【感想】君と彼女と彼女の恋。普及版
ブランド : NitroPlus / NITRO ORIGIN(普及版)
発売日 : 2013-06-28 / 2024-06-28(普及版)
原画 : 津路参汰
シナリオ : 下倉バイオ
⚠️ネタバレ注意⚠️
⚠️ここからネタバレあり⚠️
⚠️未プレイの方は絶対に見ちゃダメ!!⚠️
◾️ネタバレ感想
美少女ゲームを愛する全ての方への問題提起。
まさしく出会うべくして出会った作品。
★はじめに
この作品はネタバレ厳禁の作品です。
未プレイの方で今後プレイするつもりの方、記事を開いていただいたのに恐縮ですが絶対に読まずに記事を閉じてください。
よろしいでしょうか?
下倉バイオさんがニトロプラスを通して美少女ゲームに一石を投じた問題作。
いや、これは美少女ゲームを愛するものたちへ投げかけた”問題提起”です。
ネタバレ厳禁の作品と評判なので、何かしら仕掛けや驚きの要素があるのではと構えてプレイさせていただきました。
率直な感想は、想像の斜め上を行く究極の展開に感銘と疑問、でしょうか。
美雪とアオイ、どちらのヒロインへの愛を貫くのか。
想定すらしないベクトル、メタ展開にシフトしていく物語と攻略ヒロインという概念。
テーマは究極の二者択一。
製作サイドからの問題提起に唖然としながらも、同時に大きな感銘もありました。
でも個人的には、これを真剣に受け止めるべきかどうかと疑問や葛藤が芽生えたのも事実。
さて、今回の感想記事は田中ロミオさんが「こんなにも野心的で、エロゲーを愛してきた人にこそ触れてもらいたい」と評した本作について、忖度なく感じたことを思うままに語らせていただきます。
改めて申し上げますが、この作品はネタバレ厳禁の作品です。未プレイの方で今後プレイするつもりの方は、記事を開いていただいたのに恐縮ですが絶対に読まずに記事を閉じてください。
なにとぞよろしくお願いいたします。
クリア済みの方はぜひお付き合いください。
★興奮、そして脳汁が溢れ出る
正直びっくりしたというか、真剣にびっくりしました。ネタバレ厳禁とは前々から知っていましたので意識的に情報はシャットダウン。
普及版にてようやくプレイ出来ました。
一見すれば青春恋愛の三角関係ものですが、ニトロプラス作品であることや、ネタバレ厳禁というキーワードから、何かとんでもない要素が潜んでいることは予想できます。
唯一の情報は返り血を浴びる美雪のCG。
これはネット上にかなり出回っていたので避けられないネタバレでした。
たった一枚のネタバレCGから物語を推測し、朧げながら物語の輪郭を脳内で描き、きっとこんな作品なんだろうなー、なんて楽観的に作品イメージを固めました。
多分こんな感じでしょ?みたいに。
予測したのは主人公を巡って2人のヒロインが狂気に堕ちていく展開。三角関係ものの救いのない悲惨な結末でした。でもこの要素を内包した作品は他にもたくさんあるので、決定的な何か大きな仕掛けがあるのではと疑いながらも結局は思い浮かばず。
実際に1周目をプレイして美雪とアオイというヒロインの不穏さを感じながらも、あっけなくエンディングを迎えて頭の中でハテナマークが浮かんでいました。
(一度BADEND?も経験してます)
あれ?これで終わり?
返り血の美雪CGまだ見てないんだけど?
美雪への永遠の愛を誓い迎えたエンディング。
アオイの存在やカミサマ、アップデート、ネトラレのないセカイなど、未だ多くの謎を残し物語を終えてたので、これはおかしいと即座に再プレイ。そして‥‥。
アオイが寝取られてるじゃないか!
よし!よーし!!!(違う)
じゃなくて、そこからの展開に唖然。
もうゾッとしましたよ。
リアルに鳥肌が立ちました。
美雪に、画面の中のヒロインに語りかけられるというあり得ない状況。
本来なら幸せな状況なのに、芽生えた感情は純粋な恐怖。
「君に、言ってるんだよ?」
こ‥怖すぎる。
でも不思議な事に頭の中は冷静で、直ちに状況把握を始めます。
あー、これがネタバレ厳禁要素か。なるほど。
と、思ったのも束の間、ハッピーバースディと美雪の声が濁った瞬間ゲームがシャットダウン。
え?え?何?バグか?
そしてゲームはすぐに再起動。
からの特殊演出。
!?!?!?!?!?!?!?!?
