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【2024年10月31日まで全文無料】経皮免疫療法から経口免疫療法へのスイッチ療法は有効か?|2023年9月13日

■ ブログで公開した内容の深掘りです。

( 本記事は、メンバーシップ(アドバンス)の記事です。メンバーシップの概要は、こちらをご参照くださいm(_ _)m)
※本記事は、EPITの研究に対するクラファンへの応援の気持ちをこめて、クラファンが終了するまで、全文無料で閲覧可能です(管理人は、クラファンや研究に参加はしていないので利益相反はありません)


ピーナッツアレルギーに対する経皮免疫療法(EPIT)の検討が進み、どのような活用をしていくかが模索されている。

重症卵アレルギーのお子さんへ、副作用の少ない新たな治療法を届けたい(READYFOR) https://readyfor.jp/projects/miehospital2023

■ 食物アレルギーに対する標準治療は、現状では除去食が基本です。しかし、アレルゲン免疫療法として、経口免疫療法(OIT)、舌下免疫療法(SLIT)、経皮免疫療法(EPIT)などが考えられています。
■ アレルギー反応を起こす抗原(主にタンパク質)をアレルゲンと言います。
■ 体内に侵入したアレルゲンは、樹状細胞という細胞によって認識されます。

■ 樹状細胞は、情報を伝えるメッセンジャーのような役割を持つ細胞です。この樹状細胞が免疫細胞(例:T細胞)に「こんなタンパク質がいるよ」という情報を伝えます。

■ この樹状細胞が伝えるメッセージをコントロールすることで、免疫細胞の教育を行います。ただし、免疫細胞の教育は時間がかかり、根気が必要な作業です。
■ 情報が強すぎると、強いアナフィラキシーを起こすことがあり、人によっては調整が難しいこともあります。

■ これらの治療法の安全性と効果を考慮しながら、樹状細胞に情報を伝える方法はさまざまに考えられてきました。

■ それぞれの方法に応じた治療法が存在します。

皮膚の下の樹状細胞に伝えるための注射 → 皮下免疫療法(SCIT)

腸管の樹状細胞に伝えるための食事 → 経口免疫療法(OIT)

舌の下の樹状細胞に伝えるための方法 → 舌下免疫療法(SLIT)

皮膚の樹状細胞に伝えるための特殊なシール → 経皮免疫療法(EPIT)


■ これらの治療法に関する研究は進められていますが、それぞれに長所と短所があります。

(最近、メルマガでその歴史も含めて解説しました)



■ 経皮免疫療法(EPIT)は、ピーナッツに対する臨床試験で良好な結果が得られています。

■ EPITの効果はOITほどではありませんが、安全性が高い、もしくはシールを貼るという簡便な方法という長所があります。


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■ そこで、最近、EPITとOITの併用療法を検討し、OITの前段階の治療や治療中の反応を軽減するためのEPITの活用可能性についての報告を共有いたします。



この論文でわかったことをざっくりまとめると?

ピーナッツ経皮免疫療法(EPIT)が成功した小児27人のうちEPITから経口免疫療法(OIT)に移行した18人と、EPITのみで継続した群を検討したところ、

EPITを行った小児とその養育者は、OIT開始に対する不安が少なかった。
✅ EPITからOITに移行した群の多くは、症状は軽く、もしくはなかった。
✅ 3人のみ、副作用(腹痛、蕁麻疹、好酸球性食道炎など)の症状のため、OITを中止となった。



以下は、論文の解説と管理人の感想です。

はじめに

■ 経皮免疫療法(EPIT)は、ピーナッツアレルギー(PA)を持つ小児を対象とした臨床試験で、安全性と減感作効果の有効性が検証されている。
■ ピーナッツの除去と症状の管理以外に、経口免疫療法(OIT)もピーナッツアレルギー患者の治療選択肢として存在する。
■ しかし、OITは有害事象のリスクが伴い、小児およびその介護者に安全性の懸念をもたらすことがある。

