【感想】白昼夢の青写真
ブランド : Laplacian 発売日 : 2020-09-25
シナリオ : 緒乃ワサビ 原画 : 霜降 / ぺれっと
◾️ストーリー
⚠️ここからネタバレあり⚠️
◾️ネタバレ感想
発想力とシナリオ構成力が織りなす純愛物語。
泣きゲー史に名を残す歴史的傑作でした。
★はじめに
作品の完成度が構成力だとするならば、自分が知る作品の中では他に比較するものが殆ど無いほど優れた作品でした。
『白昼夢の青写真』に初めて触れたのはPC版が発売されて半月経った頃。
きっかけは何気なく見ていた批評空間でした。
発売直後の中央値はたしか90点。
あまりの点数の高さに驚いたのを記憶しています。
中央値90点台の作品と言えば、ビジュアルノベル史に煌々と輝く名作の中でもほんの一握りのみ。
発売前までは殆どノーマークだった為、これは急ぎ買わねばと即ネット注文しました。
(因みに同日発売はサクレットというとんでもない偶然)
もちろん内容に関して事前情報などは無い状態。
さてさてどんなものかとプレイを開始し、そして驚愕します。
え、なに?この作品、凄いぞ‥‥。
あまりに面白すぎて夢中で読み進め、睡眠時間を削った結果に3日でクリアしました。
3つの物語がランダムに始まるかなり特殊な構成が後に意味を成して収束し、全てを理解した時、あぁこれは傑作だと確信しました。
‥‥凄い。凄すぎる。
誰かにこの気持ちを伝えたくても、当時の自分は旧Twitterでツイートすらした事のないROM専状態でした。
取り敢えずはラプラシアン公式BOOTHでサントラとアクスタの予約をし、暫くクリア後の余韻に浸っていたと思います。
今でこそ本作は大人気作品となり、布教しなくても新たなプレイヤーに感動を届けています。
ですが当時の自分の無念も含め、この気持ちを誰かに伝えたい。それもあり改めてブログで作品感想を発信したいと思い至りました。
この感想はPC版クリア済みからSwitch版にて再度プレイ後の感想です。
かなり長い記事になりますが、どうぞお付き合いください。
★傑作であった理由
『白昼夢の青写真』の素晴らしさを改めて考えてみると、発想の豊かさとシナリオ構成の巧みさであったと思います。
CASE-1、CASE- 2、CASE-3という全く異なった物語がCASE-0にて全て意味を成し、完璧なまでに収束していく。これは鳥肌モノでした。
しかもその全ての物語が短編として完成され、内容も素晴らしいもの。
未来都市の何処かで閉じ込められている環境。
そして3つの夢をみせられる海斗。
はじめは3つの夢がどこに繋がるか全く分からず、勝手に予想を立て考察していました。
‥‥どうやら自分はシナリオライターにはなれないようです。
結論から言えば、世凪の記憶の日記であり、海斗と過ごした想い出の感情を物語としたもの。
いずれ訪れる想い出の忘却に抗ったわけです。
その為、3つの物語の最後は全て別れが描かれていました。
すももの甘く切ない別れも、オリヴィアの悲恋な別れも、凛の気持ちを殺した先の別れも、全て世凪の中にあった感情そのもの。
もう、緒乃ワサビさん‥‥天才か。
追い討ちは各CASEと重なる同じ構図のスチル。
CASE-0と3つの物語がリンクし、思考が同期していく感覚を抱く事で、プレイヤーは世凪の想いの深さを思い知らされます。
この意味を理解した時、涙だばー。
泣くよ、こんなん‥‥。
誰もが予想しない完璧な収束は、物語全ての構成が完璧だったからこそ実現したもの。
全て計算された伏線に震えました。
これこそ、本作が傑作であった理由のひとつです。
またビジュアルノベルとしての並々ならぬこだわりも『白昼夢の青写真』を更に高みへ導いた要因でしょう。
緒乃ワサビさんの文章は適度な硬度を保ちながらも叙情的で、特に情景描写と感情の機微に優れていました。
シリアスな場面も多い物語なので、空気感に色を添えるよりは、溶け合って空気の一部となる感覚でしょうか。
作品世界に寄り添う見事な調和でかなり好みの文章でした。
各CASE全てにテイストを合わせた専用の音楽を配置した采配も凄い。
世界観の構築に音楽が与えた影響はかなり大きく、独立した物語として成立していました。
さらにUIまで専用でしたしね。
ビジュアルの美麗さは今更説明不用かと思います。良すぎる。
そして一番驚愕するのは、4人全てのヒロインの声を担当された浅川悠さん(PC版は神代岬さん)の演技。初回プレイ時は全然気づかなかったくらい完璧な役の切り替え。
いや、凄いよまじ。
シナリオ、文章の質、ビジュアル、音楽、UI環境、演技というビジュアルノベルが構成される要素の全てが超ハイレベルであったと言えるでしょう。
まさに傑作になる為に生まれた作品。
そう自己完結するには十分すぎるほどの理由でした。
★PC版とSwitch版どっちが良い?