もう既に頭は冷静でいられません。
興奮しました。
脳汁が溢れ出す感覚とでも言いましょうか。
何が起きているか分からないけど、とにかく凄い体験をしてしまった‥‥。
一気に作品に引き込まれました。
でもこの時はまだ気づいていなかったんです。
この先にある美少女ゲームに投げかけられた問題提起と、全ての美少女ゲームプレイヤーを巻き込んだメタフィクション展開を‥‥。
★予想の斜め上を行く展開
この先の展開こそが本作の真髄。
強制終了からの再起動の演出が興奮と脳汁が溢れ出る感覚としたら、この先のヒロインのイデアという展開は、まさに鈍器で後頭部をカチ割られた感覚でした。
1周目で美雪と永遠の愛を誓ったにも関わらず、2周目で永遠の愛を裏切りアオイに思いを傾け結ばれようとする。
それは罪であると突き付けられます。
ただこれは物語の主人公・心一が選んだ選択ではなく、現実世界で主人公の選択にGOを出すプレイヤー自身が犯した罪。
そう、美雪はプレイヤー自身の気持ちはどうだと問うているのです。
こんなメタフィクションは予測もしなかった展開。
さて、ここで少しだけ自分の話を。
自分はこれまでに約350本ほどビジュアルノベル作品をクリアしてきました。
フルプラ、ロープラなど様々な形態を鑑みて各作品3人ずつのヒロインと結ばれたと仮定しましょう。
そうするとこれまでに1050人ものヒロインを愛してきたわけです。
その中には絶対的な推しの『ホワイトアルバム2』杉浦小春、『俺たちに翼はない』玉泉日和子を頂点として強く惹かれたヒロインもいれば、そうでなかったヒロインも。
ただ、ほとんどのヒロインが主人公を真剣に愛し、主人公のためなら命を投げ出そうとするヒロインもいました。
結ばれる過程で作中の選択肢をクリックして物語は個別ルートに突入し、攻略対象ヒロインとのドラマを経てエンディングへ至ります。
よほど趣向や性癖が特殊な作品でなければ大体が当てはまるかと思われます。
では、話を戻しましょう。
今回問われたのは、それは裏切りではないのか?ということ。
少し話を飛躍させましたが、最終的にはこれに尽きます。
1050人ものヒロインとの愛を誓い添い遂げ、同時に1050回も愛を裏切ってきた罪。
本作の美雪は、あくまで2周目でアオイと結ばれようとした愛の裏切りをプレイヤーに問いただしています。
でも自分には、1051回目の裏切りを問われているんだと思えたわけです。
それはセーブロードでやり直す前提で犯す罪。
さらに美雪は現実世界と同じように、セーブロードのできないセカイへとアップデートさせました。
つまり、現実と画面の中のセカイの壁を壊し同期したのです。その上で、自分を愛してほしいとプレイヤーに訴えてきてるのです。
この状況、誰が想像できました?
これこそ本作がネタバレ厳禁と言われた真の理由。ネタバレ情報既知で本作をプレイしたならば、この衝撃的な体験が損なわれてしまう。
しかも言葉でのネタバレは何ともチープになってしまうので、体験することこそ最重要であると改めて強く感じました。
さて、プレイ中の話をすれば美雪のロック解除の問題は8回失敗して、ここで3時間はウロウロしてました。もう攻略サイト見てやろうという気持ちになりながらも、強い意志で何とか思いとどまり通過。
ただその後に3の30乗の美雪とあったので、これって問題はランダムだったって事ですかね?
しかも物語を進行するキーコードは現実世界に存在する。アオイを復活させるための番号入力はほとんどお手上げ状態で、やっぱり攻略サイトを頼ろうかと再び迷っていました。
ただ、致命的なネタバレを踏む可能性もあったので躊躇したんですよね。
恐らく30分くらいは画面と睨めっこしていたと思います。バックログをひたすら確認したり、メタフィクション展開を思考したり。試しにパッケージ版に付属していたDLコードを入力してみようかとヤケクソになっていたところ、目が釘付けとなる数字の羅列を発見。
ユーザーサポートのペラの右下に小さくKeycordと8桁の数字を発見!
もういい加減攻略サイトを見ようと思っていたのでものは試してみることに。ただ、頭の中ではこれで間違いないという確信もありました。
ちなみに中出し回数は6回でした。(だから何?)
