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『妖怪百姫たん!』と僕

「妖怪百姫たん!」というスマホゲームが2014年11月にサービスインしてから2021年2月にサービス終了するということで、そのゲームを作った張本人として思い出を綴っていこうかと思いました。完全に記憶ベースなのでちょいちょい事実と違うところがあるかもしれませんが、まあこの世は大いなるフィクションの塊ってことで。

ちょっとした自己紹介

2020年現在、とある出版系グループの会社で、今のところは映画メディアやチケッティングの運営やマーケティングなど事業全般を担当させてもらってます。ゲームプロデューサーとしてはおそらくちゃんとはしていなくて、それまでWeb系のディレクション職が長かったのが、グループ内のIPを使ってデジタルの商売をやってみるという会社へ異動してから、当時流行り始めていたソーシャルゲームを事業としてやるから君、やってみなさい、というのがそれとしてのキャリアスタートです。ただ、ゲーム自体はやるのはもちろん好きだったわけで、それこそゲームウォッチ(2画面のドンキーコングとか、太陽電池で動くUボート?のゲームとか)に始まり、ファミコン、スーファミ、PCエンジン、メガドライブ、サターン、プレステあたりまではずっとやってました。特にファミコンでの「シンプルな操作性で楽しさを味わう」という経験はケータイというハードでのゲームプレイを考えるにあたってよかったのかなと。少年ジャンプが大好きで、映画は学生時代は年200本くらい、音楽はPavementやWEEZERといったいわゆるオルタナ系のギターロックを好んで聴いていたというサブカルかぶれの人間です。

企画に至るまでの背景

そんなゲームプロデューサーとしてはド素人がいきなりそれをやり始めて、何本かリリースしてみて、まあ当然ながら失敗の連続でした。まあインキュベーション色の強い会社だったのですけど、よく投資してもらえてたな、、と今になって思いますがソシャゲブームのそういう時代だったのでしょう。ただ、オリジナルではなくIPものだったため、監修に時間がかかってリリースが思うようにできなかったり、またゲームをこかしては版権側に土下座しにいったり。そういう背景や、当時「美少女もの」が流行っていたこともあって、何か擬人化できる、それでいてオリジナルに近い題材はないか、、ということで「秘録 妖怪大戦争」というタイトルのリリースにこぎつけました。商標だけを借りて、あとは完全オリジナル。今となってはもうない開発会社との協業案件だったのですが、これは書き出すとまた膨大なテキストになりそうなのでまた別の機会にするとして、、、

当時は「そのジャンルに(熱狂的な)ファンがいる」「キャラが多い」「僕自身がそのジャンルに詳しい」といった要素を持つモチーフを探していました。1つめは言わずもがな課金単価(ARPU)の高さに直結、2つめは息の長い運営のため、3つめは自分が愛着を持って、また1つめのファンにちゃんと楽しさを提供するために必要だという理由からです。このタイトルでは多くの優れたイラストレーターさんと出会えることができ、また運営は(自分でいうのもなんですが)ひどいものでしたが、「このキャラは好き」というユーザーの声も聞こえてきて、この妖怪たちをまた復活させたいなあとは思っていました。

企画~開発まで

「秘録~」を運営しているときに別のゲーム(※1)を立ち上げてすさまじくぶっこかして、そして当時同僚だった別のプロデューサー(※2)が転職するというのでサービス開始間際に引き継いだ変なエロゴルフソシャゲ(『らぶ×たま』知っている人いるかな?)も当然すぐにサービス終了、敗戦投手として処理。当時所属していた会社では、サービス終了前に社長役員が並ぶ会議にて事業終了の承認を得なければならなかったのですが、めちゃくちゃ苦労して作った資料(失敗の原因と今後の活かし方を大仰に書いた、シンプルに言えば反省文)を冒頭おずおずと読み上げようとしたら、社長が資料を一瞥して「これで1勝2敗、次勝てよ!」とすぐに終わったのはよい思い出(もうちょっと負けてるけどな、、と思ったけど元気よく「ハイッ」とお返事して終わった)。まあそんな失意の中でも妖怪の企画はずっと温めていて、折しも「艦これ」が超絶ヒットしていた時期、割とすぐに「企画なんかある?」と聞かれたので即提出しました。いろんな理由はあるかと思いますが、「オリジナルで監修の必要なし」「社内開発リソースの利活用」などなどたまたま社内の状況にマッチしたものに企画がぶつけられたのは僥倖でした。