『白昼夢の青写真』はPC版クリア済みの方でもSwitch版はプレイしてほしいです。
その理由は新規スチル。
公式で大々的に公開されている為、プレイ前に見たことがある方が殆どでしょう。
ただ「見たことある」と「物語の中で観る」はまるで違う。
そこに感情が入ると観る全てが変わる。
しかも新規スチルは全て額に入れて飾りたいほど素晴らしいもの。明らかに解像度が上がるので、これはぜひ知っていてほしい重要な要素でした。
さて、PC版の強みは明確にR18要素です。これがあると無いとで印象が変わるのはCASE-1の物語。
身体の関係を生々しく描写するメリットは、飾らない愛の発露を見る事です。
教師と生徒の愛に関して、受け取る背徳感がまるで違いました。
もちろんSwitch版にもレーティング範囲内で情事を思わせるスチルがあるので整合性は取れています。
でもやはり重みが違うんですよね。
背徳感の重みは関係の破綻による「やるせなさ」の重みと同義。心を抉る鋭さに直結していました。
あとは単純にそういうシーン見たいし‥‥。
つらつらと語りましたが、結論としては相互は補完関係にあるので、どちらもプレイするが正解です。
後発Switch版には僅かに追加エピソードもありますしね。
★どの物語が好き?
3つの物語は全てのテイストが異なる為、どのヒロインが好き?って話題は付きもの。
更にはどのCASEが好き?なんてのも既出すぎる話題です。ただ案外この答えは好きな作品の傾向を測る指標になります。
CASE-1が描いたのは、教師と生徒の背徳の愛。鬱屈した惰性的日常とその変革。
CASE-2が描いたのは、ロミオとジュリエットを想起させる悲恋のラブロマンス。
CASE-3が描いたのは、甘酸っぱい青春と、夢を
追いかけたボーイ•ミーツ•ガール。
自分は1番惹かれたのは背徳と焦燥感に満ちたCASE-1で、1番感情が揺さぶられ泣いたのはCASE-2で、1番ドキドキして読後爽やかだったのはCASE-3でした。
まぁ全部好きって事なんですが、1つだけ選ぶならばCASE-1ですね。
どうやら自分は「背徳のやるせなさ」を伴う物語に惹かれるようです。
思い返せば好きな作品を並べれば大体当てはまりました。それは当然の話ですが、このCASE-1を振り返って気づいた事でした。
何が言いたいかというと、好きな作品の傾向がモヤモヤして分からない方には良い道標となり、既に分かっている方には改めて確認できるという事です。ただそれだけの話しです。
◾️ 各CASEについて
プレイ順はCASE-1→ CASE-2→ CASE-3とナンバリング通り。PC版もこの順番でプレイしたのでそれに合わせました。
後半の任意選択でも同様の順番でプレイしています。
ここからは各CASEの感想になります。
(CASE-1だけちょっと分量多めです)
【CASE-1】
先にも書いた通り、3つの物語の中で一番惹きつけられたのは焦燥感漂うCASE-1です。
生々しい描写による惰性的な日常、その変革がたまらない。有島の見ている鬱屈した世界すら魅力を感じます。
CASE-1で語られたのは絶望の淵に追いやられた有島が徐々に墜ちていく焦燥感。
初回のPC版プレイ時は冷や汗をかきながら読んでいた記憶があります。
有島のように叶わぬ希望に蓋をして、社会の隅で体育座りしている人物像はリアルでウェット。
まさか中年男性を主人公に据えるという驚きがありましたが、これが湿度を保って陰鬱な雰囲気に調和し引き込まれてしまう。
冷え切った夫婦関係、不倫の影という設定も良いですね。うだつが上がらない彼の希薄な生活が生々しく描かれていました。
