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2023年8月6日 扇風機は、若い人では体温を下げる効果がある(しかし高齢者は高温では有害かも)

割引あり

■ ブログで公開した内容の深掘りです。

( 本記事は、メンバーシップ(スタンダード・アドバンス)の記事です。メンバーシップの概要は、こちらをご参照くださいm(_ _)m)



『扇風機はかえって熱中症を悪化させる』は本当?

■ 東京の気温はおおきくあがってきています。


■ 平均気温での2℃というのはとても大きな変化で、氷河期の平均気温は、日本の緯度では現在よりも3℃~6℃程度しか違わないのだそうです。

地球温暖化はなぜ困るの?(環境省)


■ そして、扇風機を使用している方が増えていることでしょう。

■ さて、それはさておき、携帯扇風機で熱中症になるひとが増えている…という記事がYahoo!トピックになっていました。

■ このように書かれてしまうと、『扇風機が悪い』というイメージを持つ人も増えるかもしれません。

■ 実際に、CDCなどでは『扇風機は快適さを提供してくれるかもしれないが、気温が華氏90F(摂氏32.2度)以上になると、扇風機では熱中症を防ぐことはできない』と推奨しています。


■ 前提条件として、エアコンなどで十分に体を冷やしておくことは重要で、とくに暑さに慣れるという『暑熱順化(しょねつじゅんか)』が進んでいないケースや、高齢者、小児はリスクが高まります。

■ 一方で、これらは高齢者に対する研究結果がおもな理由となっていて、若い人では扇風機も『ある程度は有効』という報告もあります。



この論文でわかったことをざっくりまとめると?

オタワ大学において、8人の健康男性に対し、36℃~42℃の温度、湿度25%~95%に段階的に上げる実験を実施し、心拍数と体温の反応について確認したところ、
✅ 36℃では、扇風機がある場合の湿度の限界値が83%で、ない場合は62%だった。
✅ 42℃では、扇風機がある場合の湿度の限界値が47%で、ない場合は38%だった。
✅ 扇風機がある場合、体温の上昇が遅く、全身の発汗率も高かった。


以下は、論文の解説と管理人の感想です。


背景


■ Patzらは、増加し続ける熱波が人間の健康に及ぼす影響について述べている。
■ 簡易で低コストな冷却装置としては扇風機が挙げられる。
■ コクランレビューによれば、死亡率や罹患率について、「熱波時の扇風機の使用について肯定または否定する証拠は現時点では存在しない」と結論づけられている。
■ しかし、公衆衛生のガイダンスでは、暑い天候下での扇風機の使用には警戒が呼びかけられている。
■ 推奨される使用上限は、相対湿度(relative humidity; RH)35%で32.3℃(90°F)から35.6-37.2℃(96-99°F;RHの記載なし)までとされている。
■ 皮膚から空気への温度勾配は、環境温度が上昇するにつれて逆転し、乾燥した熱が身体から離れるのではなく、対流によって身体に向かって移動する。
■ 扇風機の使用は、この乾燥による熱伝導を増加させ、身体の加温を促進する可能性がある。
■ しかし、皮膚からの汗の蒸発効率も同時に増加する。
■ したがって、扇風機は正味の熱損失を改善する可能性がある。
■ 汗の蒸発は湿度が高くなるにつれて減少するため、湿度の高い環境では、扇風機を使用しても、暑さによる心血管系(心拍数、heart rate[HR])と体温(中心温度)の上昇を防ぐことはできないかもしれない。

目的

■ 本研究では、暑熱環境がHRと体温の急激な上昇なしに生理的に耐えられなくなる限界湿度に対する扇風機使用の影響を調べた。

方法

■ オタワ大学の倫理委員会の承認を得た後、学生ボランティアから書面によるインフォームドコンセントを得た。
■ 各参加者は、ランダムな順序で、48時間以上の間隔をあけて135分間の試行を4回行った。
■ 各試験の前に水分補給を確認した(尿比重<1.025)。
■ 参加者は短パンとTシャツを着用し、現在扇風機の使用が推奨されている温度(36℃;97°F)またはそれを超える温度(42℃;108°F)に保たれた部屋に座った。
■ 各温度において、18インチの扇風機(Whirlpool製)を参加者から1mの位置に設置した場合としなかった場合をテストした(風速:4.0m/s)。
■ 心拍数(Polar社製)と体芯温度(食道温度)(Covidien社製)は終始測定され、全身の発汗量は試験前後の体重変化(Sartorious社製)を用いて計測した。
■ セグメント化された線形回帰(GraphPad社製)を用いて、最初に心拍数、次に体温に上方変曲が生じる相対湿度(RH)を、各試験について個別に決定した(図1)。