※1)赤川次郎先生原作の有名な小説です。当時の上司が適当に「この作品借りてゲーム作れよ!」って言ってきたのでどうにかこうにか企画にして、版元に話をしにいったらトントン拍子に決まって。とりあえず作ったはいいもののバグだらけだし毎日詰められるし本当に辛かった。でも任侠の世界に少し詳しくなった。
※2)2021年2月現在、eスポーツ関連の会社のシャチョーをされてますね。遠い存在になられてしまった。。

開発スタート!

企画自体は「イラスト資産の再活用」「開発内製による柔軟な運用」「オリジナルIPによるマルチユース」あたりを軸にして肝心のゲーム内容はあまり書かずに濁して何とか通しました。ただこれが後で響くのですが。。改めて僕の役割について、プロデューサーとひとくちに言っても以下をやっていました。

・事業計画立案
・開発メンバーのマネジメント
・ゲーム世界観、シナリオ原案
・ゲーム全体プランニング
・キャラクター原案、監修
・プロモーション計画立案
・外部折衝

ディレクターとして中も見つつ、プロデューサーとしてタイトル責任者として内外と折衝をする、という感じでした。

開発メンバーは、プランナーが3名、グラフィッカーがのべ4名、エンジニアが4名ほど。皆精鋭というわけではないですがゲームが大好きで、コンシューマゲームをそこそこ作ってきておりそういう意味でモノづくりに関しては僕なんかより知識が豊富で。最初に「皆さんの狂気がこもった作り込みが見たいです」と僕がお願いして開発はスタートしました。

キャラクターについて

キャラクターは使いまわしと言われるとそれまでですが、描き直しはきっちりやりつつ、新キャラクターの追加発注もしていく中で、元キャラのイラストレーターさんと何名かは音信不通になったりもあったけど、全キャラ作り込んでいきました。猫又や河童など中心となるキャラはomさんに引き続きお仕事をお願いできてよかった。犬神担当のicaさんはいつの間にか壁サーの方になってておそるおそるお仕事ご依頼したり、自キャラ描く以外に他キャラのリファインもやってくれた禅さん、描くごとにどんどんうまくなっていった鈴木もえこさん、秘録時代も独特だったけどクオリティが格段に上がってびっくりしたまむさん、ラスボス空亡はマジでこの人でよかったkuroさん、全体のクオリティを上げてくれたてぺさん、、を始めとしてイラストレーターの皆様には本当にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。皆様お元気ですか。

まあ言っても「美少女もの」ジャンルではあったので、適度なエロさ加減は必要としましたが、レイティングとしては映画でいう「PG-12」、少年ジャンプ程度の健康的なエロさ加減を、一応は基準としてチームには求めていました。私見ではありますが、女性が描くエロさと男性が描くそれとは明確に差があり、10段階として男性が4くらいで描くと女性が6くらいで描くのが同じくらいのエロさと言いますか。これ表現できねえな。とにかく中学生男子をドキドキさせつつ、大人の女性が見てもかわいいやん!となるような感じを目指していたかと思います(特にキャラの衣装にそれが顕著だったと思います)。秘録時代はそれはまあGREE(の審査部門)と修正しろだなんだとやんややんややりあっていましたが、Appleさんは超絶厳しいというのもあって当初から随分エロさは控えめにはなりましたね。でもリリース当初は確か「12歳以上」のレイティングで通せたはず。リリース後、割とすぐに18歳以上になってしまいましたが笑。