そんな彼の鬱屈した生活、人生の奈落へ進む旅路にあらわれ変革をもたらした少女。
白髪で哀しげなオーラをまとう波多野凛。
この出会いは悪魔的で、背徳の予感をひしひし感じながら読み進め、危険を孕んだ甘美な関係に酔いしれていきます。
少女でありながら妖艶さを併せ持つ凛の存在はCASE-1が好きな理由のひとつ。
この眼差しは男を惑わせる。
もう、なんていうか、うん。エロい。
どこかミステリアスな陰影も凛の魅力。
彼女の背景を見れば、家族の愛を知らず、どこか投げやりで、それでも愛を渇望している。だからこそ有島との出会いは、彼女にとって知らない父を重ねていた事でしょう。
やがてそれは必然に愛に変わっていく事で背徳の影が大きくなっていきます。
見た目は妖艶な姿をしていてもやはり少女なので、大人である有島の前では目一杯の背伸びをしているいじらしさが愛おしい。
有島の妻への対抗意識は幼さゆえの衝動的行動でしたが、果たしてこれが計算だったとしたら‥‥。
2人の関係は教師と生徒の危うい関係のまま。
その惹かれ合う過程の描き方が緊張感に満ちたものでした。
世俗に無関心だった凛が変革され、その余波が有島に迫ってから物語は動き出します。
桜木町のタワーで凛を拒絶した有島が、波多野秋房の部屋に戻ってからの展開は手に汗握るもの。
大の大人が何やってるんだよと思うも、当の有島はそれどころじゃない。
この時の新規スチルは情景を伝えるに効果絶大。
これだけでSwitch版をプレイして良かったです。
秋房の日記を読み漁り、次第に精神を同期していく有島の行き着く先は、秋房と同様に人生の終焉を自ら選ぶこと。
禁断のバスルームに向かうのはそれと同義の行動でした。
このシーンでの有島の言葉は真に迫っており、まさに絶望の淵に立っている状況が生々しく伝わってきます。
冷水を浴び、自らの熱が奪われていく感覚を伝える文章は恐ろしく、この上ない緊迫感が漂います。
そして凛から現実世界へ引き戻す画像付きメッセージ。これを見るべきか否かの葛藤は緊張感の最大のピーク。
絶望の自死とアジの3枚おろしの画像。あまりにかけ離れた対比がとても秀逸でした。
現実に引き戻された有島は、絶望の淵から脱し、凛を愛することで変革されていく。
精神的に結ばれた二人の交わす言葉と言葉、スキャンダラスなキスシーンは鬱屈した感情を吹き飛ばすほどの破壊力。
惰性的日常が変革される象徴として強烈に印象に残りました。
その後はやはり凛の妊娠ですが、有島に何も告げず姿を消す凛には心を抉られながらも、心のどこかでは期待していた展開。
背徳の物語は結ばれず破綻する方が美しいと思ってしまうせいか、これは大満足の流れ。
Switch版に追加された電車を待つ凛の姿を描いたスチルは素晴らしいに尽きます。
この表情から凛の心境を察するに、やるせなさが感情を支配します。そしてエンディングへ。
あぁ辛い‥‥最高。
背徳を伴う愛の先にあった変革と転落こそ、自分がCASE-1を一番に推す理由となりました。
OP曲「クラムボン」で緒乃ワサビさんの紡いだ言葉は、愛の際(きわ)に沈みたいという願い。
この物語にこの歌詞。
凛の心境に息が尽きそうです。
灰色の景色を見ていた有島と凛。
二人の出会いで景色は変わります。
そして予期せぬ愛の際に沈んでいきました。
もう既に名作の予感。
物語の展開に惹かれただけでなく、情感が伝わる丁寧な文章に惹かれた、が正しいかもしれません。歌詞に惹かれるのも当然でしょう。
結果として波多野凜という、あどけなさと成熟した女性のアンバランスさを併せ持つ、白髪の美しい少女に心奪われる事になりました。
