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お前の██に████の██を


【特集】葬られた闇……この学校に伝わる怪談話「きれいな本」


あなたは、「きれいな本」と題された
本校の怪談話を知っているだろうか。


筆者も寡聞にして詳細は
知らないものの、例えば
「トイレの花子さん」や
「口裂け女」などの、
有名な怪談話とは異なる、
恐らくはこの学校固有の噂である。

一見しただけでは、
怖い話であるとすら
判別できないようなタイトルだが、
この名付けには恐ろしい言い伝えがあるのだ。

いま筆者が筆を執っている新聞部、
その向かい側に部室を構える文芸部が、
この話の舞台である。

この記事を読んでいるような
読者の皆様であれば御存知の通り、
文芸部には「部誌」の文化が根強い。

文化祭の時期と入学式前後の時期、
おもに年に二回のスパンで、
各部員が寄稿した小説や詩歌、
随筆などを集め製本する。

刊行スパンこそ違えど、
この学校が合併する前から存在した
文芸部の伝統がほぼそのまま
受け継がれているため、
歴史は他の部活と比較しても長いそうだ。

そのため、部室のロッカーには、
ある年代(校舎移転のさらに前だそうだ)
からの「部誌」が多数集められ、
そして刊行ペースが年に一度から
二度に変わった今となっては、
年二冊のペースで増え続けている。

年に二回という方針変更が
始まったのはここ四、五年の話であるが、
先述の歴史を鑑みれば
その蔵書冊数はそれなりに多いであろう。

筆者がいちど六月の企画(合同特別記事)
の関係で部室にお邪魔した際に
その蔵書棚を見せていただいたが、
それは筆者が軽く見積もっていたものを優に超えていた。

図書準備室にあるような
重く背の高い本棚、それが複数個
ぴっちりと設置されており、
がらがらと金属製の扉を横に開くと、
中で何十冊という分厚い部誌が
ずらりと並んでいるのが垣間見えた。

「ちゃんと戸を開ければ、
まだ中にあるのが見えますよ」
とは副部長の談。

そんな、ロッカーの奥深くで
埃を被っている何冊もの部誌。
そのどこかに人知れず眠っている
不気味な本の噂こそが、
表題の「きれいな本」なのである。

本の内容として伝わっているのは、
非常にシンプルなものである。

そこにはかつての部員が残した
恐ろしい文章が書かれており、
あまりの恐ろしさから
気分を悪くする生徒が続出した。

そのため当ページは特殊な方法で
「封印」が施され、普段はまず
開けることのないような本棚の
奥深くに収蔵されたそうだ。

あまりにも恐ろしいという理由で
生徒たちに精神的な影響を及ぼす、
という奇異な噂が話題を呼び、
局地的な「学校の怪談」として
現在まで一部で語り継がれていると。

では、なぜそれが、
「きれいな本」などという通称で呼ばれているのか。

この点に関しては現在、
さまざまな考察がなされているが、
その中でも特に有力なものを以下に示す。

実はその理由は、
ここまで語ってきた文芸部の
前提知識にも関わってくる。

先述した通り、当文芸部には
長い歴史があり、それに伴って
たくさんの古い部誌や同人誌も、
蔵書棚の奥深くで文字通り埃を被ってきた。

埃を被った部誌とは
それだけ古い時期に製本され、
時代が下っていくとともに
ロッカーの隅に追いやられた
ものであることを意味する。

そして、この本の通称は「きれいな本」。

その名の通り、
「埃を被った古めかしい蔵書の中でも、
ひときわ綺麗である」ことが、
この名前の由来に関する有力な噂である。

それはつまり。
比較的最近に製本されたが、
何らかの理由でロッカーの隅の
奥深くに追いやられた部誌である

と考察できる。

少なくとも合併前の本校が開校した頃とか、
昭和何十年とか、
そういったレベルで遡る必要はないであろう。

そこで今回、夏の特集連載記事として、
全三回にわたり、
この「きれいな本」に関する噂を
検証しようと思っている。

文芸部の方々に協力いただき、
実際に蔵書棚を調べつつ、
この怪談が広まるに至った経緯と
曰く因縁を紐解いていきたい。

次回の更新は二週間後[※次の記事の下書きが上がり次第日程感を聞いておく]を予定している。

このサイトを見ている方々の中に、
もし何かご存知の方がいれば、
どんな些細なことでも良いので、
お近くの新聞部員まで声をかけてほしい。
(文責:高松)

