世界で一番自分に意地悪なのは、内なる自分。

 夫に不倫された。これでかれこれ7回目だ。
 ただし、夢の中で。

 不倫なんかされて嬉しいわけはない。しかし夢の中の私は、夫の不貞姿(しかもこれが生々しくてえげつない)を眼前にしながら、怒鳴ることも、割って入ることもできず、いつもただ眺めているだけなのだ。なぜか、自分には、怒鳴る資格も、割って入る資格もないような気分になるのだ。私はれっきとした彼の妻で、彼の不倫を咎める権利を世界中の誰よりも持っている人物のはずなのに。

 話が変わるが、最近の私は育児に疲れていた。ある日疲れと不満が爆発し、泣きながら夫にそれをぶちまけることになってしまった。
「育児が辛いとか、言っても仕方ない愚痴かもしれないけど、『めんどくせえ女だな』って思われてると傷付くの」
「僕、そんなこと一言も言ってないでしょ」
そう切り返されて、はたと気づいた。
 確かに、そうなのだ。彼に「めんどくせえ女だな」なんて言われたことないどころか、夫は毎度私の愚痴を文句を言うこともなく聞き流してくれている。なぜ私は、夫が私のことをそういう風に感じていると、思い込んでいたのだのだろうか。
そう、この「めんどくせえ女だな」は、夫本人の言葉じゃない。夫の仮面を被った、内なる自分の言葉なのだ。

 家事や育児は夫婦で分担して然るべきと頭ではわかっているが、心では、自分が全てするべきだと思っているのだ。だから、夫が皿洗いやゴミ出しをしてくれると、自分がそれらをできなかったことがいちいち罪悪感になって蓄積する。罪悪感が蓄積している状態は、夫の仮面を被った内なる自分に「はあ、俺の方が仕事して疲れてるのに、なんで家に帰って来てまで尻拭いしなきゃいけないの。お前は育児を言い訳にするほど何もしてないだろうが。」とずーっと責められている状態。だから、しばらく経つと耐えきれなくなって「お皿もゴミも私はそのままでいいから、一人になりたい…夫がいると(責められてる気がして)疲れる…」と感じるようになる。
そして、疲れと不満が爆発=夫に理不尽に逆ギレしてしまったのだろう。

 そのことに気づいて合点がいったのだが、冒頭の夫の不倫(in私の夢)を怒れなかったのも、内なる自分のせいだと思う。
「情緒不安定なメンヘラ女、しかも元々対して綺麗でもないのに、結婚してから女も捨ててるもんね。そんなお前を好きになる男なんているわけなくない?」「女は落ち着きがあって、それでいて明るいのがいい。そして当然、美人がいい。そうでないお前は、女として妻として価値がない」。だから「浮気されても仕方ない。そんなお前に夫の不倫を諌める権利はない」と、こういうわけである。
 どの言葉も、誰かに直接言われたわけじゃない。内なる自分の、意地悪な価値観なのだ。

 内なる自分は、夫以外にもありとあらゆる人の仮面を被って私を責め立てる。
 自分と仲良くしてくれる素敵な人達と会い、楽しい時間を過ごしても、人々の仮面を被った内なる自分が、「調子に乗るな。皆さんお優しいから、お前の前では嬉しそうにしてやり過ごしてくれるだけ」「本当はお前なんかが会いにきてもだるいなーと思ってるよ」と囁く。

 こうして内なる自分の存在に気がつくと、いかに彼女が執拗に私をいじめ、自信を喪失させているかがよく分かりゾッとした。今後じっくり、彼女と共存していく術を模索する必要がありそうだ。。

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