普段グッズをあまり集めない自分には珍しく、ラプラシアン公式BOOTHで凛のグッズを買い漁るほど、今でも好きなヒロインであり続けています。
【CASE-2】
実在した劇作家ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』の悲恋、そしてCASE-2のウィルとオリヴィアが辿った悲恋がリンクしたかのような純愛物語でした。
史劇の中に緒乃ワサビさんのセンスと解釈が調和し、結ばれなかった悲劇であるからこその美しさと切なさに涙しました。
どうしてもCASE-2に関しては感情的な感想になってしまいます。
面白いのは主人公自身が史実のシェイクスピアを模したキャラクターだったこと。
『夏の夜の夢』や『ハムレット』など実在する戯曲も登場し物語でアレンジを加える。
史実を知る方なら尚更に没入したのではないでしょうか。
またサブの登場人物達もかなり個性派揃いで、一癖も二癖もあるのも魅力的でした。
スペンサーのBOYのBOYは名言でしょう。
あまりに癖強すぎ。だが、それが良い。
そして最大の魅力はヒロインであるオリヴィア•ベリーの存在。彼女の気高さは感情を激しく揺さぶられるものでした。
そして今更ながらSwitch版再走で気付く重大な、いや、重大過ぎる事実。
オリヴィア…なんていい女なんだ…。
初回プレイ時は凛に執心していたので見落としましたが、改めて物語に触れるとあまり妖艶。
高貴な精神を持つ魅力的な女性でした。
いい子いい子されたい。
こんな当たり前を見落とすなんて、どれだけ盲目だったのか恥いるばかり。
ウィルを手玉に取る器量の良さ、演劇に情熱を傾けるひたむきな姿、そして愛に走る過程のロマンチックさ。心奪われるに十分な理由でした。
ウィルの真っ直ぐな性格も良いんですよね。
どうか2人には幸せな未来をと願うのは必然でした。
彼女の魅力は感情移入に直結し、終盤の獄中シーンのやり取りはもはや号泣もの。
この悲痛なオリヴィアの心の叫び。
終わりを悟ることでロミオの気持ちが天啓のように降りてくるウィル。
そして二人が交わす言葉と言葉。
後世に残る傑作「ロミオとジュリエット」が遂に完成します。
まさかここに繋がるのかと胸が高まりました。それはウィルとオリヴィアが思い描いた真実の愛の物語。
二人が出会った意味がそこにありました。
プレイヤーは既にその意味の重さを知っています。流れる涙を抑えることは出来ませんでした。
悔やまれるはジュリエットを演じたかったというオリヴィアの想い。
明かり取りの窓から見上げた満月。
ここで語られるオリヴィアの心情が胸に刺さるんですよね。
永遠の愛が悲劇と美しい文章で流れ込んでくる感覚。
もう流れる涙に抗うのはやめました。
それよりもこのシーンを胸に刻み付けたい。
霞むことのない気高さを持つ、オリヴィア・ベリーというヒロインの真の魅力を思い知ることになりました。
【CASE-3】
甘く切なく、そして爽やかなボーイ•ミーツ•ガール。それもかなり純度の高い、ピュアな恋心を描いた青春物語でした。
夢を追いかける道中の出会いや別れ、父との確執。現実を思い知いる少年の隣にいてくれた、風変わりな桃の甘い香りのお姉さん。
その出会いにより子供であった自分と決別をする。
夢に向かって一歩を踏み出したその時がエンドロール。
短い尺の中で見たいもの全てが詰まっていました。青春モノに求める要素は完全に網羅されていたと思います。
後味の良さはダントツこのCASE-3であると断言します。
大人になると、夢や将来への漠然とした不安を考えるのはある程度過ぎ去った後なので、尚更に彼らが眩しくてヤキモキさせられてしまいました。
ピュアなんですよね。もの凄く。