そしてセカイは開かれる‥‥。
ここで起きた一連の体験こそ、本作の本質に向かう前段階であったと言えるのは間違いありません。
そりゃ問題作ですよ。納得です。
★究極の二者択一の答えは
制作サイドの意図としては、恐らくプレイヤー自身が美雪とアオイのどちらのヒロインを選ぶか、その選んだただ一人のヒロインを愛してほしいというものだったのでしょう。
セーブロードでのやり直しはきかない。
それは、美雪やアオイに対する裏切りだとはっきり言い切られています。
選択は一度きりで、美雪かアオイのどちらかの結末しか見ることが出来ない、そういうふうにスプリクトは組んであるとまで言われます。
ここから予測できるのは衝撃的だった強制終了からの再起動でセーブデータが抹消されたと同様に、再びセーブデータが抹消されるようにプログラムされているということ。
めちゃくちゃ現実に介入してくるじゃんとまた興奮を覚えるも、それは究極の二者択一ともなるわけで。
じゃあまたやり直せばいいかと考えていたら、さらに畳み掛けられる言葉が続きました。
それは、美雪に対する裏切りで、アオイに対する冒涜である、と。
あー、詰んだわ‥‥って思いました。
プレイヤー自身のヒロインへの愛、そして倫理観を問われたわけです。
もう逃げ場なんてない。
進むしかない。
かなり、かなーり悩みました。
物語として結ばれるべきは美雪が正しい気がするし、でも感情としてはアオイを選びたい。
さて、どうすべきか‥‥。
ここまで悩むならいっその事、両方のエンディングを見ることは出来ないか?
いや、そしたら本質からずれるよ?
でも、これってフィクションだよ?
知ってるよ。でも従う理由はある?
いや無いけど‥‥プレイヤーとしてそれってどうなの?
こんなやりとりを脳内で延々やってました。
そして自分が選んだのは美雪。
感情よりも、個人的に感じた整合性を優先した決断でした。
自分の選択はあくまで、ヒロインを愛する主人公の中の人ではなく、現実世界に存在するただのノベルゲームプレイヤーであることを選んだわけです。
これ、伝わりますか?
⚠️注意⚠️
アオイを選んだ方はこの先は読まず次の項目までスキップしてください。美雪のエンディングに関するネタバレが含まれます。
美雪を選んで物語は最初に戻るかの如く、美雪との愛の誓いが現実となって帰結します。
そもそも美雪は心一というよりも、画面越しの「君」、つまりプレイヤー自身に恋をしていたってことなのでどこまでもメタ的な要素満載な帰結。
思い返せば美雪との共同生活のえちシーンは画面越しのプレイヤーとの擬似セックスまでありましたよね。
これって結構凄いことだったんだなと改めて思いますし、美雪の嫉妬深さや愛の重さを強く思い知りました。
ただ、思ったよりもあっさり爽やかなエンディングに今までの黒々としたものは垣間見えず、綺麗な青春物語を見届けたかのような感覚。
なんと言葉に表せばいいか戸惑うくらい不思議な想いに包まれていました。
★犯した大罪と懺悔、そしてアンチ感情
先に申し上げておきます。
美雪のエンディングを見届けて一晩明けてから、初めからやり直してアオイのエンディングを見届けました。
制作サイドの意図を無視し、問われた責任に否を突きつけ、美雪を裏切り、アオイを冒涜するという大罪を犯しました。反省しています。
ただ、その決断に至るまでにはそれなりに悩みました。
実は美雪クリア後に少しだけ作品感想を読んだりしていたんですが、どうやらアオイのエンディングの評価が高いんですよ。
気になるじゃないですか、そんなの。
そこでトンデモ理論を思いつきました。
いや自己肯定、自己援護理論とも言っていいかもしれません。
でも結構真面目に考えました。
まず自分の本作へのスタンスを整理します。
美雪を選んだ理由は先にも書いた通り、感情よりも整合性を優先した決断。
繰り返しになりますが、自分の選択はあくまでヒロインを愛する主人公の中の人ではなく、現実世界に存在するただのノベルゲームプレイヤーであることを選んだわけです。
そして、これも繰り返しになりますが、美雪はアップデートで現実世界と画面の中のセカイの壁を壊し同期させました。
つまりは、現実とフィクションが混在した状態を演出しているわけです。
このアプローチはとても新鮮ですし、衝撃的な内容です。
ただ、個人的な見解としてはそれでも現実は現実、フィクションはフィクション。
すんなり受け入れることは無理な話です。
あくまでエンターテイメントの一環として捉えています。
裏切りと冒涜、倫理観に背く決断をしたとしてもやっぱりフィクションなんですよ。
現実ではない。
だったら‥‥と、知的好奇心が勝ってしまうのには抗えません。
もしかしたら、この自分が犯した罪を断罪する方がいるかもしれません。
でも、結論申し上げればそれはどうかご容赦ください。
