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アメリカ奴隷制とナチス: « The S.S. Officer’s Armchair » (SSのひじ掛け椅子) I ダニエル・リー

(本書内の black はそのまま黒人と訳します)

ダニエル・リーはアメリカ人歴史学者で、フランス・ペタン政権下における反ユダヤ運動についての著作がある。
彼が今年2020年にアメリカで上梓したのが本書。

オランダはアムステルダム、ある婦人が古いひじ掛け椅子を修理に出したところ、シートの下から1人のSS隊員に関する文書が見つかる。

ロバート・グリージンガー

身分証にはそう記されていた。

椅子の持ち主の婦人はチェコ出身。

なぜこの椅子にナチの書類が入っていたのか、このSS隊員は何者なのかを知りたいと著者に依頼。
こうして調査を開始した著者はドイツのみならず、ロバートの親族の歴史を辿るため、ルイジアナ州の文書館にも赴く。

読み終えた第2章までの大筋はこんな感じ。
今後読む人のためにこのくらいに。

イントロダクション冒頭にあるグリージンガーの正体についての記述もここでは伏せておく。
あと、本を読まなくてもいいほどには詳細は書かないのがマイルール。

発売したばかりで邦訳がないけど出るような気がする、なんとなく。

ノンフィクションにも色々な書き方があるが、本書は対象を主人公に物語るのではなく、著者の調査の進捗を追っていく。
ゆえに謎解きや秘密の解明を楽しむ、探偵小説のようなワクワク感がある。
同時に、アメリカに渡ったドイツ移民や南北戦争、アメリカの人種差別制度がナチスに与えた影響、ドイツでのアフリカ系への差別などの歴史を学ぶことができた。

アフリカ系民族政策は別書で勉強する予定だが、アメリカの奴隷制や南北戦争がナチスの人種差別政策に及ぼした影響は初めて知った。

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グリージンガー家がドイツからアメリカに渡ったのは1871年

本書の調査対象であるロバート・グリージンガーの祖父ロバート・シニアは、フランス統治領だったニューオリンズ(ルイジアナ州)に移住する。
ここにはドイツ人街があり、新聞、プロテスタントの教会、ドイツ人学校、ドイツ系企業や組織が存在していた。

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(↑ニューオリンズ)

新規移住者たちの多くは綿花業に従事。

当時、黒人や「混血」の人たちは奴隷にされ、南北戦争直前、奴隷ビジネスの非常に盛んな時期である。

後にロバート・シニアの妻となるリナは1700年代にはすでにアメリカに移住していたフランス系の家系。
父親はある超有名作曲家と懇意の音楽家であり、曲のタイトルにも名前が付けられているほど。
奴隷制や人種隔離の中で育ったリナの差別的考えが、彼女やその子ども、孫たちの人種差別主義的思考に影響したのではないか、と著者は推測している。

ロバート・シニアとリナの息子アドルフ(ロバートの父)は1870年代のルイジアナで育ち、ホワイト・スーパーマシストの組織の一員だった。
当時の白人男性住民の50%が加入しており、黒人に対する差別や暴力、ときには殺人を行なっていた。

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1929年の大恐慌へと繋がる景気悪化は綿花ビジネスに大打撃を与え、たくさんのドイツ系の移民が本国へ帰還。人種差別思想をドイツに持ち込むこととなった。

1930年代中頃、ドイツの法律家たちは人種差別政策に対する「最善の」法制についてアメリカのやり方に強く関心を寄せた。
ナチスがユダヤ人とアーリア人の結婚や性的関係を禁止したニュルンベルク法は、アメリカの反人種混合法との類似性が見られる。
1935年11月にロマと黒人にも適用が拡大された。

以上、ざっくりと本書第2章までに記載のあるアメリカの人種差別とナチス、その影響についてまとめてみた。

人間の考える愚かなことは洋の東西も時代も関係なく共通する。それをどう対処しようとするか、どう解決するかに社会とそれを構成する人たちの成熟度が現れると思っている。

ホロコーストは結果的にユダヤ人殲滅を目標とすることになったが、非アーリア人は白人であっても劣等民族として考えたのがナチスの思想。
長らくアフリカ系やアジア系に対してどうであったか気になりながらまだ手をつけられていない。
読むべき本は一つ教えてもらえたので、そのうちに・・・。

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