カンナは母のような写真家になる事を夢見る少年。すももはカンナのクラスにやってきた教育実習生。もうこの時点でドラマを予感させる完璧な導入。
ファインダー越しのすももにドキドキするカンナ。なぜかプレイしているこちら側にもドキドキが伝わってきて、記憶の奥にある青い感情を無理やり呼び起こされ悶えてしまいそう。
やめて。いや、やめないで。
すももと梓姫と共に、思い出の場所までハレー彗星を追いかけるなんてあまりに青春過ぎる。
こんなの眩しすぎて、羨ましくて、素敵すぎて。
カンナとすももがお互いに恋心を抱く過程が丁寧なのも、この青春の甘酸っぱさを鮮明にします。
カンナの視点だけでなく、すももの視点に立っても同様。
OP曲「恋するキリギリス」は、本気の恋を知り、思い通りにならないままに歳下の男の子を想う、すももの気持ちが綴られています。
すもも視点で見る物語は、少女と大人の狭間で自覚する素敵な感情の戸惑い。
青春の香りはなんとも甘い、桃の香りでした。
ハレー彗星が最大に近づく当日、カンナとすももは街を見下ろす丘で想いの実を結びます。
ただ、いつか訪れる別れを予感させたまま。
想い合いながらも、それぞれの未来に向かって一時の別れと再会を誓う2人。
切ないのに心は爽やかな気分。
なんというか、青春てこんなに胸を締め付けるものだったのかと、自分の退化した心を恨みました。こんなの見せられたら居ても立っても居られない。壁が無くなりそうな衝動に駆られてしまいます。
もう、めっちゃ良いやん‥‥。
すももが最後に言っていたプラトニック守ったって言葉はカンナにとっては重い枷でしたね。
すももは魔性の女ですよ。
カンナに”おあずけ”を言い渡し放置ですから。
もし学生時代にこんな先輩がいたら秒で恋してました。そして何事もなく終わる自信があります。
えーと、まとめれば素敵な青春の恋物語を堪能できました。はい。
【CASE-0】
世界に全てを捧げた少女と、一人の青年の純愛物語。全てはこの言葉に集約されていました。
OP曲「Into Gray」から始まる完璧な導入。
本作の核心こそCASE-0の物語。
3つの夢の点が一つの線となる意味。
仮想世界や脳科学といったSFの舞台の中で、ひたすらフォーカスされていたのは世凪と海斗の穢れない純愛。
ホログラム映像と対峙した際に見せられる夢(正確には海斗の記憶)は、海斗が幼少期の頃まで遡り、世凪との運命的な出会いで全ては始まります。
初見のプレイヤーならいよいよかと居住まいを正し、再走のプレイヤーならこの先待ち受ける運命に構えることになります。
青年期までで2人が惹かれ合い、愛し合うようになる過程はあまり描かれませんが、2人の会話には親愛を強く感じるので気にはなりません。
ずっとこうして2人並んで歩んできたんだなと思わせることに強い説得力があります。
外の世界の真実や、仮想世界の理論、基礎欲求欠乏症などは、専門家の方のアイディアを盛り込んで構築されたようで、驚きはあるものの理論の破綻は無く知は識の幅を広げるものでした。
この設定が物語に絡んでくると、遊馬先生の黒さが解放され世凪を巻き込む辛いシーンの連続となりますが、2人の愛の前に意味を成さず。
セカイ系の体裁と物語の濁流は、SF的設定の緻密さもあって渦中はハラハラしましたが、それよりもひたむきに想いを寄せ、幸せな未来を望んだ海斗と、今が幸せだからこそ記憶を失う絶望と抗う為に物語を紡ぐ世凪、2人の感情の機微こそ心を動かされるものでした。
エンディングに解釈の余地はあるにせよ、自分は明るい未来だったと信じてる派です。
そしてもう一人。海斗が父を重ねていた遊馬。
