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左利きは右利き用のギターと左利き用のギターのどちらを使うのが良いか。


左利きは、マイナリティ界の最大派閥

世の中に左利きの人がどのぐらいの割合でいるかをネットでざっと調べたところ情報源によって数%から数十%までの幅があって実際にはどうなのか分かりませんでした。私の子供の頃、昭和の真っ只中はまだ左利きを「矯正」しようとする大人も多かったのですが、それでも小学校のクラスに数人は左利きがいたので、今はもっと多いのではないでしょうか。それだけいれば、左利きはマイナリティ界の最大派閥と言っていいと思います。私も生活のほとんどを左利きとして過ごしています。

右利きの人に言ってもあんまり分かってもらえませんが左利きの皆さんはご承知の通り、ハサミや万年筆などの文房具から自動販売機や駅の改札機、マンションや建売住宅のキッチンのレイアウトなど、ありとあらゆるところで左利きは不便を強いられています。基本的に世の中に存在する左右対称ではない構造物は道具だろうが建築物だろうが全て右利きのために作られています。それによる不便の度合いは左利きだと絶対に無理だというものから、ちょっと工夫をすればなんとかなるものまで幅が広いですが。

楽器もそうです。ピアノの低音部が左にあるのは、ちゃんと理由があります。右利きの人にとって自由度が高い右手側に高音部を置いて右手でメロディーを奏で左手で低音部を使って伴奏をするためです。(もちろん複雑な曲は両手を酷使しますが一般論です。)
ギターだって同じです。あの向きになっているのは、右利きが自由度の高い右手を効果的に使うためです。

ギターと利き手

ギターは片手で弦を押さえてもう片方の手で弦を弾くのが基本的な演奏方法です。右利きの人は左手で弦を押さえて利き手である右手で弦を弾きます。
では左利きの人がギターやベースギターを弾くのにはどうしたらいいでしょうか?それについてこれから説明していきます。
なお、以降は特に説明のない場合は「ギター」と言うのはギターとベースギターの両方を指しています。

「右利き用左利き用のどっちでも同じ」は間違い

「左利きは右利き用と左利き用のギターのどっちを選ぶべきか」について、「どっちでも同じだよ」という人が結構います。でも、これは明らかに間違っています。
これを言い出すのは、右利きのギタリストか左利きのギター初心者です。

右利きの人が今まで左利きの悩みをちゃんと理解してくれたことがありますか?ありませんよね。ギターのことを碌に知らない初心者が適切なアドバイスができると思いますか?そんなわけないですよね。あと、言うまでもないですがギタリストじゃない右利きの人の意見には何の価値もありません。

私自身はどうなのか

私自身は最初に書いたように基本的に左利きなのですが、ギターとベースギターについてのみ右利きと同じように右利き用の楽器を使って右利きと同じように弾いています。そうしている理由は、最初ギターを始める際に特に考えることもなくそうしてしまったからです。実のところ、今までに何度か左利きの演奏スタイルで弾けるように挑戦したことはあります。楽器を抱えた感じはすごくしっくりきましたが、継続して練習することなく諦めてしまいました。

それでも長い間ギターとベースギターを弾いてきていますし、ちゃんと弾けるのは右利きと同じスタイルだけですが、左利きとしてのスタイルも試した経験があるので、これからギターやベースギターを始めようとする左利きの人に意見をする資格はあると思います。

左利きのギタリストが苦労することって何?

左利きのギタリストが右利きの人に比べて苦労する点は次の2点です。プロの左利きのギタリストのインタビュー記事を読むと彼ら彼女らも同じことを語っている場合が多いです。

左利き用の楽器が入手しにくい

これは左利き用のギターを使っている人の持つ悩みです。
世間では右利きが圧倒的に多いので、仕方のないことですが左利き用のギターは入手しにくいです。「吊るし」のギターのほとんどは右利き用で、左利き用は大きな楽器店になら何本が展示されているかも、といった具合です。メーカーによって違いはありますが左利き用のモデルは、あっても一部のモデルに限定されていてしかも割高だったりします。さらに中古品やいわゆる「オールド」「ヴィンテージ」と呼ばれる古い楽器はほとんどが右利き用で左利き用に出会うのは非常に困難です。
右利き用のギターを左利き用に改造することもできますが、楽器店や工房に依頼する必要があるため、その分追加の費用が必要になります。(改造の内容は基本的にナットの交換とブリッジの調整ですが、ブリッジの調整はともかくナットの交換は経験の無い素人には無理です。)

右利きスタイルには上達に壁がある

右利き用の楽器を使って右利きと同じように左手で弦を押さえて右手で弦を弾くスタイルで演奏する人の持つ悩みです。
ギターを始めたての頃は弦を押さえるのに苦労するので(特にコード)、最初のうちはどちらかというと右利きスタイルで演奏する左利きの方が普通の右利きの人より上達が早かったりしますが、ある時点で逆転します。
本当のところは弦を押さえる方の手より弦を弾く方の手の方がやることが多いです。ギターなら単音弾きとコードワークがあり、それぞれピック弾きとフィンガーピッキング、両者の組み合わせなどがありますし、ベースならピック弾き、指弾き、親指弾き、スラップ(スラップだけでも色んなスタイルがありますね)と一通りマスターするだけでも大変です。
さらに音楽的な「ニュアンス」をつけるのはどうしたって微妙な動きのできる利き手を使う方が何倍も有利です。これこそが乗り越えるべき「上達への壁」です。左利きのプロプレイヤーのインタビューでも、この壁を乗り越えた際の苦労やその過程で培った独自のテクニックが語られることがよくあります。

それでは左利きはどうしたらいいのか?