高松さんへの聞き書き記録


ええっと、何処から話せばいいんですかね。

あ、名前?
ああそうか、まずは簡単に
答えられる質問からしていって
緊張をほぐそう、的なやつですよね、それ。

僕も顧問の先生から、
取材のやり方がどうのって
教えてもらいました。

██高校新聞部、副部長の
高松啓登(けいと)です。

「きれいな本」に関する、
例の記事を書きました。

あの記事、最後の方にも
書きましたけど、僕が色々
聞いて回る予定だったんで。

自分がなんか聞かれる立場に
なるとか思いもしなかったっすけど。

まあ読んでいただいたなら
わかると思いますけど、
うちの学校には学級新聞があって。

昔はちゃんと新聞として、
なんかでっかい紙に手書きで
毎月作ってたらしいんですけど。

うちの姉ちゃんの代から、
パソコンのwordで文章を
流し込んで印刷する形式に変わって。

例の病気が流行しだした
あたりからはああいう風に、
新聞部専用のウェブサイトに
移行するようにもなりました。

まあ学校ではスマホ見るの
禁止だから、学校に配る用の
ぺら紙も一応作るんですけどね。

ほとんどサイトページを
そのまま取り込んで、
印刷しただけに近いやつ。

いや、確かに最初は、
うちの学校の公式サイトに
バナーでも貼り付けてもらうか、
って話もあったんすけど。

保護者ですら学校の公式サイトとか
ほとんど見ないからって、
こっちが断って。

むしろこっちが自前で、
ジシュテキにやってるって
感じを見せたほうがいいなってことで、
基本的には、同級生の
インスタとかに回していってます。

もちろん、こういう記事見せますって
いうのは顧問にも事前に確認取りますけどね。

割と、部活の内輪でやってる
ことにしては、なかなか
反応いい方だと思いますよ。

それこそOBの人が、
記事中にある学校の写真とかを
懐かしいってシェアしてくれたりしてて。

更新頻度で言えばうちの学校の
サイトより高いわけですしね。

はい、前からパソコン環境は、
wordとかパワポとか使って
コピー機にデータ送るための
ものがあったので。

それをサイト更新用に流用した。
って感じっすね。

先生も昔パソコン部で
同じようなことしてたらしくて、
意外と話は早かったです。

一応の文章チェックもやりはするけど、
どっちかというと、
生徒の個人情報がどうの、
写真のプライバシーがどうの、
っていう方面で厳しかったから、
内容に関しては比較的するっと通してくれましたね。

だからこそ、あの時は
僕たちもよく覚えてて。

まさか先生から初めて内容で
ストップが入ったのが、
「学校の怪談」に関する
記事だとは思ってなかったから。

夏休みで更新を空ける前に、
折角だから大きめの記事を
ひとつ上げたいねっていう話は、
前々からしてたんすよね。

先生たちもそれ自体は
許してたっていうか、
まあやればいいんじゃない、
って感じにノータッチで。

そこで、夏といえば納涼だ、
怪談だみたいなよくある連想ゲームで
企画を走らせたんです。

夏に向けた特別な特集記事を
組むために、この学校に関する
変な噂を調査しようと。

一応、七不思議とまでは
いわないですけど、僕たちも
名前を知ってはいたんですよ。

「きれいな本」なんて名前の
噂があって、それが文芸部に
関連してるらしいってことくらいは。

で、この学校の新聞部と文芸部って
割と仲良くて。

確か合併で校舎が移転する前は
そうでもなくて、普通ぐらいな
関係だったんすけど。

移転後の学校で部室が
近くになったことがきっかけで、
六年くらい前からは仲良く
なったらしいんですね。

それでお互いに会って話す機会が
単純に多くて、新聞部の連載小説を
文芸部の人たちにお願いしたことも
あったから、すんなり協力のお願いは通ったんです。

そんなふうに外堀が埋まって、
よしじゃあ本格的に記事を作っていこうとなって。

その時点で五月の後半で、
七月二十一日からが
夏休みなんで、うちの高校って。

だから、だいたい六月の
後半くらいから連載を始めて、
週一更新で三回分くらい
記事を出せればいいかな、
と大まかにスケジュールを作ったんです。

実際に色々調べるパートは
時間がかかるとしても、
最初のパート──ああ、前に
共有して読んでもらったやつのことです。

実はうちにはこんな噂が
あるんだって説明する部分。
そこの記事は早めに書いて
出せるから、今ある情報とか
なんとなく先輩たちに聞いてみた
情報をつぎはぎして、
ひとつの記事にしたんすよね。

やってることはほぼオカルトだから、
逆にかっちりした文章の方が
それっぽいかなって思って、
あえて言葉遣いを堅苦しくしてみたりして。

そんな風にあらかた記事が完成して、
じゃあもう最初の記事は
早めに出しちゃってもいいか、
って部内でも意見がまとまったんで。

ほら最後の方、読者にも
情報求むって内容だったじゃないですか。

それなら特集第一回だけでも
早出しした方がいいかってことで。

それもそうだなって、
いつもみたいに完成稿を、
顧問の先生に提出したら。

すぐにその記事の連載をやめろって言われたんすよ。


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