方法

■ 本研究では、ピーナッツEPIT試験が成功した小児27人を評価した。

論文から引用。EPIT終了後の参加者のフローチャート。



■ その中で18人がピーナッツOITに移行し、開始用量はピーナッツ蛋白10~600mgとした。
■ 本研究の目的は、アンケート調査を通じてEPITからOITへの移行経験を深く理解し、一方の治療だけでは得られない可能性のある安全かつ良好な結果を追求するため、2つの免疫療法を連続して使用することの意義を探ることだった。

管理人注
EPITからOITへ移行した群にはフォローアップ面接と検査が行われ、EPITのみのグループには、OITに進まなかった理由を理解するために電話面接が行われました。


結果

■ 全体的に、EPITを行った小児とその養育者は、OIT開始に対する不安が少なかった。

管理人注
EPITからOITへの移行した18人のうちの大多数は、少量からOITを開始し、用量の増加は様々でした。ピーナッツを2週間ごとに摂取していた1名を除き、すべての参加者がOITを毎日実施していました。



■ EPITからOITへ移行した多くの小児は、開始時の症状がないか軽微で、OIT治療後には症状が軽減した。

管理人注
EPITからOITへ移行した参加者への調査から、50%が移行中に症状を経験しませんでした。症状があった参加者は、嘔気、鼻づまり、かゆみ、胃腸症状、蕁麻疹などの軽度の症状でした。参加者のうち3人は、腹痛、蕁麻疹、好酸球性食道炎などの症状のため、OITを中止となりました。


■ また、大部分の小児がピーナッツの摂取量を維持または増加させ、維持量は60~2,000mgとなった。


管理人注
ほとんどの参加者は、時間をかけて投与量を増やし、ピーナッツを毎日の食事に取り入れることができました。最初の投与量のままで継続したり、誤食から身を守る方法としてOITを使用することを選択した参加者もいました。
最終的な維持用量は、参加者た家族の希望とアレルギー専門医の助言に基づいて、60~2,000mgでした。
※ タンパク量換算なので、ピーナッツ1/4個(約75mg)、ピーナッツ1個(約300mg)、ピーナッツ2個(約600mg)です。

考察

■ 現在の小児のPAに対するOITに関する文献と比較して、EPITからOITへの移行群での症状は、より軽微で少なかったことが確認された。
■ しかし、耐え難い症状の発現によりOITを中止した参加者が3名存在した。
■ 本研究は、EPITとOITの併用療法の有効性を示す初期データを提供しており、両療法の併用効果を評価するための大規模なランダム化比較試験が求められる。


管理人の感想:経皮免疫療法(EPIT)をどのように将来の食物アレルギーの治療に結びつけていくかは、さらに検討を要するでしょう。


■ EPITは、OITほどの効果はあがらないことが予想されているものの、ハイリスクの方の初期治療や、維持療法に有効ではないかという報告が増えてきています。


■ しかしEPITは、ピーナッツの検討は進んできていて、11歳以上では効果がさがることが示唆されています。すなわち、小児のうちから始めることの有用性が示唆されています。

■ しかし、他のアレルゲン(卵や乳など)では、どのような結果になるかはまだわかっていません。

■ 日本でも卵を中心に研究が端緒についたところです。
(研究費がクラファンで募集されています)


■ 今回共有した研究では、EPITからOITに移行することを避けた保護者には、すでにEPITで経験した以上の症状がOITで起こるのではと心配して移行を避けた方が多かったようです。
■ そして、子どもが大きくなるまで待ち、免疫療法を子どもの考えに任せたいと考える人もいらっしゃいました。

■ このあたりの免疫療法のリスクとベネフィット(利益)に関してのバランスをどのように組み立てていくかを、さらに検討していかなければならないといえるでしょう。


元文献

落花生免疫療法の経皮から経口への移行

Wong L, Kost L, Anderson B, Long A, Sindher SB, Chinthrajah RS, et al. Transitioning from epicutaneous to oral peanut immunotherapy. Front Allergy 2023; 4:1089308.

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