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「恁麼」大坪命樹著。

 この本は、大坪命樹が青年期に書いた「鞭と人参」や「眼」をみずから読み返して、このような文体も捨てたものではないと再認識し、五十路に成ってから改めて、同じような文体で描いて「アブストラクト小説」と名付けた短編の小説集で、「恁麼」と「螺旋の拈り」が収載されています。前者は文學界新人賞、後者は群像新人文学賞に出しましたが、いずれも一次選考すら通りませんでした。それを以て駄作とするのはあまりにも情けないので、読書愛好家の方々にも是非一読して戴きたく思っております。現在の文壇が、本当に芸術的な作品を選んで受賞させているのか、メディアの多様化で弱くなっている日本文学に未来はあるのか、そういうことに一考を迫るだけの内容です。ぜひ、良識のある方、あるいは、自分の読書眼に自身のある方、ここに「恁麼」の冒頭があるので、御自分の目でお確かめ下さい。
 なお、「恁麼」とはインモとよび、中国の禅僧の言葉で「それ」を意味します。「それ」とは、概念上のものではなく、あなた方の目の前にあるその「それ」という意味であり、つまり「現実」そのもののことで、道元禅師は著書「正法眼蔵」の中で、「恁麼」に「仏」の意味を与えています。「それ」が何故仏かと言えば、一埃一塵の中にも五百万億の仏国土が荘厳されている毘盧遮那仏即ち大日如来が大宇宙そのものであるからです。そういう華厳経から流れて真言密教から更に禅宗に影響を及ぼした仏教哲学が、この小説の背景にあります。その哲学を、この珍妙な抽象小説に汲み取って戴けたら、その人は僕の小説の大変優秀な理解者です。
 そこまで、判って欲しいとは思いませんが、何かしら感じて欲しいです。このおかしなアブストラクトに、何も感じない人は、かなり悲しい人だと僕は思います。ぜひ、試し読みしてみて下さい。
 本は、アマゾンで売っております。よろしければどうぞ。
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