論文から引用。各試験は、相対湿度20%で最初のベースライン期間を設けた後、絶対湿度を2mmHg(42℃における相対湿度3.33%)ずつ段階的に15回上昇させた。

■ これらの臨界RH値と全身の発汗量は、対応のある標本のt検定(P < .05、両側)を用いて、各温度における扇風機ありと扇風機なしの群間で比較した。

結果

■ 2013年6月5日から11月6日に8名の健康な男性(平均[SD]年齢23[3]歳、体重80.7[11.7]kg)が参加した。
■ 36℃における心拍数の上方変曲の臨界RHは、扇風機なし(62%;95%CI、56%-68%)よりも扇風機あり(83%;95%CI、78%-87%)の方が高く(P < 0.001)、42℃においても(それぞれ47%[95%CI、42%-51%]vs38%[95%CI、33%-42%])高かった(P = 0.01;図2)。

論文から引用。 体の中心温度と心拍数の上昇における臨界湿度への扇風機の影響。


■ 36℃における体芯体温の上方移動は、扇風機を使用した群では2人のみであったが、扇風機を使用しなかった群では7人に発生した(RH、84%;95%CI、80%-88%)。

■ 42℃では、体芯体温の変化は、扇風機なし(48%;95%CI、42%-54%)よりも扇風機あり(55%;95%CI、51%-59%)の方が高い相対湿度(RH)で起こった(P = 0.04;図2)。


■ 全身発汗量は、36℃では扇風機あり(180g/h;95%CI、173-187g/h)の方が扇風機なし(153g/h;95%CI、140-165g/h)よりも多く(P = 0.01)、42℃ではそれぞれ399g/h[95%CI、381-417g/h]vs 241g/h[95%CI、209-273g/h]であった(P < 0.001)。

討論

■ この予備的研究は、36℃で相対湿度約80%、42℃で相対湿度50%まで、扇風機が健康若年男性の心拍数と体温上昇を防ぐことを示した。
■ これは、我々の知る限り初めての結果である。
■ 従って、既存の指針に反して、扇風機は高温多湿の時期にエアコンを使用しない人々にとって効果的な冷却装置である可能性がある。

■ 若い参加者のみが評価されたため、他の集団(例えば、合併症を持つ高齢者)や発汗量が減少している集団については、臨界RH値を導き出す必要がある。
■ しかし、扇風機で測定された発汗量は、以前に報告された健康な70歳成人で達成可能な値(440g/h)よりも低かった。



管理人の感想:『携帯型』扇風機の実験ではないこと、扇風機を過信してはいけないことも確かだが、『補助的になら』扇風機の使用も若い人には有効かもしれない。



■ この研究は、若年者に対する研究であること、そして、たとえば抗コリン薬(発汗を減らす)を使用しているひとや、小児、発汗量がすくなくなっている場合には、別の考え方も必要になります。

■ 今回の研究は2015年の報告ですが、2016年に高齢者に対する温度と湿度ごとに心臓と体温の反応がどのようになるかをみた研究があります。

Gagnon D, Romero SA, Cramer MN, Jay O, Crandall CG. Cardiac and Thermal Strain of Elderly Adults Exposed to Extreme Heat and Humidity With and Without Electric Fan Use. Jama 2016; 316:989-91.


■ 高齢者(60~80歳)に対する検討で、扇風機は心拍数や体温の急上昇を遅らせる効果は見られず、むしろ、扇風機は心拍数と体温を高める結果となっています。

■ すなわち、若者においては、扇風機が汗の量を増やす効果があるのに対し、高齢者ではそのような効果は観察されなかったということです。
■ 高齢者においては、高温の場合に扇風機は有害である可能性があるということです。
■ 高齢者の発汗能力の低下が、電動扇の効果を限定する要因である可能性があります。


■ 最近、周囲温度と湿度の組み合わせと、持続可能な冷房戦略(扇風機など)が評価された報告があります。
■ 湿度と温度の組み合わせで、状況がかなり変わります。状況で対応を柔軟に変える必要性があると言えるでしょう。

Jay O, Capon A, Berry P, Broderick C, de Dear R, Havenith G, et al. Reducing the health effects of hot weather and heat extremes: from personal cooling strategies to green cities. The Lancet 2021; 398:709-24.


■ 水分摂取が有効ではない…もしくは、経口補水は危険…といった論調もみかけますが、それもまた極端な気がします。

■ 実際、ガイドラインには水分摂取や経口補水に対して有効性を示し、推奨しています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf

熱中症診療ガイドライン2015


■ 一方、世界では電力需要の高まりから、扇風機も利用したさまざまなアイテムや対策も推奨されるようになっています。

Jay O, Capon A, Berry P, Broderick C, de Dear R, Havenith G, et al. Reducing the health effects of hot weather and heat extremes: from personal cooling strategies to green cities. The Lancet 2021; 398:709-24.


■ 日本における一般の方への情報提供は、『エアコンのある場所に退避』『水分摂取を並行して』とするべきでしょう。

■ 一方で、扇風機が有害、水分摂取も有害、というふうな論調もみることがあります。さまざまなアイテムを駆使できればいいなと思います。

■ とはいえ、柔軟に変更…とうのはなかなか難しいものですね。



元文献

扇風機を使用した場合と使用しない場合の、極端な暑さと湿度に対する心拍数と体温の反応。
Ravanelli NM, Hodder SG, Havenith G, Jay O. Heart rate and body temperature responses to extreme heat and humidity with and without electric fans. Jama 2015; 313:724-5.

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