清濁飲み込んででも成さねばならない使命は、元を辿れば穢れさえいとわない純粋な想い。
どうやっても彼を憎むことが出来ません。
遊馬は海斗と同じく、愛する人をひたすら想っていただけのこと。
道徳に反し許されないのは間違いないですが、その想いだけを見れば否定などできるはずがない。
彼も主人公であったはずです。
それにしても世凪の夢が現実の感情と同期し、同時に印象的なスチルがリンクする演出は感情を掻き乱す見事なもの。
本作最大の見せ場でもありました。
考えるより感じろってこういう事ですよね。
改めて考えても、よくこんな事思いついたなと賞賛の言葉しかありません。
CACE-0の結末は、海斗と世凪の再会で締められます。
そして世凪は果たして本物だったのか否か問題。
これに関して物議があるのは重々に理解していますが敢えて割愛します。
正直言ってどっちでもよくて、結果的に2人にとって幸せな未来があるなら何も望みません。
誰が何と言おうとハッピーエンドです。
自分はそれで納得しています。
★幸せなエピローグについて
CACE-0の置き土産となる幸せなエピローグは、本作が決定的に傑作とされる理由たるものになりました。
そもそも世凪が見ていた3つの夢は、自らの出会いや別れなどの人生経験や、海斗を愛する想いにより紡がれた物語。
世凪自身が感じたドキドキした感情や、海斗を愛するゆえの幸せの喜び、悲しみ、怒り、切なさを記録する事こそ本来の姿で、失われていく幸せだった記憶に抗う為に残したものでした。
その為、全ての物語は離別にて終わりを迎えます。
ただ結果的に世凪の記憶は残り、離別の物語の最後にエピソードが加筆されます。
有島と凛、ウィルとオリヴィア、カンナとすもも。
記憶が辿った”海斗と世凪”は再び巡り合い幸せなエピローグを迎えます。
めちゃんこ良くないですか?これ。
この作品を振り返る度に思う事は、幸せなエピローグを執筆した時の世凪の気持ち。
どれだけ幸せに満たされたものだったのでしょうか。
長く辛いトンネルの先に見た光の景色の横には、ずっと一緒に歩んだ海斗の姿を見る事でしょう。
この仕掛けが最後の最後に解放されて、読後は幸せな気持ちになれる。
CASE-1に関しては関係の破綻の方が美しいですが、幸せな有島と凛を見たら手のひらクルー。
ごめんなさい。
やっぱハッピーエンド最高です。
◾️最後にまとめ
圧倒的な完成度を誇る傑作だった事はこの先も揺るがないもの。
時間を忘れて没入し、感情を全て持ってかれた体験はビジュアルノベルを楽しむ体験の中でもトップクラスの満足度でした。
最後に触れるのも変かも知れませんが、本作のテーマについて。
テーマとされた「揺るがない個性」はCASE-0での世凪の存在を語る上で、自我や記憶とそれによる本質とは何かを考えさせるものでした。
ただ個人的な見解を述べると”そんな難しい事考えるより物語を楽しんでいたい”の方が重要でした。
感情の機微や、愛の大きさを着眼点にして読み進める方が幸せだったんですよね。
考察は好きなので、それを否定するつもりはありませんが、今回に限ってはその考えの方がしっくりきただけの話しです。
本当に素敵な物語だったなと。
それでは最後に我が家の凛コーナーを自慢して感想を締めたいと思います。
素晴らしい物語を届けてくれたラプラシアンの皆様、制作に関わられた全ての方々に感謝を。
そして、この長い感想を読んでくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。
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