これは価値観の話です。
一人だけのヒロインを選んだプレイヤーの方は、その選択に誇りを持ってもらっていいと思います。
素晴らしい愛の貫き方です。
でも、自分は異なった考え方を持っていたということ。そういう話です。
これも雄太郎の言う浪漫という事で。
⚠️注意⚠️
美雪を選んだ方はこの先は読まず、次の項目までスキップしてください。アオイのエンディングに関するネタバレがあります。
アオイのエンディングこそ真のメタ展開。
それはこの作品に限らず、これまで出会ってきた、そしてこれから出会うであろう素敵なヒロインたちのイデアとされるものでした。
感動しました。
こんな帰結があるのかと心が震えました。
アオイのエンディングを見届けたのならば、プレイヤー自身にとってアオイは全てのヒロインの本質、巡り巡ってヒロインいっさいの存在と認識されるわけです。
これは素晴らしい答え。
正直言って美雪のエンディングよりも、アオイのエンディングの方がメッセージが強いですし、忘れられないエンディングとなりました。
結論を言ってしまえば、両方のエンディングを見届けることができて本当に良かった。
確かに大罪は犯しましたが、それでも自分のアンチ感情は先に述べた通りなので納得しています。
★「君」の恋と、ヒロインとの距離感
この作品の主人公は本気でヒロインに恋をして、またヒロインも同様です。
そして、作品タイトルにもあるように「君」である自分もヒロインに恋をしています。
しかし、「君」が”本気の恋”をしていたかはプレイヤー次第。あくまで作品設定でしかありません。
元も子もないようなことを申し上げているとは思いますが、これはかなり重要な話。
確かに美雪もアオイも魅力的でした。
現実に然るべきタイミングで出会ったのなら恋をしたかもしれません。
でも当たり前ですがこれはフィクション。
だからこそ2人のエンディングを見届けるという大罪まで犯しました。
きっと「君」の恋が本物ならば、2人共を選ぶことは出来るはずが無い。
これは全ての美少女ゲームのヒロインにも言えます。
あくまで個人の考えですが、どれだけ推しヒロインが尊かろうと本気で恋などはしていない。
だから他作品のヒロインにも気持ちが傾く。
結局は現実とフィクションってそういうものなんですよ。
だからこそ雄太郎の言う浪漫がある。
彼が探している浪漫というものを自分なりに答えるならば、出会ったヒロインみんなを愛したいから「君」になりきり、恋という設定を楽しむことを永遠求め彷徨うでしょうか。
理屈っぽくて分かりにくいかもしれませんが伝わりますでしょうか?
色々語りましたが、プレイヤーである自分自身とヒロインたちとの距離感を改めて整理する機会となりました。
冒頭で述べた問題提起とは「君」と彼女の恋、もっと言えば純愛に対してノンフィクションを受け入れるか否かだったように思えます。
2013年当時にはあまりにセンセーショナルであり、挑戦的だったはずなので今に至るまで語り継がれているんでしょうね。
◾️最後にまとめ
我々ノベルゲームプレイヤーが、安易に選択肢で主人公とヒロインの人生を決めてきたことへの問題提起とも取れる作品でした。
自分の選択に責任を持て、という事なのでしょう。
強制終了からのシャットダウンという演出に驚きもありましたが、本質はその先にあったメタ展開と、ヒロインのイデアにまつわる概念だったので強烈に記憶に残る作品となりました。
鬱作品だったり、グロ作品だったり、トラウマ作品と評されるようですが、自分が導き出した最終結論は”純粋で誠実な作品”だったというものでした。
ヒロインとの向き合い方には考えさせられますし、後ろめたい感情を改めて思い知ることにもなりました。
クリア後にタイトル画面の作品名が『君と彼女の恋。』に変わっていたのも説得力があり深い。
本作プレイ前に遊んでいた作品が『同級生2リメイク』で16人のヒロインを攻略、しかも複数人同時並行なんかしてヒロインと添い遂げただけに、なおさら本作のテーマが感慨深いものとなってしまいました。
美少女ゲームを数多くプレイした方ほど思うことがあるんじゃ無いかなんて思ったりもして。
これから先にこんな作品に出会うことはまず無いでしょう。
問題作であり、純粋であり、誠実であり、唯一無二である作品でした。
あまり触れられませんでしたが、音楽が抜群に素晴らしかったです。サントラ買います。
素晴らしい体験をさせてくれたニトロプラスの方々、作品に関わられた全ての方に感謝を。
また、この感想にお付き合いいただいたあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。
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