失いながらも背負ってしまった呪い。
この呪いを背負って生きていく完の生き様を見てみたい気持ちにもなりますが、完全なる蛇足とも思えますので望むことはないでしょう。

大きな縁の帰結として、二ツ栗家が滅亡する流れも納得ですし、さらっと珠夜が滅してしまう描写も上手い。やはり感情的でなく淡々とした表現が作品にマッチしています。
文鳴編同様に余韻を残す素晴らしい締め方でした。


★グロリョナ要素とえっちシーン

グロいはグロいですが、予想していたよりは穏やかでした。もっと過激なシーンを期待していただけに若干の生ぬるさを感じながらも、物語との匙加減は良い塩梅だったので納得はしています。
ただ、蛭で陵辱される一連のシーンは期待していた過激さの方向とは違う過激さだったので、シンプルに嫌悪感に襲われるのみでした。
蟲系は完全に苦手なので本当にごめんなさい。
やはりエロスとグロリョナが調和し、かつヒロインが絶望に打ちのめされるシーンを見たかったですね。(蟲以外で‥‥)

純粋な陵辱として珠夜が宗孝に純潔を散らされるシーンや、その後に無理やり襲われるシーンは絶望とエロスが調和して素晴らしかったです。
リョナ要素無しでも彼女の心情を思うとただただ辛いですので、裏を返せば良くできた陵辱シーンとも言えるわけです。
小物キャラだった宗孝が最大限に良い仕事をしていた瞬間でした。グッジョブ。
この方面でもっと過激に、もっと徹底的にやってくれれば頭を抱えながらも歓喜していたと思います。
まぁ物語が破綻する可能性があるのでないものねだりですね。

©CLOCKUP

えっちシーンのカノは背徳的な危うさがありながら、艶かしさと可愛いらしさが同居していたのが素晴らしく、心の中で全力ガッツポーズ。
ただ、和姦と陵辱を経ての快楽だったので別枠ということで。


◾️最後にまとめ

重厚な呪いの物語を堪能できて非常に満足度が高い作品でした。
これを短いながら濃縮して見せてくれたことに改めて賞賛を送りたいと思います。

今までプレイしたCLOCKUP作品の『夏ノ鎖』、『euphoria』、『フラテルニテ』と比べても頭ひとつ抜けて好きな作品になりました。
今回最大の成果はライターの昏式龍也さんを知れたことですね。
昏式さんがメインライターを務めた『眠れぬ羊と孤独な狼』は所持しながら積んでいたので、近いうちにプレイしたいと思います。

最後に謝辞を。
縁と呪いの重厚な人間ドラマを見せてくれたCLOCLUPの皆様と、作品に関わられた全ての方に感謝を。
また、この感想にお付き合いくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。

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