シナリオについて

メインのライターであった吉上亮くんは、彼もブログで書いているとおり、当社でアルバイトをしていた縁もあって書いてもらっていました。基本的には彼と二人でブレストを行い、ゲームシステムと齟齬が出ない形で大枠をつくった後は、あらすじを書いてもらい、本稿に移るというやり方。テーマとして大きかったのは「妖怪VS文明」で、水木しげる翁が何かの本(※京極夏彦「妖怪大談義」だったはず)で言っていた「電灯がつくようになって妖怪はいなくなった」旨の話から、消えゆく存在である妖怪を残していきたいよな、、という思いから、組み立てていった記憶があります。敵キャラの「利器土(リキッド)」は”文明の利器”からです。全国の民話を調べまくり、それをベースとして全国をめぐっていくという、途中で吉上くんがぽろっと「ロードムービーみたいですねえ」と言っていましたが、全国をめぐって話をきっちりまとめていく難易度の高い作業をやってくれたのには頭が下がります。1章はそんなロードムービーだけど妖怪を守っていく話、2章は民話・物語をベースとして主人公に焦点を当ててその存在を明らかにしていく話と、ここまでが僕と吉上くんのオリジナル、”原作”だと思っています。2章まででこだわったのは地の文の徹底的な排除です。キャラクターたちの台詞回しだけで状況の説明も織り込んで、とにかくテンポよく。”ラノベ風”とは言われるのですが、僕はラノベ自体が文章を読むマンガ的なジャンルだと思っていまして、できるだけコミカルになるようにしました。だって、ソシャゲの文章、みんなスキップするやん?だからといって手を抜くのはよくない。スキップしてもいいけど、あとで読んだらあれ?おもしろいじゃん?てなってくれればよいなあと。そんな思いで組み立てていった記憶があります。実際、ユーザーのお声も「ストーリーがよい」をちらちらと目にしてとてもうれしかったですね。

ボイスについて

「とにかく全妖怪に声をつける」当時でもキャラにボイスがついているのは普通になっていましたが、実際はまあ大変で。部署を通じて紹介いただいた音響監督さんにご予算を伝えてブッキングしていただきつつ、キャラ設定や台本を(吉上くんが)書きまくり、ぶ厚い紙資料を持ってスタジオに通い続ける日々。
実は「メインの猫又は日笠さん」くらいしか僕は決めてなくて、それがちょいミスったなとは思いつつ。途中からはちゃんと部下にディレクション自体はチェックしてもらいつつ、収録に立ち向かっとりました。
釘宮さんや早見さん(空亡の声マジで震えた)、東山さん(犬神は最高のチョイス)とか有名な方はもちろんなのですが、番組にも出ていただいた寺島さん、Twitterでいつもあたたかい声を上げていただいていた五十嵐愛子さん、野崎さん、北森さん、ゆずりさんをはじめとして、出演いただいた声優さんたちにもプレイいただけたりして。ありがたかったです。しかし大沼さん、収録後の飲みが楽しかったですねー!

ゲームシステムおよび「憑依バトル」について

当初は「艦これ」のシステムを参考に全体を組み立てようとしていました。素材の収集→素材を使ったガチャ→キャラの強化→素材集め・・というサイクルをベースにしようとしていたのですが、果たしてこれは、スマホゲームの市場に合うのか?商売が成立するのか?という疑念が途中で生まれ、結果として課金石をベースとしたものにしました。通常の素材ガチャはその名残です。ガチャからの脱却は、当時のゲームクリエイターなら皆夢見ていたものですが、そこに僕たちが挑戦するには、正直力量不足だったし、その判断は間違っていなかったと思います。

もっとも悩んだのが、戦闘システムです。開発が始まっても固まっておらず、ああでもないこうでもない。大事にしたかったのは「操作のシンプルさ」「ランダム性(運)とのバランス」「でもちゃんとプレイヤーが考えて操作している感」ですが、これが本当にまとまらなかった。ベイブレードをモチーフにしたコマバトルとか、今はトップのお屋敷のデッキ表示にあるくるくるを使ったシューティング的なバトル画面とか、いろいろ試して迷って。最終的には当時の部署でクリエイティブを統括していた大プロデューサー(ギャルゲーの神)に「これで行け」と渡されたアイデアを元に今の憑依バトルを組み上げていきました。戦闘中にキャラ同士を合体させて、レアリティをあげていったり、憑依でしか到達できないレアリティを出そうとしたり、、結局「覚醒憑依」は実装できなかったなあ。。

メディアミックス展開について

小説、コミカライズ、サントラなど出させてもらいました。小説は、当時近くにいたラノベの編集部にお願いしまくって出してもらいました。本当は吉上くんに書いてもらいたかったですが彼が多忙すぎたため監修にまわってもらい。めっちゃ序章で続きが出せなかったのが残念でしたが…。コミカライズはWeb連載しつつ紙の本にもしてもらいました。こういうとき出版社ってよいよなあ、と思われがちですが、編集部はそれはそれで出す本が売れないと困るわけで、かなりそこは気を遣いましたね…。しかしながら序章を細かく書いていただけた櫂末高彰先生、コミカライズ後も多く携わっていただいた(同人誌も出していただけてありがとうございました)とよだたつき先生と海産物先生、大変お世話になりありがとうございました!