2つの観点から見ていきましょう。

演奏面から見た選択肢

演奏面から見た選択肢は次の通りです。

  1. 右利きと同じように左手で弦を押さえて右手で弾く。

  2. 左利きらしく右手で弦を押さえて左手で弾く。ただし、高音弦が上になるように弦を張る。(右利き用のギターをそのままひっくり返した状態)

  3. 左利きらしく右手で弦を押さえて左手で弾く。低音弦が上になるように弦を張る。(左利き用のギターをつく場合は、こちら)

1は上に述べた「上達への壁」にぶち当たりがちです。
2ですが、ちょっと頭の体操が必要なのと演奏方法が若干ユニークになりますが、1よりは3に近く、わりとすんなり習得できると思います。
3は右利きの人とやることは同じなので、まあ普通ですね。

楽器の調達観点から見た選択肢

楽器の調達観点から見た選択肢は次のとおりです。

  1. 右利き用のギターをそのまま使う。

  2. 右利き用のギターを左利き用に弦を逆向きに張れるように改造する。

  3. 左利き用のギターを使う。

1は言うまでもなく一番調達が簡単です。
2も調達に関して1とほぼ同等ですが、追加の費用が必要になります。
3ですが、上にも書いたように金銭面以外でもなかなか大変です。それでも大手メーカーの人気モデルなら左利き用が売られていることが多いですし、何なら金額は張りますが思い切って工房系のメーカーにオーダーメイドしてしまうのもありだと思います。

これまでに書いたことを整理すると次の4つのパターンになります。

整理したパターン

演奏スタイルの観点から見た選択肢

前節の表の3,4は演奏スタイル(弾き手と演奏方法)としては全く同じです。どんな楽器を買うかではなく、どんな演奏スタイルを取るかを軸にまとめ直すと3つのパターンに整理できました。
パターン3の場合は右利き用左利き用のギターのどちらを使うかという選択肢がさらにありますが、演奏スタイルの決定は長年の活動に影響する一方、どんな楽器を使うかはたいした問題ではありません。どちらかに決めないといけないというものでも無いのでレス・ポールとストラトキャスターを両方買うぐらいの感覚で両方試してみればいいと思います。

演奏スタイルで整理したパターン

お勧めのパターン

お勧め順に3,2,1です。
長年右利きスタイルで弾いてきた左利きの私としては、上に書いた「上達への壁」が無い演奏スタイルとして、2,3のいずれかをお勧めします。さらにどうしても右利き用の楽器を使いたいということでなければ、3が最も素直な選択だと思います。その上で左利き用のギターを使うことを基本に考えて、右利き用のギターをもらったとか、どうしても使いたいギターが右利き用だった場合には左利き用に改造して使うと良いでしょう。

左利きプレイヤーの例

パッと思いついた人を挙げているので、めちゃくちゃ有名な人が入ってないとかは勘弁してください。

ギター・プレイヤー

ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)
基本的に右利き用のギターを左利き用に弦を張り替えて使っています。時々右利き用のギターをそのままひっくり返して使っていたこともあるようです。

アルバート・キング(Albert King)、マリーナ・モエ(Malina Moye)
弦の向きだけ右利きと同じにした左利き用のギターを使っています。ギターを始めた時は右利き用のギターをそのままひっくり返して使っていたのでしょう。

マイケル・アンジェロ (Michael Angelo Batio)、ニール・ショーン(Neal Schon)
主に右利きのスタイルで右利き用のギターを使っていますが、左利き用のギターも弾けます。二人ともライブで一つのボディから右と左にネックが飛び出たダブルネックのギターを弾いたことがあります。(演奏中に左右スイッチしたり両手でタッピングしたりします。面白い演奏なので、ぜひYouTubeなどで探してみてください。)

松崎しげる
ギタリストと言うより歌手のイメージが強いですが、この人も右利き用のギターをひっくり返して使っています。日本ではこのスタイルを「しげる弾き」と言ったりする人も多いので載せておきます。

ベースギター・プレイヤー

Sonny T.
Cory Wongのバンドにいる人です。右利き用と同じ向きに弦を張った左利き用のベースギターを使っています。

ハマ・オカモト
この人は右利きですが、趣味で左利きスタイルでのベースを練習していました。現在もこの趣味が継続しているのかは把握していませんが。面白いので載せておきます。

リソース

Fender 左利き用検索結果

デジマート 左利き用検索結果

左利きの道具店

追記

2024/2/10 表の誤りを修正するとともに説明を更新して分かりやすくしました。

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