サントラは、BGMを依頼した会社さんのほとんどご厚意によるもので、よく出せたなと。なぜ犬神だったのか?秘録時代から犬神は異様な人気だったんですね。そこに東山奈央さんが声をあててくれていたこともあり、調整の結果、歌ってくれることになり。運がよかったと思います。BGMやテーマソングを書いてくださったぽりふぉさんにも大変お世話になりました。ありがとうございました。

コラボについて

ソシャゲの寿命を長くするのは正直、他IPとのコラボです。何でもよいわけではなく、アニメ化や映像化などといったタイミングを見計らいつつ、条件交渉を重ねて、いろいろ実現させてきましたが、今はなきハッカドールとのコラボが絵もよかったし話もよかったし、僕としては一番の出来かなと。

運営~配信権譲渡について

開発期間は当初半年で計画していたものの、途中間に合わないので仕切り直し、しかし1年ほどでリリースできました。現在からしてみるととんでもない短い開発期間だな。リリース直後でTwitterだったかな、「エンターブレインクオリティじゃねえぞ?」的な声が一番うれしかったな。近しい友人や社内でも「悔しいけど面白い」「めっちゃまともやん」「丁寧につくってますねー」などなど君ら期待値低すぎやろ的な笑。その後はエンジニアがよかれと思って勝手にアップデートした内容がデバッグ不足で不具合出しまくりだったり、BTSツールがクラックされそうになって開発が思うように進められなかったり、配信番組にたくさん出させてもらったり。闘会議が一番楽しかったなあ。指あるじはお元気かしら。出演した後に会場ぶらついてたけど結局誰にも声かけられなかった笑。あ、そういえばある番組でガチャをやる企画で結果がなぜか強化素材の豆腐小僧が出てきてしまった事件がありましたが、その時は番組用の開発版を使ってのデモンストレーションで、ちょうど開発側でガチャのテストをしていたために起きた事故と。会社に戻ってどういうことやねん!!って怒ったら、「いやあそこでガチャやるって聞いてなかったすよ」と逆ギレされた。で、その後2ちゃんでテンプレ化されるというね。要は確率の数値をいじって「豆腐小僧だけが出る」ようにしていたわけですね。逆にいうと、プログラムがちゃんと動いているというわけですね。本番では表記された確率にそってきっちり動いていたわけでして、でもまあ、言い訳したところで火に油なのでその件については猫又ちゃんにちょろっと言ってもらって、その後は触れないままでしたね。2ちゃん見るたびに苦笑でしたけど。

なんだかんだで苦労しながら、チームの皆血反吐を吐きそうになりながら、運営し続けて、しかしながら会社という組織では予算があり、また他チームのプロダクト如何によってはこのタイトルに部署の予算的な皺寄せが来たりもして、無理にイベントを組まざるを得なくなったり。ちょうどそのころ、何社かからタイトル譲渡の話があり、次のタイトルの企画を考え始めていたのもあって、それはそれでまた長文が書けるくらいいろいろな社内外の調整をした結果、配信権の譲渡という結果になりました。しかしながら、マイネットさんには条件交渉から引き継ぎに至るまで、誠心誠意対応していただけて。今思えばだいぶ無理を言ったな。。僕らよりも遥かに長く運営していただけて。本当に感謝しかありません。

最後に

こんなクソ長いテキスト誰が読むんじゃいと思いながら書いてきたわけですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。そしてここまで読むということは、おそらく百姫たんをかなり愛してくれたあるじの方かと思います。ゲームを、キャラを愛でていただいて本当にありがとうございました。たぶん僕はもうゲームを作ることはないでしょうが、それでも僕と皆さんの人生は続きます。どこかSNSであったり何かのサービスであったりリアルであったりでお目にかかるかもしれませんが、その時はまた。どうぞよろしくお願いいたします。


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